肉便器エンド!? それって最高じゃん

いちみやりょう

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25:先を越された

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俺はクライブからのバックハグを受けながら、内心かなり焦っていた。
クライブが助けに来ることは全くの想定外だったからだ。

「バトラルを連れて行こうなどと、許されるはずはない」
「バイロン先生まで!?」

魔族との間に立ち塞がったのは、バイロンだった。
剣を構え、真っ直ぐに魔族の男を睨みつけている。

「殿下、バトラルを頼んだ」

チラリとクライブを振り返ったバイロンが呟き、それに対してクライブが頷いた。

「もちろん、そんなことを言われなくても全力で守る。だが、バイロンも負けるなど、バトラルに恥ずかしいところを見せるなよ」
「……当たり前だ」

キンッ!! カンッッ!! ギンッ!!

バイロンが打ち込んだ剣を男が受け止め跳ね返し、さらに打ち込み跳ね返し、剣を打ち込む音が凄まじい勢いで始まった。
男は愉快そうに目を細め笑った。

「ふん。そうこなくては。こちらがオメガを望んだとは言え、簡単に渡されてはこちらとしても楽しくない」

カンッッ!! ガギンッッ!!

「バトラルは遊び半分で狙っていい相手じゃない」
「そんなに大事か。ますます気になるな。渡せば未来永劫、魔物にこの国を襲わせないと言っても渡さぬか」
「当たり前だ。バトラルを渡すくらいなら、魔物から自衛できるよう兵を鍛えるだけだ……。そうだな、殿下?」

打ち合いをしている2人は息切れもほとんどせずに、凄まじい勢いで動いている。そこからふいに飛んできた言葉に、クライブは俺の後ろから大声で応えた。

「当たり前だ!」
「ふむ。そうか。ますます面白い」

俺は事の成り行きを静かに見守りながらも、心の中で全力で首を横に振った。
だって、俺1人を渡せば未来永劫、国が救われるのなら絶対そうした方が良いだろ。
軍を鍛えるのにだって馬鹿にならない費用がかかるし、どれだけ鍛えたところで少なからず犠牲もでるのだから。
万が一俺がドMじゃなかったとしても、俺か国全部かだったら、俺を犠牲にした方が良いはずだ。そう思っていると、男はふいにニヤリと笑った。

「そっちのオメガも気にはなるが、別に我らとしては1人もらえればそれで良いのだ。だから、そちらのオメガでも構わないのだぞ」

男がそう言うと、今まで項垂れたままうんともすんとも言わなかったヨハイドが、ガバリと顔を上げ、バイロンやクライブが何かを話す前に勢いよく立ち上がった。

「僕は公爵令息です。だからもちろん、僕はこの国ために犠牲になる覚悟はできています!!」
「よ、ヨハイド!!」

ヨハイドが男に向かって走っていくのを、クライブに抱きしめられたままの俺は止めることはできなかった。

「ふん……ならば、こちらのオメガを連れていくとしよう」
「っ、な。待て!!」

バイロンの慌てた声が聞こえそちらを確認すると、男がバイロンからスッと離れたところだった。そして男は走り寄ってきたヨハイドを姫抱きにした。瞬間、抱いたヨハイドと共にスーッと消えて行った。

「ヨハイドォォォォォッ!!!!」

俺は思わずヨハイドの名前を叫んでいた。
ずるいぞ! お前、負けたって言ってたくせに! 何に負けたのかよく分からなかったけど、とにかく、俺が連れて行ってもらえる流れだったのに!

俺はクライブの腕の中で全力でもがいた。

「バトラル、大丈夫だ。大丈夫。落ち着け。私がついている。バイロンもいる。心配しなくて良い。連れ去られたファブランド公爵令息も、必ず連れ戻す」

クライブは俺の様子をどう解釈しているのか分からないが、腹に回した手をポンポンと優しく叩き、落ち着かせようと試みてくれていた。だから俺も連れて行ってもらえなかった憤りを必死で抑えて頷いた。

「……はい……ありがとうございます。クライブ様」

俺と同じでドMのヨハイドが、魔国に連れ去られ俺よりも先に最高のドM人生を歩み始めたと思うと、羨ましくて死にそうだが、そんな感情を持ち続けても意味はない。俺は深呼吸を数回して、前向きに、心の中でドM仲間の門出を祝うことにした。

(くそヨハイドめ。おめでとう。俺もすぐに断罪されてやるからな)

心の中で軽い悪態をつきながらも、日本にいた時も、この世界にきてからも、ドMの会話をする相手がいなかったから、ヨハイドともう話せないのだと思うと、少しだけ寂しかった。
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