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18:お役御免
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ユリウスと春海は、それから少しぎこちなくなった。日が落ちて周りが薄暗くなったこともあり渡り廊下で解散し、それぞれの部屋に帰った。
「お帰りなさい、ハルミ様」
「っ、エリーゼ、ただいま」
エリーゼは静かに微笑んで、春海を見つめた。
一見すると穏やかな表情に見えたが、春海はなぜか怖くなった。
「どちらへ行っていらしたのですか?」
「ぁ、あの。散歩だよ、それにしても久しぶりだね」
「へえ。中庭に散歩ですか」
「え」
久しぶりという言葉はまるっきり無視で、その上中庭になどと言っていないので、エリーゼが春海とユリウスが会っているところを見てしまったことが分かった。
「せっかく、ユリウス様にばれたら殺されると教えて差し上げましたのに。それほどに死にたいのですか?」
エリーゼは今までと全く違う様子で、春海を冷たく見下ろした。
「ユ、ユリウス様は、僕が魔力体だって知っても、きっと、きっと話を聞いてくださる。すぐに殺したりなんかしないよ」
「はっ。何も分かっていないのですね。いや、私があえて教えなかったのですから、仕方がありませんが」
「なに、を」
「魔力体は人を襲うんですよ。あまり詳しくない人間は知らないことですが、魔力体は見つかり次第処分対象と法律で決められています。魔法省に勤めていらっしゃるユリウス様が、率先してその法律を破る訳ないじゃないですか。魔力体と言えば魔法省の魔力部隊が数名殉職する事件が発生しているほど危険な存在ですからね」
当然というようにエリーゼは笑った。
「そんな」
「それに、もう貴方の役目は終わりました」
「え……?」
「ふふ。先ほどついに、ミヒャエル様の魂を呼び戻し、魔力体に定着させることに成功したのですよ」
「ミヒャエル、様が?」
「ええ。本当に本当に長い研究でした。ですが、成功して良かったです。ハルミ様もそう思われるでしょう? だって、ハルミ様が生きていて、ミヒャエル様のように人から好かれる方が死んでいるなんておかしいっておっしゃってましたものね」
エリーゼは楽しそうにニコニコとしている。
「そう、だね……」
「何かご不満なことがあるのですか?」
「ううん。でも、ミヒャエル様の魂とは言っても、魔力体なんでしょう? 命を狙われたりとか」
「あははは。この後に及んで他人の心配ですか。でも、大丈夫です。さすがに、ユリウス様も実の弟の魂が入った魔力体は殺せませんよ」
「そっか」
確かにそうだと納得し頷いた。
「はい」
「じゃあ、僕はどうしたら良い?」
「少しの間とは言え、ディクソン公爵ご夫妻のために、ミヒャエル様の代わりになっていただいていたのです。すぐに出て行けとはもちろん言いません。ここに居ていただいた間のお給料もお支払いいたします。そうですね、1週間ほどは滞在していただいて構いませんが」
「うん。分かった」
「ご納得いただけて何よりです。それでは、失礼いたします」
エリーゼが出ていき、部屋の中に1人きりになると、何故だかとても寂しくなった。
これから知らない世界で、知らない土地で、1人で生きていかなければいけないのだ。
(寂しいよ)
随分と昔に一生懸命捨てた感情が、蘇ってきてしまった。
心臓が痛くて、喉もキュッと締め付けられるような、辛い感情。だから、寂しいとか悲しいとか、そういう感情はなるべくわかないようにしてきたのに。
ユリウスは、存外に春海のことを気にってくれていたように思えたけれど、別にそんなのは春海でなくても構わないのだ。本当のミヒャエルが居るのなら、春海はきっとユリウスにとってもお役御免だろう。
「お帰りなさい、ハルミ様」
「っ、エリーゼ、ただいま」
エリーゼは静かに微笑んで、春海を見つめた。
一見すると穏やかな表情に見えたが、春海はなぜか怖くなった。
「どちらへ行っていらしたのですか?」
「ぁ、あの。散歩だよ、それにしても久しぶりだね」
「へえ。中庭に散歩ですか」
「え」
久しぶりという言葉はまるっきり無視で、その上中庭になどと言っていないので、エリーゼが春海とユリウスが会っているところを見てしまったことが分かった。
「せっかく、ユリウス様にばれたら殺されると教えて差し上げましたのに。それほどに死にたいのですか?」
エリーゼは今までと全く違う様子で、春海を冷たく見下ろした。
「ユ、ユリウス様は、僕が魔力体だって知っても、きっと、きっと話を聞いてくださる。すぐに殺したりなんかしないよ」
「はっ。何も分かっていないのですね。いや、私があえて教えなかったのですから、仕方がありませんが」
「なに、を」
「魔力体は人を襲うんですよ。あまり詳しくない人間は知らないことですが、魔力体は見つかり次第処分対象と法律で決められています。魔法省に勤めていらっしゃるユリウス様が、率先してその法律を破る訳ないじゃないですか。魔力体と言えば魔法省の魔力部隊が数名殉職する事件が発生しているほど危険な存在ですからね」
当然というようにエリーゼは笑った。
「そんな」
「それに、もう貴方の役目は終わりました」
「え……?」
「ふふ。先ほどついに、ミヒャエル様の魂を呼び戻し、魔力体に定着させることに成功したのですよ」
「ミヒャエル、様が?」
「ええ。本当に本当に長い研究でした。ですが、成功して良かったです。ハルミ様もそう思われるでしょう? だって、ハルミ様が生きていて、ミヒャエル様のように人から好かれる方が死んでいるなんておかしいっておっしゃってましたものね」
エリーゼは楽しそうにニコニコとしている。
「そう、だね……」
「何かご不満なことがあるのですか?」
「ううん。でも、ミヒャエル様の魂とは言っても、魔力体なんでしょう? 命を狙われたりとか」
「あははは。この後に及んで他人の心配ですか。でも、大丈夫です。さすがに、ユリウス様も実の弟の魂が入った魔力体は殺せませんよ」
「そっか」
確かにそうだと納得し頷いた。
「はい」
「じゃあ、僕はどうしたら良い?」
「少しの間とは言え、ディクソン公爵ご夫妻のために、ミヒャエル様の代わりになっていただいていたのです。すぐに出て行けとはもちろん言いません。ここに居ていただいた間のお給料もお支払いいたします。そうですね、1週間ほどは滞在していただいて構いませんが」
「うん。分かった」
「ご納得いただけて何よりです。それでは、失礼いたします」
エリーゼが出ていき、部屋の中に1人きりになると、何故だかとても寂しくなった。
これから知らない世界で、知らない土地で、1人で生きていかなければいけないのだ。
(寂しいよ)
随分と昔に一生懸命捨てた感情が、蘇ってきてしまった。
心臓が痛くて、喉もキュッと締め付けられるような、辛い感情。だから、寂しいとか悲しいとか、そういう感情はなるべくわかないようにしてきたのに。
ユリウスは、存外に春海のことを気にってくれていたように思えたけれど、別にそんなのは春海でなくても構わないのだ。本当のミヒャエルが居るのなら、春海はきっとユリウスにとってもお役御免だろう。
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