設定はどうでもいいから、どうか報われますように

metta

文字の大きさ
21 / 31
王子様視点

02 王子様と推しの番犬

しおりを挟む
 
 それから3年が経ち、私が少しずつフィリスと距離を詰め、「フィー」と愛称で呼べるようになった頃。
 
「殿下、ケリング辺境伯の御子が城に来られるそうですよ」

 剣術の授業を終えて部屋に戻れば、ウォルから報告が。こんな時期に何故。

「……王都で祭りもないし、夜会などもない時期なのに?」
「ですよねぇ……」
「何かが始まるのか……?」
「クロヴィス様の言う通りでしたら、辺境伯の御子が勇者ってことですもんね……」

 そう。ゲームの主人公はかつて単騎で竜討伐を成し、剛剣と呼ばれたケリング辺境伯の子。厳しい父に育てられ、類まれなる才能を持つ武の申し子で、やがて騎士となり勇者となる。
 謁見室で見た主人公セルジュはクリーム色の髪にくりっとしたヘイゼルの目をした元気そうな少年だった。猛獣のような雰囲気である辺境伯と比べると子犬のようで、将来の姿をそのまま縮小した感じでもある。手足も大きくフィリスと同い年の割には体格もいいが、幼少期はなかなか可愛かった。
 セルジュは本人の意思にかかわらず、私とフィリスの運命を握る人物である。このような時期に城へやってきた理由も含めて、できれば早々に話をしておきたい。
 ただ、そう思ってはいるものの、私はこの閑散期に色々予定を詰め込んでおり、なかなかセルジュと接触できないままでいたのだが――

「あの、殿下。お忙しいところ恐縮ですが、フィリス様とセルジュ様の仲を取り持ってあげていただきたいのですが……」
「……はぁ?」

 セルジュの動向を探って欲しいので、期間限定でウォルをセルジュにつけていたのだが、一体どういうことだ?

「セルジュ様、こんな時期に城へ来てしまったから、何かを学ぶどころか同世代との交流も儘ならない状態なので少しお気の毒で。今、城に同世代となると、殿下とフィリス様しかいないんですよ」
「……そういうことなら夕食にでも招待するか」

 私もセルジュとは話しておきたかったから、ちょうどいい。では早速とフィリスに伝えようとしたところ、ウォルに急いで止められてしまった。

「殿下、できればフィリス様にはギリギリまでお伝えしない方が」
「……何故」
「セルジュ様、あまりにすることがないので、どうにかフィリス様と仲良くしてほしいという気持ちが先走って……フィリス様が不審がって怯えてしまっていてですね……先に言うと逃げてしまうかも」
「……何があったんだ何が。フィリスが嫌がるようなことをしたのであれば、さすがに同席はさせんぞ」
「嫌がることといえば嫌がること……なんですが、フィリス様も殿下以外に仲良い方がいないので、同世代との接し方が分からずなので、どっちもどっちといいますか」
「……それは、確かに……」

 フィリスの対人スキルを考えると、ぐいぐい来られて疑心暗鬼になって警戒しているのも想像はできる。なら一応はウォルの案に乗っておくか。

 ――と思ったのだが、どうも失敗だったようだ。

 フィリスはすこぶる機嫌が悪いし、セルジュはセルジュで緊張している上に、慣れないマナーに気を取られているのが丸分かりだ。話どころではない。
 せっかくこじんまりとした食事にしたのに、定型のような会話しかできず、フィリスも「今日は疲れたのでもう休みます」と言って、さっさと部屋に引きこもってしまった。

「うーん……駄目でしたねぇ……」
「いや、あれでは無理だろう……もっと別の方法を考えないと……」
「でもフィリス様も警戒しちゃいましたし、どうしましょうかね……」

 セルジュ滞在もあと僅か。こんな調子で一体どうしたものやら……と思ったのも束の間のこと。

 +++

「――フィリスが!?」
「殿下、落ち着いて。賊はもう全員倒されてますから!」

 白昼堂々、城内でフィリスが攫われそうになる事件が起き、すんでのところでセルジュがフィリスを助けてくれたらしい。ウォルに呼ばれて現場にいけば、犯人達は全員気絶し、拘束されて転がされている。

「これを一人で?」
「はい。セルジュ様があっという間に」

 ……強い。この歳で荒事に慣れた大人達を一撃で沈めるなんて、強すぎるだろう。流石は主人公である。
 そして肝心の2人は少し離れたところにいた。フィリスは頭から上着を掛けられ、その隣ではセルジュが心配そうに見つめながら、不審な動きをしている。
 不審と言うと言葉が悪いか。あれは多分、頭や背中を撫でて慰めてやりたいが、そんなことをしてもいいのだろうかという迷いからの挙動不審だ。
 傍から見れば、泣いている飼い主にオロオロしながら寄り添う犬のようだが……これは違うと直感した。

 ――お前がフィリスに惚れるのかよ。
 見る目だけは認めるが、大丈夫か。

 けれどそれはこの世界が、やはり「ゲームによく似た世界」だということを証明するのに他ならない。
 そちらに一瞬気を取られていると、ようやく死屍累々としている中の一人が目を覚ました。一応申開きはあるかと聞けば。

「グラウ公爵家の出来損ないなど――」

 くだらない。どうせ公爵の敵対派閥の手の者だとは思っていたが、案の定。フィリスを伴侶とするデメリットを独りよがりに説いてくる。ああ、フィリスはさっさと部屋に帰すべきだった。話を聞くたびに表情が曇っていく。あまりに腹が立って脅し上げてしまったが、こんな子どもに呑まれるような雑魚はどうせ捨て駒だ。さっさとプロに引き渡そうと、連れていくように命じ、セルジュにフィリスを助けてくれた礼を言った。

 しかし経緯を聞いていくと「そんなことあるか?」というのが正直な感想だ。まるで犬猫の追いかけっこのようで、思わず素で笑ってしまったが、自分より身分の低い人間がすげなく断っても断ってもめげずにしつこく追いかけてきたら、そりゃあ怖い。前世ならストーカーでお縄である。

「とりあえず、父に報告するので、一緒に来てくれ。フィーは侍医に診てもらって休んでいろ。あとで行くから」
「はい」

 するとフィリスはセルジュになにかボソボソと言って、逃げるように去っていく。きっと勇気を振り絞ってお礼を言ったんだろう。あの強さだから野暮ではあるが、一応セルジュも貴族の子どもだ。危ない時はちゃんと助けを呼ぶようにやんわり注意はしておこうと話を振れば。

「あそこは守りが甘そうだなっていうのと、万一何かあったら、ここから逃げられそうだなって思っていたので、助けを呼びに行っていたら間に合わないかと思いまして……」
「……なるほど。今後そういうことは、先にこっそり教えてくれると嬉しい。お預かりしている立場からすれば、セルジュに何かあってもいけないからな」
「いや、父は『修業が足りん、鍛え直しだ』とか言うだけだと思うので大丈夫かと」
「ええと……」
「けど普通はそうですよね。申し訳ありませんでした」

 会話が若干噛み合っていない気がするが、大丈夫だろうか。
 そしてそのズレの原因はすぐに判明することとなる。

 +++

「えぇ……?」
「やっぱり引きますよね? 私の感覚がおかしいんじゃなくてよかった」
 父との話も終わり、自室で今後の話をしながら、何故急に王都にやってきたのかとそれとなく聞いてみれば……。
 主人公が突然王都にやってくるなんて、一体何が始まるのかと身構えていたが、何のことはない。
 セルジュ曰く、妻ともっとイチャつきたい辺境伯が、体良くセルジュを追い出すために王都にやろうとしただけなのだという。追い出すにしたってせめて時期くらいは考えてやれよ。人の親なんだから。
 しかしセルジュもセルジュでこんな目に遭っているというのに、呑気というか天然というか、ぶっちゃけ脳筋というか。
 設定では厳しい父に育てられ、類まれなる武の才能を現した天才少年だったはずのに。

 いや、強いのは事実だし、確かに口で説明すれば同じなんだが、あまりにニュアンスが違いすぎる。何でこんなにもコメディ寄りなんだ。主人公=硬派とか真面目とかそんなイメージがあったが、よくよく考えたら主人公って基本喋らないからな。意外とこんなものなのかもしれない。

 しかし、これ、大丈夫か?

 ここがゲームの世界ではなく、ゲームによく似た世界だというのなら、主人公だからといって安牌とは限らない。
 ならやはりセルジュは近くに留めておいた方がいい。
 辺境伯がセルジュの学びについて何も考えていなかったのもある意味功を奏し、城で一緒に学びながら護衛をしてもらうという意見はすんなり通った。

 そしてセルジュとフィリスはというと。
 フィリスは私とは仲良くしていたが、そこには多少の上下関係がどうしてもあった。しかしセルジュに対してはその壁がないし、セルジュはよく言えばかなりおおらかな性格をしているため、フィリスのキツい言い方を気にしない。フィリスも気にせず喋ることが出来るのは楽しそうだ。
 見た目で言うなら、まるでゴールデンレトリバーの子犬とロシアンブルーの子猫。なんか前世でやってたゲームの世界なはずなのに、子犬と子猫の動画を見ている気分になる。じゃれているが、犬が調子に乗って猫パンチを食らわせれる。まさにあんな感じである。
 ただ、普段は「遊ぼ遊ぼ!」という雰囲気で、腹出し全開人懐っこいセルジュだが、戦闘では人が変わり、最適な動きを取るし、何より鼻が効き、フィリスの陰口なども嗅ぎ取って潰してくれ、正直番犬としてものすごく優秀である。
 そしてそんなセルジュに、フィリスもフィリスで満更でもなく……というか、愛情に飢えている子がここまで懐かれ、献身と好意を見せられたら、気になるのも無理はない。砂時計が少しずつ落ちていくように人がゆっくり恋に落ちていく様を、私は隣で見ることになる。

 しかし、もう少し寂しく思ったり、嫉妬めいた感情を覚えるかと思ったのだが、私はそれを嫌に思うことは全くなく。ゲームのとおりにならないのであれば、それに越したことはないと思うだけだった。
 窓から揺れる木々や花を眺めるかのような、穏やかで美しいものを見るような気持ちで、彼らのことを傍で観ていた。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄

笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。 復讐不向きな主人公×ツンツンクーデレな兄ちゃん 彼氏に遊ばれまくってきた主人公が彼氏の遊び相手に殺され、転生後、今度こそ性格が終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。 そんな中、ゲームキャラで一番嫌いであったはずのゲスい悪役令息、今生では兄に当たる男ファルトの本性を知って愛情が芽生えてしまい——。 となるアレです。性癖。 何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。 本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。 今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。 プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。 性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。 いいね、ご感想大変励みになります。ありがとうございます。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

処理中です...