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しおりを挟む「うれしい、ありがとう~ 」
きっとこれが正解。
出来れば涙なんかも流せればなおいいのだけど、流石にそこまでの演技力が
私にはまだ無かった。というかそもそもそんな演技力なんて新人でもあるまいし
ある訳がなく、私はただタイミングが良かっただけだ。
ここの料理への感動を彼への返事に転嫁しただけだった。
だからこれが精一杯で、これ以上は流石にボロが出る。
ここで店の人が入って来てくれなければきっと私は大根役者として今後を生きて
いかなければならなかっただろう。
だから有難い事だったのだけど……そんなにも騒がないといけない事か?
そんなにも他人の結婚に興味を持つなんて、どんな人生だったのか逆に聞いて
みたくはある。
*****
トンネルを抜ければそこは田舎だった。
見渡す限り何もない田舎。ここで生活を営む理由は何なのか?
空気が美味しいとかか? そんなものボンベでもつけていればいいではないか、
最近新しいフレーバーが出たらしいぞ、知らんけど。
駅から無駄に歩かされ何かの罰ゲームでもしているのかと思う私は靴擦れを
しており、今からでも帰ってやろうかという誘惑がちらほら。きっとこんな田舎
に来た所為なのだろう、そんなメルヘンな事を考えるのは。
そして辿り着いたのはカレシの実家、よくある田舎の一軒家であった。
「帰ったよ」
カレシの大きめの声に反応してドタドタと走ってやって来た幼女。
「だれ? 」
お前が誰だよと思っても言ってはいけない、そういうゲームなのだと自分を
納得させる。
「嗚呼、お帰り。疲れたでしょ? まあ上がってとりあえずゆるんで頂戴」
客間に通された私の目にはカレシの両親が待ち構えており、さっそくの先制攻撃
である。そしてカレシのお兄さんとその妻、子。この状況下での私の味方はどこ
にも居なかった。
「俺、こっちに帰ってこようと思っているんだ」
ちょっと待って欲しい、私はそんな話を一切聞いていないのですけど?
それは決定事項という事でいいのですか?
「そうか、部屋は空いてるから好きに使えばええ。それよりも酒も持って来い。
めでたい日に飲まないなんてありゃせんじゃろ」
自分の父親が意外といい部類の父親なんじゃないかと私は実感した。
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