設定はどうでもいいから、どうか報われますように

metta

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本編

03 悪意のない厄介払い

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「わぁ都会。うちの領とは大違い」
「それは間違いないな」
 
 綺麗な石畳の道に、個性がありつつもレンガや屋根瓦の色が統一された美しい街並み。高い建物はほとんどなく、修道院や図書館といった、公共の建物だけが大きかったり高さがあったりなので、目印としてとても分かりやすい。それとなく計算されて不自然にならない程度にお洒落に整えられていてすごい。
 前世では一度も外国には行ったことなかったけれど、ヨーロッパって多分こんな感じだろうなぁ、なんて俺は大雑把に括って感動していた。

 12歳になってしばらくしてのこと。
 ある日突然父が、「お前もそろそろ別の修行が必要だな」とか何とか言い出し、俺はあれよあれよという間に王都へと連れてこられた。
 いや、俺……領内でもずっとしご……鍛えられてたじゃん。ちょっと大きくなったからって、本格的に追い出しにかかりやがって。
 ここまでくると一切ブレなく一貫していると、いっそ清々しい。思わず遠い目をしてしまう。

「なんだその目は」
「何でもないです」

 じろりと睨む目が怖いんだよ。この脳筋は野生の勘が鋭いから、油断も隙もありゃしない。
 父曰く、これから俺は王城で1ヶ月ほどマナー等を学びつつ生活し、その後は騎士訓練生の試験を受け、騎士団の寮に入るか、タウンハウスから通って騎士を目指すとのことなのだが。
 ……おかしい。騎士訓練生の受験資格って確か15歳じゃなかったっけ。俺、まだ12歳なんだけど。
 まさかこの脳筋、数も数えられないんだろうか。

「だからなんだその目はさっきから」
「何でも……なくはないです。いや、騎士訓練生って、私の記憶が正しければ、なれるのは15歳からだったと思うんですけれど」
「ああ、合っているぞ」
「じゃあなんで」
「15歳からだが、私の息子だから大丈夫だと言ったら、一も二もなく承諾された」
「何ですかそれは」

 父がすごいからなのか、そんな父の息子だという期待値からなのか、父が言っても聞かないからなのか。多分全部が理由なんだろうと思うと、もはや溜め息も出ない。
 ……大丈夫。父と話が合うのなら、騎士団は父みたいな人がいっぱいの、体育会系のノリの集団だと考えていればいけるだろう。
 いける……だろうけど、嫌だよこんな脳筋がいっぱいなのは!大丈夫って言ったけど、大丈夫じゃないよ!
 でも俺が今さら物申したところで、どうせ無駄なんだろうな~と思い、俺はそっと口を噤んで言葉を飲み込んだ。領でしご……鍛えられていたように  、何も考えず、とにかくついていけばいいだけだ。大丈夫大丈夫と自分に無理やり言い聞かせた。
 それと、もうひとつ心配なのは城の方だ。
 一応この国には社交などの機会が少ない田舎貴族の子や、後継に入らないような子のために、マナー教育というか社会科見学というか修学旅行というか、申請すれば最長1ヶ月ほど、城と王都での生活を体験させてくれるというシステムがある。一応母にマナーも教わりはしたが、家だと結局その辺りはゆるゆるだから、ちゃんとできるか自信がない。脳筋教育の弊害である。
 にしても城に行くというので、母も一緒に来るのかと思いきや。仕事が忙しい半分と、父が母を人に見せたくない半分で結局お留守番ということになった。泣きながら見送る母に手を振り返しながら、父は本当にブレがないなと変に感心してしまう。 

 そして城で出会ったのが現在進行形でびっくりしつつ眉を寄せている、女の子みたいな顔の美少年。

 ――この子、確か、ラスボスだ。

 正確にいうと――最終的にラスボスになってしまう、妹が好きだった悪役……目つきが悪いイケメンの子どもの頃……だと思う。イラストだけは死ぬほど見せられたから、多分そうだ。嫉妬とか何とかかんとかで身体を乗っ取られてしまうとかそんな感じだったはず。嫉妬なんて、そんなもののために魔王になって世界を滅ぼそうとするなんて、一体どんな恋愛脳なんだと思った記憶だけは残っている。
 すまん。そこら辺はさすがにもうちょっと理由があるだろうし多分妹から聞かされたはずなんだが、ほぼ聞き流していたので、覚えていない。こんなことになるなら、ちゃんと聞いておけばよかったと思っても、後の祭りである。
 しかしこの子。美形が多いこの城の中でも群を抜いて美形だなぁ。銀髪碧眼しかも少し切れ長の、冷たい雰囲気のすっきりした顔貌は、他の人とはテイストの違う美形だ。さっき挨拶した王子様も、群を抜いた美形ではあったけれど、金髪碧眼の、正統派って感じの美形だった。

「申し訳ありません。子が大変失礼を……」

 美少年に見惚れていると、父が頭を下げろと背中をバシバシ叩いて痛い。
 大体人の目の前で子どもの頭を思い切りひっぱたくのだって、大概失礼だと思う。相手、ドン引きして何も言えなくなっているし。
 ただ、先に俺がやった指さしの方が不敬とか関係なく、人に対して失礼な行為だというのは間違いないので、謝れというのは正しい。
「申し訳ありませんでした」と深々頭を下げると、ようやく美少年はハッとして口を開いた。

「い、いや別にかまわないが……私はフィリスという。それより……大丈夫なのか?」
「いえいえ。これくらいならいつものことなので心配には及びません。大変失礼いたしました」
「えぇ……いつもって……」

 優しい。
 多分俺を心配して聞いてくれたのに、俺が答えるより先に父が答えてしまったせいで、美少年ことフィリス様はさらにドン引きしている。いつものことなのは本当だけど、少しは考えて発言してほしい。引いてる感じも可愛いけど、何なんだコイツらと顔に書いてある。
 再度大変失礼しましたと頭を下げると「お気になさらず」と、やっぱり引き気味に去っていく。あぁ……第一印象めちゃくちゃ悪そう。

「お前な……王子の婚約者にいきなり何であんな事をしたんだ。公爵家の御子だぞ」
「自分でもちょっと……申し訳ありません」

 それに関しては完全に俺が悪いので言い訳する気もない。
 にしても頭を叩いたのを除けば、父は思ったよりもきちんとしているなと少し感心もした。こんな父を見るのは初めてかもしれない。
 ちゃんとTPOを使い分けているし、勉強になるかもと一瞬血迷ったが、そもそもちゃんとしているなら、人前でいきなり子の頭を叩いたりはしない。危ない危ない。騙されるところだった。単に序列に従う脳筋の本能か。それは自分にも身に覚えがあるしな。

「だから何か言いたい事があるのか」
「だから何にもないですって」
「何もないなら部屋まで送ったら私は帰るからな」
「はいはい。早く母上にお土産でも買って帰って、慰めてあげてください……痛っ。すぐ小突く」

 ぶーぶー文句を言いながら連れてきてもらった部屋は、とても子どもを預かるというようなレベルのものではなかった。大変に豪華。世話役だという、これまた男前の若い侍従が丁寧に出迎えてくれる。
 父は部屋に着くや否や、手短に侍従に引き継ぎし、「じゃあな! 達者で暮らせよ!」と犬の子を捨てる最低な飼い主のように去っていく。

「えっ!? もう少しゆっくりしていただいてかまいませんよ!?」
「あの人は早く帰りたいんだから、放っておいてあげてください」
「えぇ……」

 驚いていた侍従の顔が呆れに変わる。まあ普通なら、もう少しくらい名残惜しむわな。
 悪い人間ではないが、脳筋な上に自分の欲望に忠実すぎて、人の親としてはどうなんだろう。
 呆れながら俺は父を見送り、そんな感じで城での生活は始まった。

 ――はずだったのだが。
   
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