悪役令嬢の子

metta

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幕間:砂糖より甘い

04

「ウィス! キース! 今戻った。私も入って構わないか?」
「お帰りなさい父上、もちろんです! 先に帰ってしまって申し訳ありませんでした」
 話は大体聞いたが詳細を、と言いながら凍った果物とお茶を持ってプールに来た祖父に事の次第を最初から説明していく。
「っふ、ふふ……――――あはははは!!」
「どうされました!?」
 アイスコーヒーを飲みながら突然笑いだした祖父に驚くと、すまないすまないと水を掬って顔に掛けて謝りながらこちらを向く。
「……フィオナが似たような事をサディアスにしていたのを思い出してな。あれは見事な平手打ちだった」
「そうなんですか?」
「え、フィオナ様がですか?」
 キースの記憶している祖母は祖父の事を愛している、いつもにこにこと穏やかなお姫様、といった感じらしい。人を叩くなんて、ましてやあのスワルド元公爵をなんて想像がつかないそうだ。
「そもそもウィスほどくるくると表情が変わったり感情的になる印象はないです」というキースの発言に、これはどういう意味かと内心首を傾げながらアイスティーを口にし、半解凍のマンゴーを口に放り込む。ねっとり味が濃厚で美味い。
「はは、実は若い頃のフィオナとウィスはかなり似ている。そういう意味でもキースと私も恐らく似ているんだ……あとリリアーナも。ウィルフリード殿下も今でこそ大人になられたが、昔はどちらかというとお前やフィオナ寄りの性格だったからな」
「意外……」
 父は王位の問題やリリアーナの事件で、変わらざるを得なかったのだろう。ま、でも王族から外れて無事結婚して今はただ娘にデレデレしているお父さんだからよかったよかった。いやいやその辺の話はとても興味あるけど、それは今は置いておいてと強引に俺は話を戻した。あの馬鹿王太子の事だよ、今は。
「同意もない、しかも既婚者にというのは流石に問題あるかと……未遂ではありますが」
「それは勿論だ。ただエイラスはな……南国だからか開放的な考え方をしていて、一夜限りの……というのも多い。だから口づけぐらいという感覚は根底にあるし、しかも未遂だからな。正当防衛には弱いがまあ、そこについては国力云々も含めて陛下からきちんとお叱りを受けることにはなっている。常識については一応習っている筈なんだがな」
 やりたい事ばかりに目が行って、基礎がおざなりになるタイプだ。今ならまだ若いし軌道修正は可能だろうが……。
「明日の晩餐会で、挨拶とひっぱたいた事だけ謝って、向こうがそれで了ならば滞在予定の一週間は一応きちんとお相手します……ただそれでどうにもならなければ父上には申し訳ないですが今後ガルディアから切られたとしても、私の知ったことではないですね」
「それで構わん。しかしお前をここまで怒らせるなんて、ある意味大物なのかもしれんな」
 キースは自分と全く同じことを呟く祖父に苦笑しつつ、苺を摘まむ。
「領地経営や商売云々よりもとにかく視野と常識が足りていないただの子どもですね」
「そこは勉強して貰うしかない。そもそも客人であるお前達の情報をちゃんと頭に入れていないのも問題だからな」
 そりゃそうだ。俺だってここに来る前にエイラス王家とその側近の情報ぐらいは元々頭に入れてる情報を最新のものにアップデートして来ている。王太子が馬鹿だという情報は知らなかったが。
 ガルディア公爵家に関しては当主が新しく変わり、俺達が結婚して国外に出たのは隠してもいないし、まあまあデカい情報だしな。葡萄を摘まみつつ、溜息を吐く祖父は「一人前はいつになるやら……」と呟いている。
「まあ何にせよ未遂でよかった……ウィス、何だ。人をじろじろと見て」
「いえ。……俺、見た目は結構父上に似ているのに何でこんなに線が細いのかと」
「まあ加護持ちの宿命なんだろう。その代わり大したことがないとはいえ精霊魔法が使えるし、人よりずっと若さも維持できるという利点がある。にしてもお前まだ諦めきれないのか」
 往生際が悪い、と言われて俺は拗ねる。
「父上は加護がなくても若く見えるし体格は俺よりずっといいじゃないですか」
「……キース、今日のウィスはどうした」
「あの馬鹿王太子に『細い』とか、『お前ならいける』とか言われたのが尾を引いていますね」
 また怒りがぶり返した俺が顔半分だけ沈めてぶくぶくしていると二人ともに、はいはいその辺りで止めなさい子どもじゃないんだからと引き上げられる。あいつと同レベルはごめん被ると俺は体勢を直して苺を口に放り込んだ。もう大分溶けかけていてほぼ普通の苺だ。
「にしてもキース。俺がネイに話を持って行き始めたのって成人前だったと思うけど、もしかしてあんな感じだった?」
 祖父は「いくらなんでもあれと同レベルな訳ない」と呆れ、「いくら何でもそれは自己評価が低すぎます」とキースは食い気味に否定した。
「昔からウィスは予測と自己否認をきちんと繰り返し考えてから、利点欠点対応策まで考えてから話を持っていっていましたからね。ネイも以前、精度について言っておりましたが、あれは別に世辞でも何でもないですよ」
 ただ両方に損がないよう注意を払いすぎるきらいはありますがと言うキースに俺は、誠実なのが一番だろうと返した。
 自分の事しか考えないのは嫌いだ。人の想いも知らないで。三度みたび怒りがぶり返した俺がまた顔半分だけ沈めてぶくぶくしていると呆れたキースに腕を掴まれる。
「あっ、ウィス。体が冷えてるじゃないですか。もう上がりますよ」
「今日のお前は本当に子どもだな……私はもう少し入っているから早く出なさい」
 優しく笑う祖父に手を振られて脱衣場に来た俺は、キースにがしがしとタオルで拭かれていた。
「今日の貴方は子どもの頃に戻ったようなので拭いて差し上げます」
「ぐぬ……」
「一番はロータス様を悪者扱いされたのに、ひっそり怒っていたんでしょう。それがキスの件で怒りが爆発したといったところですよね」
「……そうだよ。よく分かったな」
「王太子は知らないことではあるんでしょうが、私でも腹が立ちましたからね」
 祖父は再婚もせず、祖母を今でも愛し続けている。早くに亡くしてしまった愛する人の故郷だから、多少ガルディアに不利でも、行き過ぎない程度に利益を落とせる取引をしていたのだ。それは少しでも国の力を上げて貿易等で嘗められないようにという意味合いも、祖母のように変な相手に目をつけられた時に対抗出来るようにという想いもある。実際エイラスの後ろにはガルディア公爵家がいると思われているのは牽制効果として大きい。不幸があって未亡人となってしまっているが、第一王女は望んだ相手と結婚したはずだ。
 さて、どうしたものかな――。素直に考えを改められるならよし。そうでなければ……。俺はもそもそと着替えながら、明日の晩餐会とその後のことを考えていた。
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