パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう

文字の大きさ
28 / 36

26 エドガーサイド

しおりを挟む
ジルに、護衛兼世話係として雇われてからどれくらいたったのか。
ジルは普通に歩く分に困らない程度の速度で歩けるようになり、積極的に外を歩くようになった。なので、ジルはほとんどのことは自分で出来るようになって、俺の仕事はもっぱら必要なのかも分からない護衛と簡単な家事くらいになった。

そういう生活になってしばらくしてから、俺はジルにマスクだけではなく、眼鏡も外して良いと許可を出された。
俺はエドガーなのだからエドガーに見えて当たり前なのだが、ジルは俺のことがエドガーに見える病気だと思っている。

ある日、ジルは、自分は他の世界線から来たのだと言った。
それはニコルが俺に捨て台詞のように言った話と同じで、あの時妙に俺の中でしっくりきたから、ジルの話をすぐに信じられた。

『エンバルトリアへ向かう前に、その人の恋人に言われたんだ。自分なら好きな人に看取らせる生き方はしないと。確かに俺は、そんな生き方は出来ないし、その人を幸せにすることなんて出来ないと諦めてエンバルトリアへ行った』

ジルの言う、俺の恋人と言うのはニコルのことだと分かっている。
だが、ジルが俺に看取らせない生き方を選ぶために、俺を諦めると言うのは納得できなかった。
俺の行いが許せなかったとか、俺のことを好きでは無くなったのではなく、俺のためを思って身を引くのは嫌だと思った。

ジルが俺に看取らせない生き方が出来ないのと同じように、俺だってジルに看取らせない生き方はできない。
そもそも、看取らせない生き方とは何なんだ。
家で俺の帰りを待てればいいのか? 
俺はそんなのは望んでいない。
一緒に笑って、一緒に戦って、そうやって苦楽を共にしたい。

俺の幸せは、ジルと共に生きることなのだともっと早くに気がついていれば。

ジルのそばに居るようになって、俺はどんどんジルを好きになるのに、ジルは日が経つにつれて俺に興味を失っているかのように見えた。

『知らぬ間に違う世界の自分と重ねて見てしまって申し訳ないことをしたと今では思っているんだ』

俺に対してそんな風に言うジルに胸がドクリと脈打った。

『その人のことを、もう好きではないと言うことですか』
『まぁ、そうなのかもな。この世界のその人にはもう大事な人がいるからな。ほら、メガネ外せよ』

俺のことをもう好きではないのだと言われてショックを受けた。
ジルは俺をもう好きなはずがないと思っていたし、分かっていたのに、直接聞くと胸が張り裂けそうなくらいに痛かった。

『何で悲しそうなんだ?』

その言い方が本当に不思議そうで、そして心配そうで俺はいまだに痛む胸を意識しないように答えた。

『ぁ……いえ……いえ。何でもありません。では、今日からはメガネも外します』

そう言った俺にジルは満足そうに笑った。

俺がエドガーなのだと気がついて欲しい。
けれど、気がつかれたら側にはいさせてもらえなくなるかもしれない。

ならば、やはりこのままルノーのままで側にいられる方がいいのだろうか。

ルノーが本当は俺だったと知ったら、ジルはショックを受けるだろうな。

そんな風にぐるぐると考え続けた。

しばらくして、食材の買い付けに一人で街に下りている際、声をかけられた。

「エドガー教官」
「ニコル……何のようだ」

見るとニコルは頬がこけ、目の下には隈ができていた。
その窶れた様子に驚きつつもニコルの方に数歩進み出ると、ニコルは口の端をニンマリと上げた。

「迎えに来ましたよ。あれからずっと帰ってこないんですもん。僕たち付き合っているのに」
「俺はお前とはもう付き合っていない」
「付き合ってるよ。付き合ってます。ああ、教官は僕と付き合ってる。教官は僕を好きで、僕も教官が好き。愛してるし、愛されてるし、だから僕たちは一緒にいないといけないんだ」

ぶつぶつと早口で話す様は、元々のニコルとは似ても似つかない。

「ニコル、俺はお前を愛していないし、好きでもない。そんな気持ちで交際したことは申し訳なかった」
「教官は僕を愛してるよ。大丈夫ちゃんと愛してる」

ニタニタと笑いながら焦点の合わないニコルの様子はとてもまともには思えず、俺は仕方なくニコルを訓練施設に送ることにした。
訓練施設には軍の病院が併設されているのでそこで診てもらおう。

そうして俺はニコルを送り、多少時間はおしたものの、夕食を作るほどの時間は残っていてジルの生活を支える邪魔になることはなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ
BL
1年前、困っていたところを助けてくれた人に一目惚れした陽依(ひより)は、アタックの甲斐あって恩人―斗希(とき)と付き合える事に。 だけど変わらず片思いであり、ただ〝恋人〟という肩書きがあるだけの関係を最初は受け入れていた陽依だったが、1年経っても変わらない事にそろそろ先を考えるべきかと思い悩む。 その矢先にとある光景を目撃した陽依は、このまま付き合っていくべきではないと覚悟を決めて別れとも取れるメッセージを送ったのだが、斗希が訪れ⋯。 イケメンクールな年下溺愛攻×健気な年上受 ※印は性的描写あり

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます

grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】 オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。 以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。 しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。 予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。 すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。 彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。   ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。 夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…? 夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか? ※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います) ※3万8千字程度の短編です

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続。 2025.4.28にも1位に返り咲きました。 ありがとうございます! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

処理中です...