羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

文字の大きさ
22 / 57
8章:交際スタート

8-1

しおりを挟む



―――俺はみゆを離さない、離す気もない。

 ずっと、先輩の低い声が耳の奥に残ってる。
 先輩、それってどういう意味……?




 ふに、と唇に柔らかい感触がした。
 そのうち、唇をこじ開けられて、中にぬるりとした何かが入り込む。夢かと思いまた眠りに入りそうになったけど、やけにグニグニと遠慮なく口内を動き回るそれに息ができなくなって、慌てて目を開けると、目の前に羽柴先輩がいた。

「んんんんんんんんんんーーーーーーーーー‼‼!?」

 意味が分からずに混乱して、目の前の羽柴先輩の胸元を殴ると、名残惜しそうに先ほどまで自由に動き回っていた先輩の舌と唇が離れる。
 それを見て、私は先輩を睨みつけると、

「朝から何で先輩がここにいて、朝っぱらから何勝手にキスしてんですかぁああああ!」

と叫ぶ。私の記憶が確かであれば、今日は月曜日の朝。ここは私と父の住む家だ。

 先輩は私が怒っていることは全く気にもせず、にこりと笑うと、「おはよう、みゆ」と私の頭を遠慮なく撫でた。私は思わず、その手をパシン、と払いのける。



「強制わいせつと不法侵入で訴えますよ!」
「だから訴えても無駄だって。しかも今日から鯉たちの世話しに来てるだけから」
「鯉の世話係って、まさか先輩⁉」
「そうだよ、言ってなかったっけ」

「お父さん! お父さん⁉」

 私は慌ててベッドから抜け出すと、家の中に父の姿を探した。
 まさか父がいれば、こんな男の侵入を許すはずがない……そう思ったのだけど。


 キッチンにいたのは、いつも通り花柄のエプロンをして卵焼きを焼く父。
 父は楽しそうに笑うと、おはよう、と言った。

「ちょっと鯉の世話係が先輩ってどういうこと? いや、そもそも私の部屋に勝手に先輩をいれないでよ!」

 そんなことを叫んでいる時に後ろから先輩がやってくる。
 父はまた笑うと、

「お世話係なんて小学校の頃を思い出すよねぇ」
と言い出す。それに先輩は、

「あ、俺はウサギの世話係してました」
「僕もだよ、奇遇だね」

「何、ほのぼの家族みたいな会話してるのよ!」

 私はテーブルをバシンとたたく。完全に怒りに打ち震えていた。

 嫁入り前の娘の部屋に非常に危険な男を入れた父も父だ……。しかも父は刑事で危機管理能力は誰よりもあるはずなのに! 何考えてんのよ!

 それに先輩も先輩だ。何の許可もなしに、勝手に朝からあんなバカみたいに濃厚なキスするなんて考えられない!

 少なくとも今までは、私がいいって言うまで、なにもしてこなかったはずだ。

(なのに、どうして……⁉)


 先輩は、怒る私に向かって、
「ほら、早く着替えないと遅刻じゃない?」
と悠々と言う。時計に目を向けると、いつもの起床時間を30分すぎていた。

「って、なんで目覚ましならなかったの⁉」
「俺が止めた」

 先輩が言う。

「はぁ⁉ なんで?」
「気持ちよさそうに寝てたし、ほら目覚ましより目覚めのキスの方が目覚めよさそうだから」
「いいわけあるかぁ!」

 そう言いながら慌てて部屋に戻ると、すぐに着替えて、リビングに走る。

 おかずの既に置かれたテーブルに座ると、
「はい、ごはん」
と白米の入った茶碗が先輩から手渡された。

「ありがとうございます」

 そのままご飯をかき込むように食べ、おかずに手を付ける……ところでおかしなことに気づく。


「……って、なんで先輩が普通に朝食を渡してくるんですかーーーーー⁉」

 そう。先輩はいつの間にか、新妻のように我が家になじんでいる。
 ってなにやってんだ! あなたの仕事は『鯉の世話』だけでしょうが!



 私が怒っているというのに、なぜか突然、先輩は私の頬を右手で触る。
 その手の熱にあの夜のことを思い出して、ビクンと身体が跳ねると、先輩は満足そうに笑った。

 私は黙り込む。
 やめて、もう思い出させないで。なんだか、落ち着かないしおかしくなりそうでいやだった。泣きそうになると、先輩は私の頬から手を離して、
「ほら、ご飯粒ついてた」
と私にご飯粒を見せると、それをパクリと自分の口に入れた。


「~~~~~~~~‼」

 キッチンから、僕もそういう時期あったなぁ、と父の懐かしむような声が聞こえる。

(お父さんにもしっかり見えてるし!)

 なに、これ。これ、何の罰ゲーム?
 私が言葉に詰まっていると、先輩はまた楽しそうに笑った。



 いたたまれなくなった私は立ち上がり、そのまま無言で出勤の用意を進めて、
「行ってきます!」
と玄関に向かう。玄関先まで先輩もやってきて、

「みゆ、一緒に……」
「遅刻しても一緒には行きません!」

 私は先輩の言葉をぴしりと遮ると、じゃ、と行こうとする。
 そんな私の手を先輩は強引に引っ張った。

「じゃ、これだけいい」

 そう言われて、またキスをされる。思わず抵抗しても、まったく聞き入れてくれず、そのまま長く深いキスをされた。
 頭がゆだるような熱いキスに意識が飛びそうになった時、やっと先輩の唇が離れる。先輩は、甘いとろけるような目で、こちらを見ていた。

「な、な……!」

 私はもう言葉にならない声しか出ない。
 先輩はにこりと笑うと、行ってらっしゃい、と微笑んだ。

「くっ……!」

 泣きそうになった私は言ってきますとも言わず、そのまま走り出す。

 あの朝、身体を重ねた日の朝、絶対恥ずかしくて今後先輩と顔を合わせられない、と思っていたけど、あれから半強制的に毎日のように先輩と顔を合わせることになっている。


(なんだ、なんなんだーーーーーー! 一人で恥ずかしがる暇すら与えてくれないのか!)


 叫びだしたい気持ちを抑えて私はバス停まで全速力で走った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...