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フィリス視点

01 騎士になりたい(1)

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 嫌だ嫌だと駄々を捏ねていた凱旋等々も無事終わり、最後の大きな行事として、騎士団が主となった宴席が設けられた。
 騎士団は実力とある程度の人柄があれば身分をあまり気にしない組織だ。無礼講は気楽で、時折「本当に無礼だな」と思いながらも楽しませてはもらったのだが――
 
「う゛、ぅ……」
「……こうなっては勇者も形無しだな。目もこんなに腫れて……私以外の前で泣くなと言ったのに」
「だってぇ……うぇ、いや、面目ない……」
「まぁ、お前のことだ。私が飲まされ過ぎないよう、代わりに飲んでくれていたのだろうが」
「バレてる……や、それで潰れてちゃ……世話ない……うぇ……カッコ悪い……」
「ほらほら、今日はもう休め」
 
 そう促したものの、しばらくもぞもぞと駄々を捏ねていた酔っ払いのセルジュだが、隣に座ってあやしていれば、すぐに寝息を立てていた。酒が入っているのでいつもよりも荒く、赤い頬に触れれば、汗ばんでしっとりしている。
 セルジュが眠ったまま帰ってきた時は息も細かった。なので飲みすぎは少々心配ではあるが、これくらい分かりやすいと安心する。
 
「……私も眠るか」
 
 明日は何の予定もないので早寝する必要もないが、セルジュが寝たなら起きている理由もない。外した眼鏡を脇机に置き、横になろうとした瞬間、寝苦しそうにセルジュは唸り、私の腰に手を回した。
 
「うぅ……かっこわるい……」
「……起きて……ないな。寝言か」
 
 起きてはいない。しかしセルジュは私の腰に抱き着いたまま、私の膝を枕にした格好で眠っている。これでは横になることはできない。
 まあ、どうしても眠いわけではないのでもう少し起きていようかと寝苦しそうなセルジュを起こさないように気を付けながら、座り直して頭を撫でた。

「大丈夫……お前は、格好悪くても格好いいから大丈夫だ」
 
 最初に助けてくれた時、一生懸命慰めてくれた時。こっそりと私を嫌う者から庇ってくれていたのも知っている。確かに決めきれないようなところもあるが、それはセルジュが自分をよく見せようなどという心がないからだ。
 
「……しかし、初めて出会った時はこんな風になるなんて思いもよらなかったな……」
 
 むしろクロヴィス様から辺境伯の子が城に来ると聞いた時は「仲良くしない方がいい」「怪しい」「裏があるのでは」と疑っていたくらいだ。
 それがこんなに愛しい存在になるなんて、人生とは分からないものである。
 

 +++


 私は物心ついた頃から、人に好かれない性質の人間だった。
 記憶にある限り、母は私に興味がなく、父からは何故か嫌われていた。それでも外見だけは満足いくものだったからか、政略の駒として厳しく育てられ、すぐに家から出された。
 
 隙を見せるな恥をかかせるな。お前が何か失敗したら、それは家の恥にもなるのだからな。
 
 ただ、国王陛下は親よりもずっと優しく、それより何より婚約者となるひとつ歳上の王子――クロヴィス様がとても優しかった。
 王子の気に入り。それもまた、嫌われる原因のひとつではあったが、優しくして貰えたのは生まれて初めてと言っても過言ではない。少なくとも、物心ついてからは初めてのことだ。
 こんな自分を可愛がって慈しんでくれる人はきっとこの世にこの人しかいない。
 だからクロヴィス様については私も譲れなかった。たとえ政略であろうと、この人のためならなんでもしようと思うほどに、私はクロヴィス様に心酔していた。
 
 ただ、「フィーはよくやっている」と、クロヴィス様は言ってくれるが、周りはそう考えてはいない。適材適所という言葉があるが私に適所なんてあるのだろうかと、毎日必死だった。
 結局私は嫌われ者のまま。交友をと言われても、ただでさえ人に好かれない。そこを突破しても親の耳に入れば駄目出しが入る。
 それでもクロヴィス様が優しいから、何とか頑張れてはいた。
 
 実を言うとセルジュの印象は、会う前からあまりよくはなかった。

 クロヴィス様から辺境伯の子が城に来ると聞いた時、「何故こんな何もない時期に」という疑問が浮かんだ。城では学びの一環として、貴族の子を受け入れているため、城へやってくるそれ自体は何も不思議ではないが、夜会も何もない時期にやってくるのはおかしい。
 しかし対面したセルジュは、父である伯のような荒々しい鋭さはなく、よくも悪くも貴族の子らしくはなかった。
 突然人を指さし、目の前で父である辺境伯に叩かれる姿は痛そうだし、どう評価していいか、いきなり分からなくなって怖かった。
 その後も嫌われ者の私といきなり友達になろうなんて、しつこくて正直怖かった。
 今思えば、友達になろうとか、素直な好意を向けられることがなかったから、その感情の種類が分からない――得体がしれないものが恐ろしかったのだと、思う。
 当時はそれが分からなくて、私はセルジュから逃げ回っていた。気味は悪いは殿下まで使って懐柔しようとするわで気に食わないしで、印象はどんどん悪くなっていたのだが。
 
 城の中で白昼堂々攫われそうになった私を助けてくれたのはセルジュだった。
 人懐こい阿呆な犬のような印象しかなかったのに、あっという間に大人達を沈める姿は悔しいがとても格好良かった。
 なのにその反面、慰めは上手なのか下手なのかよく分からない。ただ、突っ込むところが多すぎて、気は紛れた。

 日頃の私なら何を言っているんだと聞かなかったかもしれない。けれど、セルジュの少しだけ的の外れた一生懸命な慰めは、思考を別ごとに逸らしてくれた。というよりも、辺境伯。
 私の親もどうかと思うが、辺境伯の子育てもどうなんだ。素質があるからというのはまず間違いないとは思うが、そんな育てられ方で生き延びたら、それは嫌でも強くなるだろう。本人はけろりとしていて、何だか馬鹿馬鹿しくなって気が抜けてしまう。
 ああ、こいつは本当に心配してくれて一生懸命だと分かった途端、すっかり絆されてしまったのだ。
 いずれ今までのように離れていってしまうかもしれないが、久しぶりに仲良くしたい思える者だった。

 しかしセルジュは予想に反して、普通に傍にいてくれた。家がどうとかそういった下心は一切ない……ように見える。最初は頭が弱いのかと疑ってしまったが、決してそうではない。
 セルジュは自身を馬鹿だし空気も読めないなどと卑下するが、頭もすごく悪いわけではないし、むしろ察するのは上手い。野生の勘という可能性も高いが。そして真面目で騎士が天職のような、そんな人間だった。


「お話中失礼いたします。フィリス様、殿下が探しておられましたよ」
「セルジュ……ウォルまで」
「……お前はあいつの子か」
「あいつ?」
「……ケリング辺境伯だ」
「あ、はい。私の父です」
「……王子殿下がお呼びなら、もういい。話は終いだ」
 
 興が削がれたと言わんばかりの父は、不機嫌そうに去っていく。

「殿下が呼んでいると? 何かあったのか」
「いいえ。フィリス様が困っていそうなので、殿下に言いにいったら『私が呼んだことにして連れてこい』って」
「……なるほど……ありがとう」
「余計なお世話かな~とも思ったんですけど、役に立ったんならよかったです!」

 やはり、察するのが上手い。機転を利かせてくれて助かった。「ではまた!」元気よく騎士団へ向かう姿を見送り、ウォルとともにクロヴィス様の部屋へと向かった。

「フィー、大丈夫か。災難だったな」
「はい。助け舟をありがとうございます」
「セルジュのおかげだな。また鉢合わせてもいけないから、しばらくここで休んでいけ」
「はい、ではお言葉に甘えます」

 大丈夫と返事はしたものの、父と話してかなり消耗はしている。クロヴィス様には隠せないので、お言葉に甘えることにした。
 ウォルが入れてくれた紅茶に砂糖を入れて飲めば、熱さと甘さで視界がきゅっとなる。

「しかしセルジュは番犬としては、とても優秀だな」
「なんかセルジュ様、普段はア……能天気なのに、時々妙に大人っぽいところありますしね」
「確かに……」

 アレと言おうとしたのか阿呆と言おうとしたのかは分からないが、言いたいことは分かる。

「まあ、伯があんななので、達観しているだけのような気もしますが」

 それも分かる。そこも大きいだろう。
 だが、セルジュは父である辺境伯に対して怒ったり文句を言ったり悪口もかなり言うものの、からりとしていて親子の仲は悪くない。それはセルジュの性格によるものが大きいのだろう。

「……私もセルジュのようであれば、両親との関係も、違ったのでしょうか……」
「ないない。人の親御に言うことではないが、お前の父上はそれなりにろくでもないぞ」
「フィリス様がセルジュ様みたいだったら、早々に公爵に見限られてますって」
「公爵は辺境伯のような方は苦手だろう。水と油だ」
「苦手そうというか、どう見ても苦手なんだと思いますよ。セルジュ様が息子と分かって逃げたくらいだし」
「なんと。それは是非とも見たかったな……」

 本気で悔しそうにしているクロヴィス様に思わず笑いながら、私は改めてセルジュに感謝していた。


 ……しかし、セルジュは相変わらず私の膝で眠っているし、私は眠れそうにない。外した眼鏡を手に取り、ぼんやりと眺める。
 これはセルジュからの大事な贈り物だ。

「いくら文官としての能力が高かろうが、それはもっと下の者の仕事だ。お前に必要なのは王の伴侶としての社交能力。相変わらずお前にはそれがないし、可愛気もない。人より優れているのは容姿くらいしかないのに、そんなものを身につけて、唯一の取り柄を損なってどうする」

 片眼鏡モノクルは使いづらい。なので普通に眼鏡を作ったはいいものの、結構重くて使いづらいなと思っていたところでのこれである。久しぶりに顔を見に来たと思ったら、相も変わらずである。
 クロヴィス様がいないので逃げ場はないが、それでも傷つきはしなかった。この人は今の私を知らないからと流すことができるようになっていた。
 それでもいまいち似合わないのは事実なので、まあみっともないのかもしれないなと念の為人前では掛けないようにしていたのだが、ウォルのせいでセルジュにバレてしまった。
 いや、ウォルのおかげと言うべきか。そのおかげでこの眼鏡を贈って貰ったのだから。

 セルジュはそれまで王子の婚約者だというフィリスの立場を慮って、誕生日なども、消え物や消耗品をくれていた。
 だから何となく使い終わったそれらや包み紙、リボンなどは綺麗にとって保管していたのだが、まさかこんなものを突然くれるとは。一応身につけるものなのでと思ったが、想定外すぎるので大丈夫だろう。見ればウォルも頷いていた。

「ふふ……」

 軽くなった眼鏡は私の心も軽くし、贈り主のセルジュのように、色々なものを、以前よりよく見えるようにしてくれた。
 しかし眼鏡を贈るなんて、今思い返してもやっぱり面白すぎる。
 私は思わず、当時と同じように小さく笑ってしまった。

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