【完結】いつか幸せになれたら

いちみやりょう

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11.僕の好きな人

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僕がこの城に連れてきてもらって1年ほど経った頃、僕は何をするのもとっても楽しかったけど、特に学校に行くのが好きだった。友達と遊ぶのも話すのも初めての経験で楽しかった。それに知らないことを知るのは楽しかったし、誰に咎められることもなく知識を吸収することは僕の趣味になった。

ある日、学校の授業では飽き足らなくなった僕は、城に住まわせてもらっていることを良い事に、図書館で本を読みあさっていた。

日によって『上手な花の咲かせ方』だったり『乗馬のあれこれ』だったり雑多に読んでいた僕は『魔国の歴史』についての本を手に取った。
魔国の関係する戦争や宗教の他にも興味深いことはたくさん書いてあったけれど、その中で僕に衝撃を与えたのは現在魔国を治めている魔王陛下の名前だ。

「現在の魔王であられるギルガリード・レオン・シュタウピッツ陛下は魔国暦5516年に第4代魔王陛下として即位されました」

その一文を声に出して読むと驚きはしたものの、妙に納得した。
ギルの名前はギルガリード。それは夢の中にいた頃直接教えてくれた。
確かに考えてみればここに暮らし始めて1年経つけど、ギルよりも上の立場のような人には会ったことがなかった。
ギルが何で僕に隠したかったのか分からないけど、陛下に絵をプレゼントした時に、ギルがすっ飛んできて喜んでいたのはそういうことだったのかと、ほぼ1年越しに僕まで嬉しくなった。

朝食や夕食の時や、花壇の花を一緒に世話をしている時、乗馬を教えてもらっている時など、ギルはいつも兄のように頼もしくて優しかったけど、文通の時のギルは何だかそれを優しく見守る父親みたいで、どちらにしろ僕を甘やかしてくれていた。

13歳になり、声変わりして声がほんの少し低くなってきて、けれど体つきはオメガらしく少し丸みを帯びてきた頃。僕は、他の人と比べて、特別にギルに好意を抱くようになっていた。

「最近、何か考え事をなさっていることが多いですね?」
「うん……。ニコラ、あのさ僕最近ちょっとおかしいんだ」
「何がでしょうか?」
「魔国のみんなは優しくて、みんな大好きなはずなのに、どうしてだか1人だけもっと好きな人がいるんだ。その人ともっと一緒に居たいって思ったり、僕だけを見てくれたらいいのにってワガママなことを思ったりする。何でだろう」
「なるほど」

ニコラは顎に手を当てて頷いて、それから嬉しそうに笑った。

「それは恋です! 断言します!!」
「恋?」
「はい。例えば、庭師のダミアンと侍女のクロエは結婚しているのをご存知ですよね?」
「うん。とっても仲良しだよね」
「そうです。カミーユ様が大好きになったその相手と、あんな感じに仲良しになりたいと思うのが恋です!」
「な、なるほど」

僕も知ってるほど、ダミアンとクロエは仲良しだ。
よく話しているのを見かけるし、二人で頬を寄せ合ってるのも見る。
二人は一緒にいる時はとても楽しそうだし幸せそうな顔をしている。
僕もギルやニコラと仲がいいけど、あんなに近い距離にいることなんてあんまりない。

確かに僕も、ギルとあんな風になりたい。
ニコラってすごい。

でもギルはこの国で一番偉い魔王陛下なんだ。僕じゃ全然釣り合わない。
だけど、ギルは僕をうんと甘やかしてくれるし、僕をいつも助けてくれる。

そうだ、小さい頃に繰り返し読んでいたあの絵本に出てきた王子様のように、ギルは僕を魔国まで連れてきてくれて、それまでの辛い出来事を忘れられるくらい幸せな生活をくれた。あの絵本の中の女の子が、王子様を好きになったように、僕がギルを好きになったのは必然なんだ。

必然というのは、必ずそうなると決まっているって意味だ。
ギルを好きになるのが必然なら、僕はギルに好きになってもらえるように、ギルと釣り合う人間になるしかないってこと。

僕の決意が伝わったのか、ニコラは笑顔で教えてくれた。

「魔国の法律では、性別や種族などは関係なく結婚することができるのですよ。ですから、カミーユ様もその方にアピールしてみてはいかがでしょう」
「アピール……」

アピールって何をすれば良いんだろう。
ギルが結婚したいと思うような条件……。
多分、魔王陛下の番になり、配偶者になるためには教養が必要だ。
今の僕にはそれが足りない。

けれども大丈夫だ。幸いにも僕が成人するまであと3年ある。

だから僕は、今まで以上に勉強を頑張った。
その他にもダンスを習ったり食事の仕方や姿勢などマナーを習ったりした。
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