悪役令嬢の子

metta

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ちょっとあとのお話

01 みんなからの贈り物


「うーん……」
「今年もこの季節がやってきましたねぇ。せっかくなのでどうぞお召し上がりください」
「ありがとう……」
 落胆を隠しきれないまま、礼を言ってネイに勧められた菓子を口に入れる。美味しい。大変美味しいのだが ……あと一歩遅かったと、応接セットに行儀悪く沈み込む。
 日本のゲームのなんちゃってファンタジー世界観らしく、女神の何とかとか精霊の何とかと形を変えて、日本のイベントごとによく似た何かが色々と存在しているこの世界。
 バレンタインも、そのものではないけれど、愛の女神アクシオーネの神話にちなんで、"大切な人との出会いに感謝する日"というものがある。特にチョコレート縛りもないので、毎年身内間でプレゼント交換をしている。 
 が、しかし。
 俺は貴族的なセンスというものがあまりない。だからキースには毎年無難に消えものを――酒と甘いものを贈っている。具体的には領主の身内特権で貰う海に沈めて熟成させた酒と併せて美味しいと評判の酒やチョコレートや焼き菓子などなど。
 しかし美味しいものはキースも結構自分で取り寄せているし、食べ物以外となると、センスの問題もあるし、誕生日もあるので、いい加減マンネリと言うか、ネタが尽き気味なのである。
 そもそもとして1番の伝手がダダ被りしているのだ。それでも何とかこそこそと人から評判を聞いて、ネイに色々取り寄せてもらったのに、「実はキース様にも同じものを頼まれていまして……」と言われてしまえば、今回のプレゼント候補からは外れてしまう。
「うっ……振り出しに戻った……」
「ご愁傷さまです。キース様は好みが細かいので案外面倒くさ……いえ、結構難しいですものねぇ。食べ物にしても服飾にしても」
「拘りがあるからって言ってやって」 
 面倒くさいとは思わないけど、ネイの意見には概ね同意である。
 キースはチョコレートも酒も好きなのに、ウイスキーボンボンみたいに酒の入ったチョコレートは苦手、みたいな微妙な好き嫌いがある上、辛いものや香辛料がキツいものも苦手だったりと、意外とお子さま舌なところがある。
 服に関しては言わずもがな。適当にしようとすると、言葉ではうるさくないが、視線がとてもとてもうるさい。
「そうは言っても、キース様はウィス様からの贈り物なら何でも喜ばれると思いますけどねぇ……服でも宝飾でも、贈られたものに合わせて組み合わせを考えられるでしょうし……むしろ腕が鳴るんじゃないですか?」
「それやんわり俺の趣味が駄目だと言っていないか」
「滅相もない!」 
 嘘くさ。
 じとりとネイを睨むと、大袈裟にまさかまさかと首を振る。いやまあ、別に、事実だからいいけどさ。
 しかし、伴侶にそんな縛りプレイみたいなことをさせるのもアレなので、もう少し要検討かな……と思いながら元プレゼント候補だった別の菓子をまたひとつつまむ。美味しい。
 ひとしきり試食させてもらい、プレゼント用ではなく茶菓子用として取り寄せを頼んだはいいものの、結局プレゼントは何も決まらないまま。
 もう自分では何もいいアイデアが浮かばない。仕事で相談事もあることだし、リリアーナにアドバイスをもらおうか……。
 仕方がないので、ガルディア公爵家へネイの店を出た足で向かうことにした。


「へ? ディムロス?」
「そうよ。お父様にもお願いしているし、エリンとベルフランも預かるから、キースとふたりで行ってらっしゃいな。以前訪問したときは、色々あって満喫できなかったと言っていたでしょう」
「なるほど……」

 仕事の話もそこそこに、突然出た提案に面食らう。
 聞けばいつもは各自で用意して贈りあっているプレゼントを、今回はみんなで協力して取りまとめ、俺とキースに旅行をプレゼントしてくれるのだという。
 確かに「歳とった両親に旅行をプレゼント」なんてのは親孝行の定番ではあるけれども。
「……旅行を贈るなんて発想は全くなかった……」
「まあ、あなたは根が引きこもり……ん、んっ……出不精だもの。仕方がないわ」
「姉さん、もう少し婉曲的に言っていただけませんか」
「身内で言葉遊びなんていやよ」
 よく言うよ、と目を細めてみるが、リリアーナはにっこりと一分の隙もない綺麗な笑みを浮かべる。やり合うだけ無駄だ。
 にしても、旅行……旅行かぁ。帰国後わりとすぐに子どもができたのが発覚して、そのまま出産子育て領運営……で、確かに領からほとんど出ていない。祭りのあと何とか調整して王都エレノリアにでも家族旅行をと計画はしていたけど、それより先に外国旅行、しかもキースと2人で、と。
「しかしまた、いきなり……」
「2人の時間はあっても、なかなか水入らずとはいかないでしょうし、楽しんできたらいいと思うの……それに」
 子ども達に悪い気がするなぁと思う間もなく、リリアーナが言葉を続け、またにこりと笑う。
「自分の子をやる可能性がある国だもの。先に親の目で、しっかりと現在を見ておきなさいな」
「あぁ……正式にうちの子、どちらかにディムロスから打診が来そうなんですね」
「ええ」
「なるほど……」
 急に艶然と女王様感を出すのはやめてもらえないだろうか。
 だがそういう話があるのなら、リリアーナの言うとおりではある。
「では、ありがたく」
「ええ、気をつけて。ただ、まだ正式な話でもないし、気を張りすぎず楽しんできてね」
「はい」
「それと……キースへの贈り物は旅先でデートしながら一緒に選ぶといいんじゃないかしら?」
 まだその相談事は口にはしていなかったはずなのに。目を向けると、またふわりとした笑みを浮かべる美しい母。
 とてもではないが、この人には敵いそうもないと内心苦笑うしかなかった。

 
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