冒険者はスライムにおちる

metta

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19 刀鍛冶

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「ふぅん、なるほどな。なら……その鍛冶師の所に案内してくれ」
「え、でも。大丈夫なんですか」
「流石にもう動けるくらいには回復している。俺が思うに、いくらなんでもそんな話を持ち掛けた直後に盗みに入るなんてしないと思うし、サルファも分かってると思うが、念のためな」

 可能性がないわけではないが、少年が犯人というのはさすがにないだろうというのには、エイルも同意だ。エイルはグレンを連れて、急ぎ鍛冶師の元へ再び向かう。

「――あっ、あんた! 兄ちゃんを連れて来てくれたのか!」

 相変わらず鎚の音が五月蝿く響く中、エイル達とすれ違いで戻ったらしい少年が、グレンの姿を見て嬉しそうに笑う。その様子に嘘や後ろめたさはなさそうだがそれが正しいかどうかはまだ分からない。

「さっきぶり。僕と一緒にいた金髪の男は来ていないか?」
「ううん。来てないけど」

 ならサルファは一体どこへ行ったのか。そしてこの少年は白なのか黒なのか。そう警戒するエイルの肩を、グレンが落ち着けと言わんばかりに優しく叩いた。

「大丈夫だ。雰囲気は似ているがこいつじゃない」
「そうなんですか?」
「ああ。恐らくだが、もう少し背が高い」
「何の話?」

 首を傾げて不思議そうにしている少年。ただ、犯人でないにしろ東国関係のコミュニティ等、この少年を辿って当たれそうな場所があるかもしれない。そう考えたエイルは、少年に簡単に経緯を説明した。

「……盗まれた?」
「ああ、黒髪黒目の子どもにな。ただ、僕らは君ではないと思ってる」

 話を聞くうちにみるみる難しい顔をする少年。その様子に、何か心当たりがあるなと2人は確信していた。

「……ちょっと待っててくれる?」

 難しい顔をしたまま少年が工房の奥へ引っ込むと、辺りを震わせていた鎚の音が鳴り止む。手ぬぐいで汗を拭きながら出てきた鍛冶師は、エイルとグレンを見るなり深々と頭を下げた。

「……兄さん方、申し訳ない。犯人は恐らく儂の孫――こいつの兄だ」
「――兄?」
「この辺りで黒髪黒目は、俺らしかいない。あんたらの事、兄ちゃんも一緒に見てたし……俺は声を掛けたけど、兄ちゃんはついて来なかったから」
「兄貴は戻ってきてないのか」
「あんたらに声を掛けてる間にどっか行っちゃって……」
「最近反抗期も入っていて、悪餓鬼どもとつるんでいるところを捕まえて引っ張って来た事も何度かある。戻ってきたら捕まえて連絡するから、結果次第ではあんたらの好きにしてくれ。刀は何とか探して返すようにする」
「……刀なんか弁償できる金……」

 深々頭を下げる鍛治師の隣で少年が困った顔をしている。「まず謝れ」と鍛治師が頭を掴んで下げさせた。

「身内の不始末なんだから、出来る出来ないじゃない。儂らがやらにゃならん事だ」

 少年は俯いたが、鍛治師はぴしゃりと言い切る。
 そうは言っても鍛冶師と少年、そして工房の様子から見ても、決して儲かっているとは思えない。そもそも材料が仕入れられなくて一から刀は打てないと言っていたくらいだ。本当に金はないのだろう。
 エイルは何をどう言えばと言葉に迷う。しかしそんなエイルを尻目に、刀を盗まれ気を使われている当人のグレンは、がさがさと自分の鞄を漁っていた。

「なあ爺さん、これを元通り打ってみてくれ」
「えっ」

 グレンはおもむろに折れた刀を鍛冶師の前に差し出す。すると鍛冶師は刀を見て一瞬目を輝かせたが、すぐに顔を曇らせてしまう。

「……悪いが、一度折れちまった刀は元通りには出来ん。ただ、これなら根元で比較的綺麗に折れているから、脇差という少し短い刀にする事は出来る」

 つまり結局この刀を完全に直す事は出来ない。
 エイルはグレンに申し訳なく思った。しかしグレンは何故か口元を綻ばせている。

「それでいい。頼む」
「いいんですか!?」
「死んだ親父から聞いた話だが、折れた刀というのは元通りには直せないものらしい。ただ折れ方によっては短い刀に生まれ変われるんだとさ。この爺さんはただ直せないじゃなくて、脇差に出来ると言った。という事は、この爺さんが刀を打つことが出来る鍛治師なのは間違いないだろう」
「親父さんの教えはあっとるよ。これ、形見か」
「ああ。盗まれた方もな」
「……心して打たせてもらう。孫はここに戻ってきたら、必ずあんたらの所に連れてく。好きにしてくれ」

 本当にいいのだろうか?
 言葉に出す事なく見つめると、グレンは困ったように小さく笑う。

「どうせこっちはこのまま持っていても使えないし、失敗されたとしても、消えてなくなるわけじゃない。もう片方の刀もサルファもどこ行ったか分からないし、エイルはあいつを探してくれ。どうせお前達で取り返してくれるんだろう? 何度も言うが、そもそも半分はお前らのせいだからな」

 そう言って困った顔から挑発するように、にいっと笑う。何だかサルファのようだ。しかし面白くないとは思わなかった。

「俺はこの爺さんの仕事ぶりを見させて貰っているから、頼んだぞ」
「……はい!」

 刀泥棒に遭ったのは災難だが、刀鍛冶は見つかった。あとは刀さえ取り返せばいいだけだ。
 エイルが「任せてください」と力強く返せば、グレンは「任せた」と言って笑っていた。


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