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失恋
しおりを挟む人を嫌えば、その人からもまた嫌われると誰かが言っていた。
なら、人を好きになったら、その人は俺を好きになってくれるのだろうか。
なんて、そんなことはある訳がない。
ある訳ないと思っているけれど先輩が俺を好きにならないことを、「どうして!」と「俺はこんなに好きなのに!」と理不尽に責めたい。
「先輩、俺ね。実は失恋したんだよ」
「失恋……?」
ポツリと呟いた俺の言葉に、先輩は首を傾げた。
「そう失恋。まぁ、失恋と言っても最初から実らないって分かってたんだけどね。つい最近、本当に失恋しちゃった」
「最初から実らないって、なんでだ?」
「俺はその人のことが大好きだったけど、その人は違う人のことが大好きだったんだ……それで俺、良い人ぶって、好きな人の恋がうまくいくと良いなんて言って、お膳立てしたりしたんだ」
「それは、ずいぶんとお人好しだな」
先輩が呆れた様にそう言ったから、なんだか面白くなって「ふふふ」と声が漏れた。
「そうなんだよ。今だったら自分でもそう思う。でも、実際好きな人が本当に付き合いだしたら、おめでとうなんて言える気持ちじゃなくなって……。気まずくなって。後から気がつくなんて本当、馬鹿だよね」
「……そうだな」
先輩はそう言って、一度立ち上がり、俺の横に座り直した。
「実は俺も失恋したんだ」
「え!? わっ」
先輩の衝撃的な発言にズルリとベットからタオルケットごと落ちそうになり、それを先輩に受け止められた。
「道に親御さんから電話がかかってきて、一緒に帰らなかった日があるだろう。実はあの日に律葉に告白したんだ」
「そ、だったんだ」
先輩も失恋したと聞いた後でも、その話はズキズキと心臓に刺さる。けれど先輩は続けた。
「好きな人がいるから、と断られたが、俺は特にショックだとかそういう感情が湧かなかった」
「え……? 何でですか」
俺は、先輩が律葉と付き合ったという噂を聞いたとき、ショックだったし辛かった。
「何でだろうな。俺にも分からない。ただ、俺が律葉と付き合ってることにすれば律葉のストーカーは律葉を諦めるかもしれない。逆に怒ったとしてもそれで炙り出せるかもしれないと、交際することにしたと噂を広めた。そうすることがただ効率が良いと考えていた。嘘でも交際することが嬉しいとかそういう感情も湧かないし、不思議だった」
確かにそれは不思議だけど、それに対して俺が何と返事をすれば良いか分からない。
「その……。先輩は、もしかしたら自分の感情に気が付きにくいのかもしれませんね。それか、ショックとかは後から来る時もありますし。まだ感情が追いついていないだけかも」
それに芸術方面で秀でた人は、どこか変わっている人が多いイメージがある。先輩もそうなのかもしれない。
「そういうこともあるのかもしれないと、自分でも思った。だが、違った」
「え?」
「道と連絡が取れなくなって柄にもなくイライラした。既読もつかず、電話もつながらない。何があったのかと心配でこっそりクラスを覗いてみれば、藤井という生徒と仲良く話していて心底腹が立った」
「え……えっと、その……、連絡を無視してしまい、すみませんでした」
スマホの電源を切っていたことがそれほどまでに先輩の逆鱗に触れていたなど、1ミリも思っていなかったので、俺は戦々恐々としながら頭を下げた。
「連絡に対して返事が来ないなどと、俺はそんな理由で怒ったことがない」
「は、はい。本当に、すみません」
「謝らないでくれ。俺は謝らせたいわけじゃない」
「すみ……、あ、はい、その」
返事に困っている俺をスルーして、先輩は続けた。
「さっきも、道が藤井と一緒に寮の自室に入っていったと聞いた時は道に何かあったらと恐怖を感じたし、裸で抱き合ってる姿を見たときはとても冷静ではいられなかった。だから俺は感情に疎いわけではなさそうなんだ」
冷静を通り越して、なんの感情もない顔を向けられていると思っていたけど、先輩の中では違ったらしい。先輩の言っていることを聞いていると、まるで先輩は俺のことが大好きみたいに聞こえる。
けれどそんな訳はないので、勘違いしないように心を落ち着かせることで必死だった。
「こんな感情は初めてで、これが何なのか分からない。道は分かるか?」
まるで子犬のような瞳の先輩に見つめられて俺は慌てて首を振った。
「お、俺にもちょっと」
「そうか」
先輩は残念そうに俯いた。
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追記1:2025/6/12
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追記2:2025/10/3
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