冒険者はスライムにおちる

metta

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15 スライムにおちる

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 そんな最中、複数で赴いた大型魔物の討伐依頼の時の事だった。
 外殻の硬い魔物の群れと混戦乱戦で、サルファとグレンは離れた場所で戦っていた。自分の方の片がついたサルファがグレンの方を見ると、組んでる人間との連携がよくないようで、かなり苦戦している。
 魔物は攻撃体勢に入っていた。足手まといになってる奴が被弾するなと思ったサルファは、間に合わないとは思っていたものの、一応手助けに向かおうしたが――
 グレンがほんの一瞬顔を歪めて、すぐそれを消した。
 そして次の瞬間――グレンは魔物との間合いを一気に詰め、頭に向かって迷いなく刀を突き刺した。苦し紛れに叫びながら刀ごとグレンを持ち上げた魔物の頭は爆ぜ、ぐらりと背から傾いていく。
 魔物は倒れ、立ち上がったのはグレンだけだった。見れば刀の柄だけを握っている。
 他の人間は適当に「やったな!」とグレンに声を描け、無事に魔物を討伐出来たことばかり喜ぶ。礼を言うこともせず、労う事もろくにせず。大事な刀を折ったグレンの様子を気にも止めはしない。サルファはこの場にいる人間を心のブラックリストに入れて、グレンの元へ向かった。 

「……お疲れ。馬鹿共はほっといて、早く鍛冶屋に行こうぜ」 
「行っても無駄だ。直せる奴がいない」

 グレンは首を横に振って、魔物の目から折れた刃を抜き取った。引き抜いた刃を丁寧に丁寧に拭き取って、布で幾重にも包んで鞄に仕舞った。

「……危なかったのは自業自得なんだから、放っときゃ良かったのに」
「馬鹿か。武器と人命なら、人命が大事だろうが」

 神経を疑うとでも言いたげな表情のグレンだが、言葉にいつものキレはなかった。

「……『刀は役目を果たした時に折れる』と親父から聞いたことがある。だからこれが、この刀の、最後の役目だったんだろう」

 淡々とそう言って折れた刀の破片を拾うグレン。サルファは「ああ、こいつは結構呑み込むタイプだったんだな」と思った。
 自分とのやり取りは何も取り繕ってはいない、そのままをぶつけていたんだと思った瞬間――もう駄目だった。
 グレンが自分に恋愛感情を抱くようなことはないだろう。でもそれは都合がいい。恋愛感情そういうものより、飲み込みがちなグレンが、悪態をつきながら何でも言える相手でありたいとサルファは思っていた。
 そしてなるべく目を離さないでおこうと考えたサルファはそれ以降、単独で依頼を受ける時以外は、全体が見渡せるよう、なるべくグレンのサポートに注力できるよう、魔術のみで対応するようになったのだった。
 
 +++
 
「好きなように好きなことを言える相手もいた方がいいだろ? 俺はそういう立ち位置で、あいつとずっと付き合ってくつもりだった……んだがなぁ」

 こういう奴の方が、気を使わずに言いたいこと言えるだろうとサルファは考え、それを一生続ける気だった。
 そのつもりだったのだが。
 こんな事態になったからには、他の奴にその立場を譲る気は一切なかった。

「まあ、こういう風に振る舞いすぎて今更な」
「いやそれあんた絶対元々の性格だろ……好きな子をいじめる子ども」
「本当の餓鬼がよく言うねえ。ぴぃぴぃ可愛いだけだぞ、ひよっこ」
「こんの……!」

 揶揄いに食って掛かろうとしたエイルだったが、何かに気づいてはたと止まる。

「――なあ、あんたグレンさんの事がずっと好きだったんだろう? じゃあ何で僕をグレンさんのもう1人の相手に選んだりなんかしたんだ?」

 エイルは確かに、サルファに言い当てられた通り、グレンに対して、格好いい先輩冒険者だと、尊敬出来る相手だと、それにほんのりとした恋愛感情を上乗せしたものを抱いていた。ただそれは、一目惚れに近いような感覚で、サルファがすっと思い抱いていたような重さはないと感じる。そう考えれば、他にももっと都合のいい人間がいたのでは、と不思議には思った。

「ま、1人じゃ足りないってなった時、あいつが気に入ってて且つ、条件を満たしそうなのが、お前しかいなかったからな」
「条件って何だよ」
「それは俺から手加減なしで1本取れなきゃあ、教えられないなぁ」
「ぐっ……」

 手加減なしという事は、魔術も含めた戦闘という事であり、剣のみですら1本も取れない今のエイルには到底無理な話である。

「……絶対すぐ取れるようになってやる。首を洗って待ってろ」
「おー怖い怖い! まずはさっさと級を上げるとこからな」
「お望み通りすぐに上げてやるよ」
「……お前ら何してるんだ……喧嘩はやめろ」
「おっ!おかえり」

 睨むエイルをサルファが揶揄っていると、騎士団へ定期報告に行っていたグレンが帰ってきた。呆れた物言いは変わらずだが、少しだけ、丸みを帯びた気がしないでもない。

「可愛いひよっこに、剣の稽古をつけてやったんだよ」
「エイルの顔……どうせまた揶揄って遊んでたんだろう」
「いえ、稽古は本当です……もっと鍛えます」
「そうそう。精進したまえ」
「あんたはもう黙れ」

 こいつもやっぱ面白い。
 グレンに懐きながら、自分にきぃきぃ噛みつくエイルに、自分の勘も、なかなかいい仕事したんじゃないかとサルファは思う。
 
 エイルを選んだのははっきり言って偶然だ。
 知り合いの魔術師から「多分1人じゃ足りないと言われた」とグレンから聞いた時、サルファは体格差や精力的に自分1人でも何とか供給は足りると踏んでいた。しかし今はよくとも、それはそのうち加齢によって衰える。そして死ぬつもりがあろうがなかろうが死ぬときは死ぬ。こういう稼業なら尚更のこと。
 そうなった時に、意外と人見知りでお人好しのグレンが、まともな相手を探すのはきっと苦労する。それなら自分が見繕って仕込んでおいてやろうとサルファは考えた。

 まず自分より若いこと。
 グレンや自分と同等より強い、もしくはそうなる伸び代があること。
 底辺ではなく、そこそこの教育を受けていて、いざとなればそちらの伝手を使えること。何よりグレンを好いていて、そのためにそれを使う判断が出来ること。

 奇しくも条件を満たしそうな人間がいた。出会って日は浅いから気持ちはまだ追いついていないが、グレンがこうなった一旦はこいつにもある。その負い目と責任感に加えて、気になる相手の痴態をチラつかせて引き込めば、若いエイルはすぐに落ちた。なかなか我ながら上手くやったものだとサルファは自画自賛していた。

「そんな事より……バレたかもしれない」
「マジか」

 ギルドは一応独立した組織だ。だから犯罪を犯しているような場合は別として所属者の情報を勝手に開示したりはしない特にグレンに対しては管理不行き届きで巻き込んでしまった負い目も一応はある……はずだが。

「その点は何よりグレンが真面目で何だかんだギルドのクソみたいな依頼を受けてやったり手伝ってやったりも大きいだろ」
「日頃の行いを見てもらえるのはありがたいが」
「けどまあ、それも今後は分かんねぇがな。騎士団が本腰入れちまったら犯罪に関与したとか保護対象だとかなんぼでもでっち上げはできるからな」
「冒険者の口にも戸は立てられませんしね……」

 さあ、これからだぞ?
 頑張ってくれたまえ。控えの騎士ナイトくん。

「何か言ったか?」
「いいや、何にも?」

 とにかくこれからも退屈はしそうにない。グレンの不運は気の毒だが、役得ではあった。

「おっしゃ! そういう事ならさっさとおさらばしようぜ!」
「おい声がデカい!」 

 自分はとうの昔に落ちている。
 あとはその半スライムの体質が治る前に、グレンを落とすだけだ。
 それにこのひよっこがどこまで食い込んでくるかなと、怒る2人を見ながら、サルファは楽しげにひとりごちたのだった。
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