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ユリウス視点:ミヒャエル
しおりを挟むしばらくそのままベラベラと話し続けるエリーゼを、訝しげに見つめているユリウスに気がついたのか、エリーゼは首を傾げてにっこりと笑った。
「着いてきてください。あなたの大切な方に会わせてあげますから」
「……分かった」
エリーゼはミヒャエルが戻ったと言った。そして、いくら魔力体だとしても弟の魂が入ったものは殺せないだろうとも。今まで掴めなかった魔力体の情報が掴めるのならば、意味が分からない状況のままでも頷くに越したことはない。
そして、エリーゼに連れて行かれた先は、使用人塔の地下だった。ユリウスすらそのような場所の存在を知らない、使用人塔自体、何かない限り近寄りもしない場所だ。盲点だったと悔いながら、石で出来た冷たい廊下を進むと、血生臭い匂いが立ち込めていく。廊下の左右には牢屋のような柵付きの部屋がいくつか並んでいたが、どれも無人だった。
「こちらです」
何が楽しいのか、エリーゼの口角はずっと上がりっぱなしだ。
廊下の突き当たりのドアを開け、そのまま入って行ったエリーゼに続き、ユリウスが部屋の中に入ると、部屋の奥にある備え付けのベッドに横たわる人物が目に入った。
「こちらは正真正銘、ミヒャエル様の魂が入った魔力体です。今は眠ってらっしゃいますが…•、ほら、お顔も髪もかなりそっくりに出来たのですよ」
「そう、か」
確かに、枕に広がっている髪は綺麗な金髪だった。だが、顔立ちは似ているようには思えない。
目の前で寝ている少年が、亡くなった弟だと言われても、どう反応して良いのか分からない。
少年の横で呆然と立ち尽くしていると、少年のまゆがピクピクと動いて、その瞳が開いた。
「……ぉ、にい、さま……?」
少年はやっと開いた瞳でユリウスを捉え呟いた。
開いた瞳は青色で、その点で言えば確かにミヒャエルに似ているのかもしれない。
「ミヒャエルなのか」
「は……はい、ぼくは、ミヒャエルです」
ユリウスを見て微笑むミヒャエルに疑問を抱いた。
そもそもユリウスは怖がられているか、もしくは、嫌われていた。
たまに会ってもこんなふうに穏やかな表情をしていることはなかったように記憶している。
ミヒャエルを見つめていると、後ろの方でドアが開き、勢いよく誰かが入ってきた。
「ミヒャエル!! ああ、ミヒャエル!!」
「……おとお、さま? お、かあさまっ」
「ああっ、今度こそ本当にミヒャエルなのね……っ」
ミヒャエルと両親は、感動の再開とばかりに涙を流し抱き合って、ユリウスの存在には気がついていないようだ。
「父上、母上」
「っ!? ユリウス!? ど、どうしてここに」
ユリウスが呼びかけることでやっとその存在に気がついた父親は、驚きに目を見開いたあと、真っ青になった。
そこにエリーゼが静かに口を開いた。
「私がお連れしたのです。きっとユリウス様だってミヒャエル様にお会いになりたいだろうと思いまして」
「エリーゼ、だ、だが! ユリウスは……」
「旦那様。お約束してくださいましたよね。ミヒャエル様を呼び戻せたら、ユリウス様との結婚を認めてくださると」
「あ、ああ。ユリウスなど好きにすれば良い。だが、ユリウスはミヒャエルを、殺すかもしれないのだぞ」
「ユリウス様はそんなことはなさいませんよ。ミヒャエル様はユリウス様からしても、可愛い弟なのですから。ね?」
「そうだな」
頷けば、エリーゼはパッとより笑顔になった。
「ほら! ねぇ、ユリウス様。旦那様に許可をいただいて、私はユリウス様と結婚することになったのです。これからは私だけに優しくして、私だけを愛してくださいね」
「……ああ」
エリーゼなどという女と、嘘でも結婚する話などしたくはなかったが、滞りなく証拠を集めるために、屈辱や嫌悪感を押さえ込み、やっとのことで返事をした。
ユリウスの返事に、エリーゼも両親も満足そうに頷いている。ただ、ミヒャエルだけは心配そうな顔でユリウスを見つめていた。
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