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柚貝三矢編
『訳あり』の成れの果て
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「ここら辺で電話ってどこにあったかな……。あ、学校で借りればよかったのか」
しまったなあ、と卜部は間抜けな自分に後悔するが、今はひとまず後回しにした。
柚貝は、昨日の帰りぎわに、校門を出て右手に進んでいったのを覚えている。
であれば、効率的なのは、右に進みながら電話を探すことになるだろう。
思わず、卜部は駆け出していた。
校門を出た右方向は、進んだことのない、見知らぬ道だった。
普段は学生が通っているだろうその道は、緩く下った坂道になっている。
脇には葉桜並木がずらっと、坂の下まで続いている。
隆々とした枝と青々茂る葉が、道に落ちる眩しい日を遮っていた。
新学期に合わせて転入していたら、桃や白の美しい桜並木を目にできただろう。
(柚貝にもっと早く出会えていたら……四月十一日より前から知り合っていたら……。何かが違ったかもしれないのに)
もうすぐ夏が来るからだろう。やたら身体に熱を感じる。卜部は流れた汗を拭う。
それでも、考えていた。柚貝の身に起こったことが何なのか。解決方法は何か。
(『柚貝三矢』姿は左右反転し、ばらばらの身体。そして、『Y.Kazumiya』とサインされた絵を描いていた。ここから考えられるのは……)
名前もばらばらになっている。そう考えるのが自然で、しっくりきた。
『ゆずかいみや』を並び替える。
『Y.Kazumiya』これに当てはまりそうな名前は一体、なんだろうか。
卜部は少しの間、走るのを止める。膝で、はあはあと荒い息をつく。
(『かずみや ゆい』これが、柚貝の元の名前だろう。ようやく分かった……)
それでも、まだいくつか疑問が残っている。
誰が、どの鏡を使って『かずみやゆい』を『ゆずかいみや』へと変容させたか。
卜部の見立てでは、『生霊』の仕業が濃厚と思っているが、『呪い』の線もある。
(あともう少しのはずだ……)
もうすぐ、この『心霊現象』は終わる。
でも、『柚貝 三矢』が『かずみや ゆい』に戻ったら、昨日話していた女子は、どこに行くのだろうか?
卜部はまた、足を止めてしまった。『霊を侮るな。安易に関わるな』父の言葉だ。
(まずいな……。変に感情移入なんてすると、俺が取り込まれてしまう)
『心霊現象』には、順序だった論理的な説明なんてありえない。
ただ有効な対処法があるだけだ。淡々と、粛々と、やるべきことをやる。
死者にしろ、生霊にしろ、幽霊としてこの世に残るには、相応の理由がある。
恨みか、後悔か、望郷か、寂寥か。何が理由かは分からない。
霊は『訳あり』の人間たちの成れの果て。そう思えば、同情なんて禁物だった。
しかし。
(出来るだろうか……。柚貝相手に)
汗が嫌な冷たさに変わるのを感じながら、卜部は無理やり足を動かした。
しまったなあ、と卜部は間抜けな自分に後悔するが、今はひとまず後回しにした。
柚貝は、昨日の帰りぎわに、校門を出て右手に進んでいったのを覚えている。
であれば、効率的なのは、右に進みながら電話を探すことになるだろう。
思わず、卜部は駆け出していた。
校門を出た右方向は、進んだことのない、見知らぬ道だった。
普段は学生が通っているだろうその道は、緩く下った坂道になっている。
脇には葉桜並木がずらっと、坂の下まで続いている。
隆々とした枝と青々茂る葉が、道に落ちる眩しい日を遮っていた。
新学期に合わせて転入していたら、桃や白の美しい桜並木を目にできただろう。
(柚貝にもっと早く出会えていたら……四月十一日より前から知り合っていたら……。何かが違ったかもしれないのに)
もうすぐ夏が来るからだろう。やたら身体に熱を感じる。卜部は流れた汗を拭う。
それでも、考えていた。柚貝の身に起こったことが何なのか。解決方法は何か。
(『柚貝三矢』姿は左右反転し、ばらばらの身体。そして、『Y.Kazumiya』とサインされた絵を描いていた。ここから考えられるのは……)
名前もばらばらになっている。そう考えるのが自然で、しっくりきた。
『ゆずかいみや』を並び替える。
『Y.Kazumiya』これに当てはまりそうな名前は一体、なんだろうか。
卜部は少しの間、走るのを止める。膝で、はあはあと荒い息をつく。
(『かずみや ゆい』これが、柚貝の元の名前だろう。ようやく分かった……)
それでも、まだいくつか疑問が残っている。
誰が、どの鏡を使って『かずみやゆい』を『ゆずかいみや』へと変容させたか。
卜部の見立てでは、『生霊』の仕業が濃厚と思っているが、『呪い』の線もある。
(あともう少しのはずだ……)
もうすぐ、この『心霊現象』は終わる。
でも、『柚貝 三矢』が『かずみや ゆい』に戻ったら、昨日話していた女子は、どこに行くのだろうか?
卜部はまた、足を止めてしまった。『霊を侮るな。安易に関わるな』父の言葉だ。
(まずいな……。変に感情移入なんてすると、俺が取り込まれてしまう)
『心霊現象』には、順序だった論理的な説明なんてありえない。
ただ有効な対処法があるだけだ。淡々と、粛々と、やるべきことをやる。
死者にしろ、生霊にしろ、幽霊としてこの世に残るには、相応の理由がある。
恨みか、後悔か、望郷か、寂寥か。何が理由かは分からない。
霊は『訳あり』の人間たちの成れの果て。そう思えば、同情なんて禁物だった。
しかし。
(出来るだろうか……。柚貝相手に)
汗が嫌な冷たさに変わるのを感じながら、卜部は無理やり足を動かした。
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