設定はどうでもいいから、どうか報われますように

metta

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王子様視点

03 王子様と推しの運命

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「――あんの野郎……!」
「クロヴィス様、お口が悪いですよ」

 ウォルがそう窘めてくるが、腹立つものは腹立つ。本当に頭が痛い。
 フィリスと私、2人ともが確実に無事でいられるのはもう竜国ルートしかないというのに、セルジュは本当にフィリスフィリスフィリスフィリス――そんなにフィリスが好きなら少しはフラグを立てたり折ったりしろ! と私はとてもイライラしていた。
 いくらゲームによく似た世界とはいえ、ある程度はシナリオに沿っている。フィリスが魔王になるのと私が死ぬ可能性が高いのはごめんである。

 大体なんで私があいつが毛ほども意識していない先輩騎士やらなんやらのフラグを立てないように折れないようにフォローしてやらねばならんのだ。大体あいつ、先輩騎士以外は名前すらちゃんと覚えているか怪しいぞ。
 ただ、そのお陰で一定以上に上がらないようにする方は多分簡単ではある。この辺りはゲームと同じで他キャラの情報で判断するしかないが、大丈夫なようには思うが。
 ……いや、仕方がない。セルジュは私のように記憶があるわけでも、前世の記憶があるわけでもないんだから、それは仕方がない。怒るのはお門違いではある。それに情操教育というかアニマルセラピー的な効果か、フィリスもセルジュといると楽しそうだし比較的柔らかく育っているし可愛いので、セルジュはもういい。もうこれでいいんだと諦めた。
 先日も似合わない眼鏡を見かねたセルジュが新しい眼鏡をプレゼントしたとも聞いている。他人の婚約者に身につけるものを贈るのは微妙なところだが、眼鏡だし。何よりフィリスによく似合っているので無問題である。
 しかし、最初の眼鏡を作った際、フィリスの父がごちゃごちゃ言ったことは許さん。あいつ本当に魔王を倒したら覚えてろよ。

 話は戻るが、ならどうするかというと、結局は私が頑張るほかない。
「大変なのは生きてる証拠だ」なんて、社畜だった兄が言っていたトンデモ発言だが、今はそう思い込むとする。
 とりあえず要所要所はゲームの筋通りだし、イベントもある。何をどうするのが正解は分からないが、フィリス一辺倒のセルジュの代わりに私がイベントをこなしたりフラグを折ればいいだけだ。

 繰り返しの自己確認だが、フィリスは攻略対象者ではない。

 だからセルジュがフィリスを好いているなら、目指すは好感度が全員と一定以下で、誰ともくっつかないノーマルエンドか、竜が魔王になる竜国ルートかだ。懸念があるとすれば私と攻略対象者の先輩騎士だが、私についてはセルジュのことは友人として好意はあれど、完全に恋愛対象外である。向こうも恐らく同じなので問題ないだろう、多分。
 あとは比較的接点の多い先輩騎士だが、時折確認させているものの、ただ仲のいい先輩といった感じだけなように見える。ただ、他のキャラの好感度が一定以下だと逆に私が突出して個別ルートになってしまう可能性を否定できないので、ノーマルエンドを狙うのは少し危険な気がする。しかも万一先輩騎士とのルートにいったら、王子は死んでしまう。となれば、進むのは竜国のルート一択である。
 竜国のルートを出すには、主人公セルジュの全攻略対象者からの好感度が一定以上かつ、個別エンドを迎える数値以下である必要があるが、あいつは私やフィリス以外とはほとんど絡んでいない。
 そしてフィリスは攻略対象者ではないので個別エンドなどない。だから好感度が高くても大丈夫と踏んでいる。しかしゲーム続編があって微妙に前作からの変更事項があったり、追加コンテンツが前世の私が死んだ以降に出ていた可能性はゼロではない。ゲームはRPGとしても普通に面白かったから、それなりに人気があった。追加コンテンツや続編の可能性はあるし、そういった場合にフィリスも攻略対象になっていたりするかもしれない。そういう転生系の話も見たことがある。
 ただ、その場合、フィリスはIFが作られたり、攻略対象に格上げされていそうなので、むしろ生き残る可能性が上がりそう。

 となると、動向に気を付けなければならないのは、やはりセルジュなのだが――

「そもそも……あいつ、レベル足りているのか……!?」

 客観的にレベルやステータスという形で能力が可視化されるゲーム画面とは違い、現実は相手がどの程度の能力なのか分からない。倒せる魔物の種類などで、ある程度は推測できるのでいいのだが、肝心のセルジュの能力が大丈夫なのだろうか。なるべく一緒に連れ回して行動するようにはして観察はしているが、不安しかない。
 「王子なのにそんなに動き回って働いて大丈夫なんですか? 休んでます?」なんてセルジュは呑気に聞いてくるが、誰のせいだ誰の。こっちは生き死にが掛かっているんだ。

 ともかく魔王になる可能性のある魔物は全て事前討伐し、別のルートでこの世を恨んで魔王になり、王都に甚大な被害をもたらす魔女の末裔は、兄弟の死がトリガーなので幼少期に丸ごと保護した。
 分かる範囲でできることは全てやった。あとはもう運を天に任せるしかない。


 そして――狙い通り、竜国の公子アニルが魔王の発生を報せにやってきた。
 人の形も美しい青年だが、私は巨きな白竜の姿も好きだ。竜国の公子アニルはこのフィリスが助かるルートでしか出てこない。随分と朧気になってきた前世の記憶の中、攻略対象者の中では明るい彼が1番好きだった。
 とりあえずこれでもう、フィリスが魔王になることはないだろう。そう内心ホッとはしたが、魔王を倒せないのでは意味がない。

「ご協力いただきありがとうございます」
「……いえ、当然のことです」

 魔王となってしまった竜について、アニルがとつとつと語る。原因自体は知っている内容の通りだった。

「……申し訳ありません」
「? 何がですか?」
「魔王の発生を予測して立ち回っていたのですが、竜国で発生させてしまったので」
「クロヴィス様のせいでは」

 いや、私のせいだ。
 私がフィリスを生かすために、竜国に魔王が発生するように動いたから。他の誰が知らなくても、私はそれを知っている。
 一応言い訳をすると、竜国は国を大広に開いていない。なので外交を通じて連絡していて、魔女の末裔の兄弟を保護したように、未然に防げる可能性があるなら、素体となる竜の件についても対処をするつもりだった。
 しかしルートは発生させておかないと私自身やフィリス自体が危ないからと、そちらを優先した。
 結果――対処は間に合わず、複数の竜が犠牲になってしまった。
 それともうひとつ。本来このルートで公子アニルと結ばれるはずのセルジュは、フィリス一筋で彼に一切興味がない。

 ゲームはあくまでゲームの話ではあり、よく似ているとはいえ、今現在私が生きているここが現実なのだ。そしてこれからも、王族である自分は、簡単に人の運命を歪めることもあるだろうが、自分の意思で明らかに運命を誘導したことはない。

 単刀直入に言うと、罪悪感を抱いていた。

 その上通常のルートで人が素体となった魔王とは違い、生き物として強個体である竜が素体だ。鍛錬も経験も早々に積んだが、充分かどうかは分からない。
 一番の問題は何より肝心のセルジュが、いまだ勇者に目覚めていない。そうなれば、魔王の闇に対する有効打は、自分の持つ微かな勇者の光の力のみで、不安しかない。

 そんな心持ちで戦闘に入ったのがよくなかったのか、必然だったのか。

 努力出来ることは全部した。ゲームで言うところのレベルを上げるために、本来よりずっと早い段階でセルジュとともに旅に出て鍛えたはずなのに、勇者がいなければここまで苦戦するものなのか。
 素体である竜はともかく、闇の奔流は私の僅かな光の力しか効かない。竜体からのブレスはアニルが防いでくれて、物理は主としてセルジュが引き受けてくれているが、肝心要の攻撃が弱い。相手の攻撃を10だとすれば、1を返すのが関の山。
 力の差は歴然だった。
 無理ゲーすぎる。ここまで来て、死亡フラグを回収するのか。
 ああでも、魔王はもう発生しているし、私がいなくなってもフィリスにはセルジュがいる。むしろ私がいなくなった方が、いいのかもしれない。
 そんな考えが頭によぎった瞬間、闇がぶわりと膨れ上がり、私を取り込もうと包み込んでいく。

「セルジュ来るな! どうせ相手の狙いは私だし、私の攻撃しかあやつには効かない――ッ!」
「――殿下!!」

 こうなってしまえば、今は私を囮に引いてもらって、セルジュを生かしてどうにか勇者の力に目覚めてもらうのが一番だ。ここで共倒れして、魔王を倒せなければ元も子もない。

 セルジュが、アニルの背から飛び降り、私に向かっていた攻撃を叩き切った。魔王が後退るとともに、闇も少し引いていく。ただ魔王の素体部分にはかなり効いていたが、すぐに闇は蠢き盛り返している。これは、もう。

「……セルジュ、お前ではどうしようもない! 引け!!」
「殿下はフィリス様の元に帰ってください。心配しなくてもここは俺が必ず切り拓きますから!」
「セルジュ! 駄目だ!!」
 
 来るなと言ったのに! ああ、こいつはそういう奴だよな。フィリスのためにが一番だろうが、そもそも人の犠牲をよしとする性格ではない。
 どうにかセルジュを引かせなければ。共倒れが一番不味い。
 けれど通常時でもセルジュの方が圧倒的に強いのに、消耗しきった今の状態で勝てるはずもなく、私はセルジュの手で、竜体のアニルの方へと突き飛ばされてしまう。事前に打ち合わせていたのか、アニルも大きな手で私を掴んで離してはくれない。そのまま戦闘の範囲内から遠ざかっていく。
 アニルの手の中で踠きながら見れば、唯一の標的になったセルジュに向かって、闇が押し寄せている。

「アニル殿! 離してください! アイツだけでは……!?」

 ところが、覚悟を決めたように魔王に対峙し、剣を一心不乱に振るい始めたセルジュ。これまでであれば闇に対しては一切効いていなかったセルジュの攻撃で闇が祓われるように散っては消えていく。

「クロヴィス様、セルジュ様が――!」
「……あいつ、漸く……」

 この土壇場で目覚めるなんて、英雄ヒーローは遅れてやってくるなどというが、遅すぎだろう。

 しかし、せっかく格好良かったのに、魔王にトドメを刺す際の台詞は如何なものかと思うが……それもまた、セルジュらしくて、思わずふっと笑ってしまった。
 
 
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