設定はどうでもいいから、どうか報われますように

metta

文字の大きさ
6 / 31
本編

06 守ってあげたい

しおりを挟む

「うーん……殿下を使っても駄目なら、本気で駄目かもしれませんね。フィリス様はもう、諦めた方がいいですよ」
「トドメを刺すのやめて」

 人目の少ない裏庭の散策に付き合ってくれているウォルはマジで日に日に遠慮がなくなっている。大体王子様を「使う」とか言うのやめろよな。
 ウォルに注意をしようとしたら、その噂の当人の姿が見える。遠目に俺を見つけたからか、さっと方向転換して逃げてしまった。さすがにちょっと傷つくなぁ……と思った瞬間。

「……!?」

 フィリス様の姿がふっと掻き消えた。多分あれは自分の意思での動きじゃない。

「――ウォル! 誰かがフィリス様を引き摺り込んだぞ!」
「えっ、フィリス様? 嫌われ過ぎて幻覚でも見えたんですか?」

 おいこら! 色々突っ込んでやりたいが、今はそれどころじゃねえよ!

「俺は目がいいんだよ。それより早く助けないと!」
「ちょっと! セルジュ様!?」

 説明してる暇はない。裏庭が勝手口とも繋がっているのは暇つぶしの散策で把握済みだ。引っ張り込んだやつの目的は分からないが、勝手口の門番に金を握らせれば、中の人間を拐うことは不可能ではない。
 駆けつけたのが早かったお陰か、物陰に引っ張られていたフィリス様は、無体を働かれる直前でギリギリセーフといった様子だった。相手の方は全員身なりは一見いいものの、縄を持っていたり口を塞いでいたりと、状況証拠はばっちりで、どう見ても言い逃れできるレベルの行動ではなかった。
 理由はどうあれこんな場所で子どもに危害を加えようとする奴等なんかに慮る必要はないし、誤解だったとしても、誤解されるようなことをする方が悪い。何か理由があったのなら、あとで謝れば済む話だ。子どものやったことで白を切って、父に丸投げでいいだろう。たまには俺のために働いてもらおう。

「子ども……!? そいつも連れていくか、黙らせて――……っ!?」

 俺に向かって伸びてくる手を躱し、思い切り掌底を打ち込む。綺麗に入ったとは思うが、父との稽古以外で人を攻撃した事はないので若干不安だ。向かってきた他のやつも、ちゃんと急所に攻撃はしたが、所詮子どもの力だ。
 だから油断しないようにすぐ身構えたのだが、相手が起き上がるような様子はない。普通にそのまま伸びていた。

「……えっ、弱っ!」
「えっ――……!」

 お互いに驚いたが、その隙を逃す手はない。俺は驚いている残り1人の側頭部に蹴りを叩き込み、踞る男の胸ぐらを掴んだ。

「お前らは何者だ!…………あ、やば。落ちてる」
「セルジュ様! うわ、本当にフィリス様まで。お二方とも大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫。とりあえずウォル、拘束するの手伝ってから、誰か呼んできて。あと殿下と侍医も呼んで欲しい」
「分かりました」

 ウォルと2人で拘束している間、フィリス様は体育座りのような姿勢で、動く様子がない。ショックが大きいのだろう。
 撫でたり背をさすったりしてあげたいが、さっきの今では直接触れられるのは嫌かもしれない。俺はせめて、と上着を脱いで、フィリス様に掛けた。

「では呼んでまいりますので、お二人ともそこを動かれませんよう」
「はいはい分かってる。分かってるから早く行って」

 いいから早よ行けと手を振って見送ると、ずっと黙っていたフィリス様が口を開いた。

「――……た、助かった……礼を言う」

 小さな声は震えている。それでもちゃんと礼を言わなきゃと口を開くのは真面目で少し痛々しい。

「……どういたしまして。ご無事でよかった。あの、こいつらに何か心当りあります?」

 そう尋ねてみたが、フィリス様は小さく首を振った。

「知らない者だが……父の敵か、私が気にいらないか両方か。いずれにせよ殿下との婚姻に反対している者……父の敵はもちろんだが、明るく優秀な殿下に、性格もよくない勉強しか出来ない私は不適だと……」 

 淡々と説明するうちに、フィリス様の目には涙が溜まり、限界を迎えたようにぼたりと落ちた。ワンテンポ遅れて自分が泣いている事に気づき隠そうとしていたので、俺は肩に掛けていたジャケットを頭に掛け直して隣に座った。撫でたり涙を拭ったり、やっぱりそんな事を出来る距離感でも立場でもないけど、これくらいは許されるだろう。

「……どうせ私は杓子定規で融通が効かない。勉強しか取り柄がないというのも分かっている。魔族の動きも不穏な今、殿下の傍には、もっと性根のよい、文はもちろん武に長けた者をという意見も多い。努力で補えるならどうとでもするが、性格や身体能力はどうにもならない……」
「いやそれ……1人で補う必要なんて、全くないでしょ……」

 それ、もっともらしく理由っぽいものをつけて言ってるだけの陰口だと思うけど、それを真に受けちゃうのかぁ。一見「そんなの知るか」みたいな強いタイプに見えるけど、これはかなり繊細だ。
 有象無象の言うことだって、気にしなきゃいいのにと思ってしまうが、気にする人が気にしないようにするというのは、なかなか難しい。悪意がないことなら気にしない方が注意を払えばいいけど、悪意がある場合はそれが目的だからなぁ。
 ただ、一つ言えるのは。俺はこういう努力している子が本人でどうしようもないことで叩かれたり、理不尽に邪魔をされたり乏されるのは好きではない。一生懸命真面目にやっている人間が馬鹿を見るというのは、できる限りなくなって欲しいし、せめて足を引っ張るなよって思う。

「そもそも努力ができるっていうの自体が、ひとつの才能だと思いますけどね。精神の強さというか……頭を使う方と、身体を使う方って別に考えがちですけど根っこは一緒ですよ」

 目を腫らしながらも、「何を言ってるんだ?」みたいな怪訝な碧眼がジャケットの間から覗いて、ほんのちょっといつもの調子に戻っている。いい感じの冷たさである。

「生まれ持った絶対値はそりゃあるかもしれませんけど、毎日毎日剣を振るって鍛錬をすれば、誰だって一定以上の強さは身に付きます。でもそれを、疲れてもう腕が上がらなくても怪我をしても、毎日毎日全員がそれを出来るわけじゃない。だから差がつくんです。それと一緒だと思いますよ」
「いや、生まれ持った身体能力の優位性は大きいと思うが」

 うんうん、ナイス突っ込み。その調子調子。

「大体、身体能力の優位性はあっても、いきなり剣を使えはしないですよ。それと同じように、いくら地頭がよくたって、最初から何でも知っているわけじゃない。本を読んだり分からないところは人に習ったり調べたり、そうして積み上げてきたものだと思うんですよ。俺が毎日走ったり素振りをしたり――」
「……」
「剣と携帯食料と水だけ持たされて、辺境の山や森に置き去りにされてボロボロになりながら家に帰ったり、崖の下に置き去りにされて『自力で登ってこい』って言われて手でよじ登ったり」
「おいちょっと待て」

 何だコイツみたいな顔して俺を見てるけど、だって事実なんだもん。

「フィリス様はまだ子どもなんですから、出来ないって決めつけなくても。今からでもちゃんとやれば護身術くらいは出来るようになりますよ」
「……嘘くさ……大体お前、同じ年だろうが」
「嘘じゃないですって。元々護身術は、女性でも出来るようにって考えられてるものだし、相手の力を利用して隙を突き、逃げることを前提としてるものですから」
「女性……講義以外でその単語を初めて聞いたぞ……そうなのか」

 あ、やば。
 でもフィリス様は考え込んでいて、気にしている様子はない。というか、横に狼藉を働いた奴等がいることも若干忘れてる。
 本当はよくないけれど、安心してくれたんならよかった。

「……ふ」

 フィリス様はやれやれ、というふうに力なく笑った。自嘲めいたものではなく、呆れ混じり……力が抜けたというのが正解かもしれない。

「私も、故郷から城に連れてこられて、身一つで頑張っている……のかもしれないな」
「かもしれないじゃなくて、そうですよ」

 俺がそれを言うのはちょっとどうかなと思ったので言わずにおいたが、フィリス様自らそう言えるのなら、俺もそうだと言える。

「……お前もな」
「そうですね……と言いたいところですが、俺はフィリス様がウォルがいますからね。でもフィリス様にも今は殿下やウォルがいるし、これからは俺もいますので」
「調子に乗るな」

 俺はウォルが騎士や殿下を連れて来るまでの間、フィリス様の隣にいたが、いつものように、嫌がられることはなかったのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄

笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。 復讐不向きな主人公×ツンツンクーデレな兄ちゃん 彼氏に遊ばれまくってきた主人公が彼氏の遊び相手に殺され、転生後、今度こそ性格が終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。 そんな中、ゲームキャラで一番嫌いであったはずのゲスい悪役令息、今生では兄に当たる男ファルトの本性を知って愛情が芽生えてしまい——。 となるアレです。性癖。 何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。 本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。 今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。 プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。 性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。 いいね、ご感想大変励みになります。ありがとうございます。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

処理中です...