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17.僕の帰る場所 完
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「カミーユ、何日ほど、ここに滞在できるんだい?」
兄がそう聞いてきた。
「今日の夕方にはもうカナンダスを出る予定です」
答えると、兄も父もショックを受けた顔をして「そうか」と呟いた。
その上ドニもキルティも悲しそうな顔をして僕を見た。
僕がどうしていいのか分からずにギルを見上げると、ギルも困ったように笑って息を吐き、僕の頭を撫でてくれた。
「カミーユが平気なら1泊でも数泊でもしていってもいいぞ? しばらく分の執務は終わらせてある。もちろん、今すぐにここを出て他の国を回ってもいい」
僕にしか聞こえないように、こっそりそう言ってくれた。
「……カミーユ、一日でもいい。泊まっていってくれないか」
どうしようかと迷う僕に父がそう言った。
「カミーユは食べるのが好きだと事前に聞いたから、おいしい食事やデザートを準備してあるんだ」
兄もそう続けた。
「カミーユ兄上と食事したいです」
「僕も」
弟たちにもそう言われ、僕は小さくうなずいた。
「では、1泊させていただきます」
「そうか……。ありがとう」
それから僕とギルが泊まるために用意された部屋に案内された。
とても豪華な客室で、ソファセットのテーブルにはお菓子がたくさん乗っていた。
夕飯の時間までは自由に過ごして欲しいと言われたので、僕はソファに座ってお菓子を眺めた。
「ここに来ることを、父や兄に伝えていたんだね」
「ああ。言っておいたほうが何かと都合が良いだろう? 嫌だったか?」
ギルは正面のソファではなく僕の隣にどかりと座って首を傾げた。
「ううん。そんなことないよ。ただ、こんなに歓迎されるとは思ってなかったからびっくりしただけ」
そう言うと、ギルはゆったりとした動作で目の前の菓子の包み紙を開けて僕の口に入れてきた。
甘くてサクサクした食感のそのお菓子は、食べたことはなかったけどとても美味しい。
「カミーユは、こんなにいい子で、可愛いい。こんな素晴らしいカミーユが愛されないわけがないだろう? だからカミーユが、父や兄や弟たちから愛されていないと思い込んでいるのを残念に思っていた」
彼らはカミーユが来る前に準備を頑張っただろう。それを感じたら、カミーユも自分の素晴らしさに気がつくだろうと思ってなと笑った。
ギルの気持ちの伝え方はストレートで、いつも照れてしまう。
だけど、分かりやすくて僕は好きだ。
その後の夕食はとても和やかに食べることができて、僕たちは今日初めて本当の家族だったのだと思うことができた。
この公爵家で過ごしていた8年間は、僕は別邸に寝ていたので今日初めて本邸の部屋で寝た。
緊張する気持ちもあったけど、横にはギルも寝ているので安心できた。
僕が寝ているこの建物に、家族がみんな寝ている。
何だかそう考えると、とても不思議で、心が浮き立つような素晴らしいことのように思えた。
夕食の席で父に、マリーがどこにいるのかを聞くとただ一言「生きてはいる」と言っただけでどこにいるなどは教えてくれなかった。
それに僕も会いたいわけではなかったので、それ以上聞こうとも思わなかった。
想像していたよりもずっと、バイヤール公爵邸への滞在は和やかで楽しく、あの頃のことが悪い夢だったかのような感覚になる。
だけど、ここで死ぬまでずっと過ごしたいと思えるほどこの場所を好きにはなれないだろうなと思った。
公爵邸を出る際は、父も兄もドニもキルティもみんなでお見送りをしてくれて、それまで僕の中に燻っていたらしいモヤのかかったような心はすっかりなくなっていた。
「カミーユ、元気で。いつでも帰ってきてくれ」
「俺たちはカミーユをいつでも待っているよ」
「カミーユ兄上、お元気で」
「お元気で」
僕は魔力車に乗ってから、4人を向き直った。
「僕を、こんなに歓迎してくれてありがとうございました……。父上、兄上、ドニ、キルティ、あなた達も、お元気で」
「「っ」」
父と兄は、目を見開き声をつまらせ、ドニとキルティは、笑顔でうなずいた。
魔力車は、ゆっくりと発進してすぐにカナンダスの関門を抜けた先の森にワープした。
僕たちはその後も2ヶ月ほどをかけて各地を周り、美味しいものを食べたり、豪華なホテルに泊まったり、キャンプをしたりして、新婚旅行を楽しんだ。
魔国へ戻ると、ニコラ含め魔族のみんなが僕たちを嬉しそうにお出迎えしてくれた。
「「「「「お帰りなさい! 陛下、カミーユ様!!」」」」」
「ただいま、みんな」
旅行はとても楽しかったけど、やっぱりみんなの顔を見たらほっとする。
ここが安心する場所で、ここが僕の帰ってくる場所だ。
完
兄がそう聞いてきた。
「今日の夕方にはもうカナンダスを出る予定です」
答えると、兄も父もショックを受けた顔をして「そうか」と呟いた。
その上ドニもキルティも悲しそうな顔をして僕を見た。
僕がどうしていいのか分からずにギルを見上げると、ギルも困ったように笑って息を吐き、僕の頭を撫でてくれた。
「カミーユが平気なら1泊でも数泊でもしていってもいいぞ? しばらく分の執務は終わらせてある。もちろん、今すぐにここを出て他の国を回ってもいい」
僕にしか聞こえないように、こっそりそう言ってくれた。
「……カミーユ、一日でもいい。泊まっていってくれないか」
どうしようかと迷う僕に父がそう言った。
「カミーユは食べるのが好きだと事前に聞いたから、おいしい食事やデザートを準備してあるんだ」
兄もそう続けた。
「カミーユ兄上と食事したいです」
「僕も」
弟たちにもそう言われ、僕は小さくうなずいた。
「では、1泊させていただきます」
「そうか……。ありがとう」
それから僕とギルが泊まるために用意された部屋に案内された。
とても豪華な客室で、ソファセットのテーブルにはお菓子がたくさん乗っていた。
夕飯の時間までは自由に過ごして欲しいと言われたので、僕はソファに座ってお菓子を眺めた。
「ここに来ることを、父や兄に伝えていたんだね」
「ああ。言っておいたほうが何かと都合が良いだろう? 嫌だったか?」
ギルは正面のソファではなく僕の隣にどかりと座って首を傾げた。
「ううん。そんなことないよ。ただ、こんなに歓迎されるとは思ってなかったからびっくりしただけ」
そう言うと、ギルはゆったりとした動作で目の前の菓子の包み紙を開けて僕の口に入れてきた。
甘くてサクサクした食感のそのお菓子は、食べたことはなかったけどとても美味しい。
「カミーユは、こんなにいい子で、可愛いい。こんな素晴らしいカミーユが愛されないわけがないだろう? だからカミーユが、父や兄や弟たちから愛されていないと思い込んでいるのを残念に思っていた」
彼らはカミーユが来る前に準備を頑張っただろう。それを感じたら、カミーユも自分の素晴らしさに気がつくだろうと思ってなと笑った。
ギルの気持ちの伝え方はストレートで、いつも照れてしまう。
だけど、分かりやすくて僕は好きだ。
その後の夕食はとても和やかに食べることができて、僕たちは今日初めて本当の家族だったのだと思うことができた。
この公爵家で過ごしていた8年間は、僕は別邸に寝ていたので今日初めて本邸の部屋で寝た。
緊張する気持ちもあったけど、横にはギルも寝ているので安心できた。
僕が寝ているこの建物に、家族がみんな寝ている。
何だかそう考えると、とても不思議で、心が浮き立つような素晴らしいことのように思えた。
夕食の席で父に、マリーがどこにいるのかを聞くとただ一言「生きてはいる」と言っただけでどこにいるなどは教えてくれなかった。
それに僕も会いたいわけではなかったので、それ以上聞こうとも思わなかった。
想像していたよりもずっと、バイヤール公爵邸への滞在は和やかで楽しく、あの頃のことが悪い夢だったかのような感覚になる。
だけど、ここで死ぬまでずっと過ごしたいと思えるほどこの場所を好きにはなれないだろうなと思った。
公爵邸を出る際は、父も兄もドニもキルティもみんなでお見送りをしてくれて、それまで僕の中に燻っていたらしいモヤのかかったような心はすっかりなくなっていた。
「カミーユ、元気で。いつでも帰ってきてくれ」
「俺たちはカミーユをいつでも待っているよ」
「カミーユ兄上、お元気で」
「お元気で」
僕は魔力車に乗ってから、4人を向き直った。
「僕を、こんなに歓迎してくれてありがとうございました……。父上、兄上、ドニ、キルティ、あなた達も、お元気で」
「「っ」」
父と兄は、目を見開き声をつまらせ、ドニとキルティは、笑顔でうなずいた。
魔力車は、ゆっくりと発進してすぐにカナンダスの関門を抜けた先の森にワープした。
僕たちはその後も2ヶ月ほどをかけて各地を周り、美味しいものを食べたり、豪華なホテルに泊まったり、キャンプをしたりして、新婚旅行を楽しんだ。
魔国へ戻ると、ニコラ含め魔族のみんなが僕たちを嬉しそうにお出迎えしてくれた。
「「「「「お帰りなさい! 陛下、カミーユ様!!」」」」」
「ただいま、みんな」
旅行はとても楽しかったけど、やっぱりみんなの顔を見たらほっとする。
ここが安心する場所で、ここが僕の帰ってくる場所だ。
完
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