(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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先輩の甘やかし

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先輩と交際することになったことを律葉に報告するのを忘れていたので、放課後寮への帰り道で報告をした。先輩は帰りも一緒に帰りたがっていたけど、テスト期間が終わり風紀の仕事をしなければならないらしく、渋々といった体で仕事に向かっていった。

「律葉、俺、朝報告するの忘れてたんだけど辰巳先輩と付き合うことになったんだ。と言ってもまだお試しなんだけど」
「お試し? ってのは分からないけど。付き合ってるのは、そうかなぁって思ってたよ」
「え? 何で?」
「だって、お昼に先輩がわざわざ迎えにきて、その上手作り弁当でしょ?」
「あー」

律葉の言葉に納得して、じゃあクラス中にバレてるんじゃないかと項垂れた。

「それに、今朝からガッツリついてるもん。先輩のアルファのフェロモン」
「え?」
「道、気がついてなかったの? 道についてるフェロモン、めちゃくちゃ先輩の執着を感じるよ。あーあ。僕、なんだか道たちの痴話喧嘩に巻き込まれたみたいな感じ?」
「ちっ、違うよ! そもそも喧嘩なんてしてないし……」
「ふぅん。まぁいいけどさぁ」
「でも……。先輩俺にフェロモン付けてくれてるの? 全然気がつかなかったけどそれめっちゃ嬉しい」
「何それ。胃もたれしそうだよ」

律葉はそう言ってお腹の辺りを押さえながら顔を引きつらせた。

「ねぇ、先輩のフェロモンってどんな匂い?」
「あー、そういえばベータの人は匂い分からない人が多いんだったっけ」
「う……うん。そう」

俺はベータではないので、嘘をついていることに気が引けながらもうなずいた。

「んー、先輩のフェロモンは、何か石鹸みたいな匂いだよ」
「へ~。石鹸かぁ。嗅いでみたいなぁ」

心因性フェロモン不全の症状の一つで、俺はアルファの匂いが分からない。
病気が治ったら先輩の匂いが分かるようになる可能性があるのだと思ったら、今まで治すやる気がなかったのが、一気にやる気になってきた。

「とりあえず先輩には俺を好きになってもらわないと。どうしたら良いと思う?」

あれやこれやと頭に思い浮かべながら、律葉にそう聞くと、律葉は、全力の呆れ顔を俺に向けた。

「道、まじで言ってるの?」

匂いが分からないやつはこれだから。

「え?」

最後に呟かれた言葉が聞こえず聞き返したが、律葉は何でもない、とニコっと笑った。

「前に言ったでしょ? 先輩って絶対世話焼きたいタイプだって。だから世話を焼かせたら良いと思うよ」
「え? それで好きになってくれる?」
「多分ね。好きになってくれるっていうか、めちゃくちゃ喜ぶと思う」
「そっかぁ」

よく分からなかったが、同じく世話を焼きたいタイプなのだと言う律葉のアドバイスを聞いて俺は先輩に甘えてみることにした。

さりげなくボディタッチをしたり、上目遣いをしたり、構って構ってとまとわりついてみたり、むしろ嫌われない? と思いながらも、先輩が好きな律葉が言うことだからといろいろしてみた。

けれどどれもうまく行かない。
先輩がそれを上回るスピードで俺を甘やかしにかかるからだ。

寒いと言う理由で先輩にくっつこうとする前に、「寒くないか?」とタオルケットで包まれるし、先輩の作ったご飯なんて何の要求もなく提供されて、タオルケットに包まれた俺の口元に運ばれる。雛鳥にでもなった気分で……、いや、むしろ赤ちゃんになった気分で甘やかされている。

このままいけば俺は、確実に1人では生きていけなくなるだろうと、冗談じゃなくそう思うほどに、至れり尽くせりで、好きじゃない相手によくここまで出来るなぁと感心するほどだった。

これじゃあ俺がさらに先輩の沼にズブズブに溺れさせられるだけで、先輩に好きになってもらえない。

お試しの期間がどれくらいを予定しているのかを聞いていなかったけど、それが終わる前に何としても好きになってもらいたいのに、先輩の甘やかしの手腕を前に俺は手も足も出ない状況が続いていた。
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