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11章:もしかして先輩の愛は重いのかもしれない
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しおりを挟む―――私の本能はばかにできない。
ぼんやりと私は、先輩の家のベッドの上で、そんなことを思っていた。
「今……何曜ですか」
「日曜かな」
「……にちよう」
そう、気付いたら日曜の朝だったのだ。
いや、タイムスリップしたのではない。この2日の記憶は嫌と言うほど私の脳裏に刻まれてしまったし、なんなら身体にだって刻まれ、物理的にはおかしいくらい身体中シルシがつけられている。それを見るだけで泣けてくる。
―――みゆが疑う余地もないくらい、分からせてあげたくなっちゃった。
あの意味を今、身をもって知って、ゾクリと身体が冷える。
怖い。羽柴先輩、怖い。私は、今、もうまったく、先輩が誰かとこういう事になるとか疑っていないし、すっかり毒気を抜かれた気分だった。
そして思った。私は普通のお付き合いがしたい。
ってそもそも普通のお付き合いもしたことないけど、少なくとも、金曜の夜に会ってそのまま先輩の家のベッドの上に連れ込まれて、日曜の朝まで、水分と軽い食事以外ずっとそういう事をしているのは、発情期の猫にだってなかなかないだろう。
お願いだから、1週間に1度、一晩で2回まで、とか回数制限をしてくれないか。最悪一週間に2回でもいい。その場合一晩で1回でお願いしたい。
いや違う。本音を言えば、1か月で1度、1回まででいい!
それを頼むのは恥ずかしいけど、でも言わないとたぶんいつか私はこんな訳の分からない恥ずかしい理由で死ぬことになる……。私はなんだか先輩が憎らしくなって先輩の顔を睨んだ。
なのに先輩は嬉しそうな顔で目を細めると、私の髪を愛おしそうに撫で、
「ちょっとは慣れてきた?」
と聞いたのだった。
「は⁉ な、慣れるはずないでしょう!」
「そう? じゃ、もっとして慣れないとねぇ」
そのとんでもない内容に、ひ、と思わず声が出る。
「そう言う意味じゃない!」
もう泣きながら枯れた声で叫ぶと、先輩は困ったように笑って、
「ごめんって。からかっただけ」
とふざけたことを言う。
その内容は冗談には思えない。すでに身体が冗談とは認識できていないので、即刻やめていただきたい。
私は泣きながら、
「謝るくらいなら最初から言わないでください!」
と言うと、シーツを身体に巻き付け、もうやだ。帰る、と叫んだ。
「うん、分かってる。夕方送るからね」
「やだ。今すぐ! 寝たいもん。ゆっくりしたいもん!」
「ここでゆっくりすればいいじゃん」
「落ち着かない! 先輩ヘンなことばっかするし!」
「ヘンじゃないでしょ。みゆの全部愛したいだけで」
「あぁ! もう! ああいえばこう言う!」
(もう一体何なんだ!)
なのに完全に怒り心頭の私を先輩は大事そうに抱きしめる。
そして腕の力を強めると、
「みゆ、わかった? 俺がみゆのことだけ愛してるってこと」
と耳元で聞いた。その低くて熱っぽい声に反応して、いちいち身体が熱くなる。
なにこれ、パブロフの犬か。怖い。羽柴先輩怖い。
「わ、分かりたくないけど、わかりました!」
「うん、いいこだね」
そう言って頭を撫でられる。その手のぬくもりに一瞬絆されそうになった。
ナニコレ、子ども扱い? むっとして見上げると、また楽しそうに笑われる。
いちいち、そんなに嬉しそうにしないでよ。
許してしまいそうになる。
いや、でも、絶対に許してはいけない。これ流されてこのままこんなことが続いたら確実に死亡案件だ。
先輩はベッドサイドのペットボトルの水を私に渡すと、
「次の土曜は、一樹がメシいこうって言ってたよね」
と言う。
私はそれをごくりと喉に流し込む。水が枯れた喉に心地よい。
そして口を開いた。
「はい。時間とか場所は?」
「うん、また俺から連絡する」
そして先輩は何かを思い出したように眉を下げて、
「それで、残念な話しなんだけど……明日から土曜まで俺が出張でさ、みゆに会えないんだよね……」
と心底寂しそうに言ったのだった。
でも、私は、えぇ! と言って、思わず目を輝かせそうになった。
だって、この一週間、考えてみたら酷かった。先週の金曜から何度も先輩に会ったのも良くなかった。そのたびに何度も抱かれて、私の身体はもう限界だ。足もがくがくだし、正常な判断力もどんどん鈍っていく。
だからこそ、先輩の出張報告に内心かなり喜んでしまった。これは、私のせいではない。
そんな私を見て、先輩は訝し気に眉をよせた。そして明らかに不機嫌なオーラが先輩から発せられる。
「え? 何その反応……」
「い、いや、なんでもないです」
「心なしか喜んでない?」
「まさか!」
そう言ったけど、声が裏返った。
また先輩が不機嫌そうに眉を寄せる。
「みゆ?」
名を呼ばれて背中に冷や汗が流れた瞬間、世界がまた反転した。
金曜から見続けてる先輩の家の寝室の天井と、先輩の顔が交互に見える。
「ちょ、なんですか!」
「まだ俺の愛が伝わってなかったのかなぁって思っただけ」
「イヤ、だから十分に伝わって……んんっ!」
また強引なキスに驚いて先輩を見ると、先輩は当然のように舌を差し入れてきた。
「せ、先輩っ」
そのまま、キスは首筋に、胸に落ちてくる。
暴れても先輩はまったくやめてくれることはなかった。
そしてまっすぐ私を見つめると、
「やっぱ帰るのは夜ね。みゆがこの一週間、他の男なんて目に入らないほど俺のこと覚えていられるようにしとかないと」
ときっぱりと言う。
(もう正直、男も、愛情もこりごりですーーーーー!)
そんな言葉は、言葉にならない自分の声によってかき消されることになる。
そしてその時、
私ほんのり気づき始めていた。
いや、これまでも気付いていたけど、
できるだけ見ないふりをしていたのかもしれない。
―――先輩の愛って、なによりも重いんじゃないかってこと。
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