設定はどうでもいいから、どうか報われますように

metta

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本編

15 人の心も知らずに

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「……?」
 いい加減いつまでも引きこもっていないで2人と話をしないとな、と思いながら眠りについた夜。
 目は覚めたけど部屋が暗い。食事をしたあと、眠気に負けて早めに就寝したのだが、変な時間に目が覚めてしまったようだが。
「……!」
 ……すぐ近くで人の気配がする。身構えようとしたが、身体が思うように動かない。
「何だ……!?」
 これは不味いかもしれない。今襲われてしまったらひとたまりもない。
 けど、何で?
 襲われるような心当たりはひとつもないのに。
「……誰だ!」
 よく分からないが、こういう時は声を出してみるしかない。ただ、俺も寝起きだからか、威勢だけ。大きな声は出なかった。
「……さすがに起きたか」
「……ん? フィリス様……? どうして……」
 声のする方を見れば、フィリス様が、薄着でベッドに腰掛けている。
 これは異常事態だと急いで頭が回転し始めたが、やはり身体は自由に動かない。どうやら手を縛られているようだ。しかも半裸の状態で。
「これは、一体、どういう」
 頭がはっきりしてくると、動かない身体が、妙な熱を持っていることに気づく。それに少しパニックになっている俺とは違い、フィリス様に驚いている様子は何もない。ということは、今の俺のこの状態は、少なくともフィリス様が噛んでいるということになる。
「……なにか、しました……?」
「童貞が気になるというのなら、相手が私で悪いが、これで勘弁してくれ」
「!? ちょ……! 何……!?」
 殿下のためにここまでするのか。どう考えても正気じゃない。
 制止の声を、困ったような顔をしてやんわり無視しながら、フィリス様は頬から順に露出した肌をそろりそろりと下に向かって撫でていく。くすぐったくてじれったい、じゃない。早く止めないと。
 けど気持ちとは裏腹に、白い手が下半身に差し掛かる頃には、俺のものは痛い程勃ち上がっていた。手は一瞬だけ怯え、そこに触れるのを躊躇ったあと、一気に下着をずらし、指が恐る恐る先走りを馴染ませるように擦っていく。
「っ……く、ぅ……、やめ……」
「身体に障る。大人しくしてろ」
「何がっ、一服盛っておいて、何を……!」
「薬自体は身体に害はない。お前は悪くないから、大丈夫。いいから……」
 いや、よくない。これはどう考えても駄目だろう。薬を盛られているのは自分なのに、相手の方が何か変な薬でも盛られているのでは、何かにあやつられているのではという気すらしてくる。
 口だけの制止は意味を為さなかった。俺の上に跨がったフィリス様は羽織以外は何も身に纏っていなかった。銀の髪が煌めいて、綺麗な白い身体に見惚れた隙に先をあてがわれ、腰を落とされてしまう。
「――っ、ぅく…………」
 しかし最初は勢いよく、ずずと落としていったものの、半分をちょっと過ぎたくらいのところで止まってしまう。これは、恐らく。
「……痛いんでしょう」 
 ぶんぶんと勢いよく首を振ってはいるが、絶対嘘だ。だって挿入する側の俺が痛いくらいだ。挿入されている側のフィリス様が痛くないはずがない。
 でもその痛みのお陰で、さらに少し意識が冴えたというか、身体を動かせるような感じがする。手の拘束も、もがいたら取れた。なのでちょっとずつ気が紛れるようにと、フィリス様の背や頭を撫でて、緊張を解そうと努力してみるが、なかなか上手くはいかない。
「フィリス様」
「……ちゃ、ちゃんと、準備したのに……」
 震えながらぐずぐずと鼻を啜る様子は、まるで失敗して叱られるのを怖がる子どものようだ。俺は腹に力を入れて起き上がり、人の上でべそをかく半泣きの目尻に口をつける。衝動的にキスをしたいと思ったけれど、それはしてはいけない気がした。
 もう突っ込んでしまったなら、キスしようがしまいが変わりはないが、何となく自分の中の最後の一線はこれだと直感的に思ってしまったら、もうそれ以上は何もできない。
 前世込みで童貞の、いっぱいいっぱいの俺の理性をギリギリ繋ぎ止めているのは、いつも張り詰めたように伸びた背筋を小さく丸めて泣いている、理性を切ろうとしている張本人の姿というのは、何とも皮肉な話である。
「俺そんなに小さくないですからね……ね、とりあえず抜きましょう」 
 そう促してはみたものの、フィリス様は俯いて無言でいやいやと首を横に振る。そしてそのまま俺の背に腕を回して力いっぱい抱きついてきた。
 フィリス様はいつもいい匂いがするが、今日はそれに混じって甘い香りがする。何となくそれを夜の匂いだと思うと、むくりと欲が首をもたげる。萎える気配は一切ない。
 ギリギリ我慢をしながらフィリス様の頭を撫で、丸くなった背筋を指先でなぞると弓のように反らした。切れていないかの確認も兼ねて縁もなぞるが、そちらも大丈夫そうだった。少しずつ強張りが取れ、身体が沈み込んで吞み込まれていくと、俺の頭の中は、「気持ちがいい」の方が勝ち始める。思い切り突き上げて腰を振りたい衝動に駆られるが、それでもまだ、何とか理性は仕事してくれている。
「あ、ぅ、あ……セルジュ……」 
 くっそ……もう……そんな風に名前を呼ばないで欲しい。
 俺はその声を何とか断ち切るように、手刀でフィリス様の意識を刈り取り、勃ち切っている自分のものを引き抜いた。挿入時はかなり痛そうだったが、裂けてもいないし血も出ていない。しかし無理矢理に飲み込んでいたからか、少しだけ空いていた孔はすぐに慎ましやかなかたちに戻っていく。
「あーもう……どうすんだよこれ……」
 フィリス様が殿下と既に致しているかどうかは、論点がずれているし、知る由もない。けどフィリス様の反応から考えて、おそらく初めてだったんだと思う。キスはしてないとか、中出しはしてないとか自分の中の最後の一線なだけで、何も言い訳にはならない。言い訳するつもりもないが。
 ……大体この人は何なんだ。人が我慢して我慢して見守って抑える努力をしてきたのに。それを、人の理性と気持ちを、こんな風にあっさりと殺そうとする。
「あーー……ちんこ痛ぇ……!」
 薬もまだ効いているし、オカズに抜くくらいはもう許して欲しい。こういう鬱々としたエロは全くもって好みじゃないけど、性癖を歪めるようなインパクトがあるというのはよく分かった。俺一生これで抜いてしまいそう。そうなったらどうしてくれる。責任とってくれるのか。
 息を吐き切るくらいの勢いで溜め息を吐きながら、フィリス様の身体を綺麗にして服を着せたあと、俺は何回か抜いてから、フィリス様を抱き上げた。もうホントにいっぱいいっぱいで泣きたい。
「――ウォル」
 それでも何とか部屋まで行って小さくウォルを呼ぶと、ウォルは静かにやってきて、俺の腕の中のフィリス様を心配そうに見つめている。
 部屋に通してもらい、整えられたベッドにフィリス様をそうっと寝かせた。目尻は赤いが寝息は安らかだ。あとで首と尻は痛むかもしれんが、そこはもう知らん。
「何か悪い薬でも飲んだのか分からないけど、血迷っていたので気絶させてる。目を覚ましたら調子が悪いところが出るかもしれないし、気をつけてやって」
「……失敗したのですね……」
「お前、何か?」
「いいえ、何も。お連れいただきありがとうございました。あとはこちらで……」
 この反応、ウォルも絶対噛んでいる。が、それに突っ込むほどの元気はない。今この場で元気なのは、下半身だけだ。
 何ともやるせない気持ちのまま、俺は部屋に戻って再びひとしきり抜き、その日は泥のように眠った。
 
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