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婚約破棄現場
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しおりを挟む「ご苦労様です! 」
マロドロロンが現場に着けば、憲兵がそう言って敬礼をしてきたので、
こちらも軽く敬礼をしてから進む。
「遅いぞ、もう殆んど片づけちまったからな。そんなに見るものなんてないぞ」
先に現場に来ていたギールノアに言われ、マロドロロンは辺りを見渡すと
確かに綺麗に片付けられていて、そこにあったはずのものは白線に姿を変えて
いた。
「で、どんな感じなんですか? 」
「そこに転がっていたのは、貴族のお坊ちゃまで、年齢は22。身体の中身を
ぶちまけていらしゃりましたとさ」
床にはその形跡がしっかりと残っていた。
「それはそれは。で、キズモクは何処に? 」
俺は先に飛び出して行った新人が現場に居ないので聞いてみると
「あいつなら今、胃の中身をぶちまけている最中じゃないか? 」
どうやら、先に来ていた新人はさっそくの歓迎を受けたようだ。
俺もこれに慣れるまでには結構時間がかかった。
「若いねえ」
「お前が言うか? 」
新人なら誰もが通る道である。
だから俺も先輩達にならって言ってみたのだが、どうやらまだ早かったようだ。
「あ、先輩」
俺が会話をしながら部屋の中を漁っているとキズモクが青い顔をして戻って来た。
「どうだ、初めての現場は。楽しいだろ? 」
とは言え新人を教育するのも俺の役目だ。
「楽しくなんかありませんよ。あんなもの……うぇ」
どうやら現場の状況を思い出してしまったようだった。
「おいおい。現場を汚すんじゃねえぞ! 」
とは言いつつも、俺は汚した事がある。
「すみばぜん。ちょっと思い出して、うえ」
結局キズモクはまた出て行って、現場に戻ってくる事はなかった。
*****
「いつになっても慣れやしない、この婚約破棄ってやつには」
マロドロロンは馬車の中から外を見てそうごちる
街と現場との落差がいつも彼の心をざわつかせるのだ。
「ん? まだそんな事を言っているのかお前は」
同乗していたギールノアに聞かれてしまい、ばつが悪くなってしまったが
いっその事聞いてしまおうと思うったマロドロロンは
「婚約破棄って一体何なんですかね? 」
そんな事を聞いたって答えがある訳でもないが、それでも聞いてみたかったのだ。
「さあな、俺にだってそんな事はわかりゃしねえよ。
ただ、俺達は現場へ行って仕事する、そうすりゃ対価が支払われる。
それで今日も酒を飲むんだ。付き合えよマロドロロン」
そう言うギールノアの誘いに乗って浴びる程酒を飲んだ。
*****
ドンドンドンドン
ドアを叩く音でマロドロロンは目を覚ます。
「分かったから、止めてくれ! 頭に響く」
そういう自分の声にすら気分が悪くなる中、ドアを開ければそこにはキズモクが
立っており
「先輩、婚約破棄です! 」
そう、威勢よく言うのだ。
昨日はゲロ吐いていた奴が翌朝、ケロっとした表情でそんな事を言うから
少しキズモクの評価を改めるマロドロロン。
「んあ、分かった。ちょっと待っとけ」
そう言いながらお湯を沸かし出したので、キズモクはつい大きな声を上げて
しまうのだ。
「何してんすか、先輩! 婚約破棄っすよ! 」
「嗚呼。分かってるって、そんなに急いだって逃げやしねえよ婚約破棄は。
それよりも朝はコーヒーを飲まねえとダメなんだ」
そう言うとキズモクにもコーヒーを淹れやる。
「お前も飲め」
もう諦めたのか、それとも呆れたのかキズモクは淹れたコーヒーに口をつける。
俺は構わずコーヒーをゆっくりと味わった。
*****
結局、それから10分後に漸く馬車に乗った俺達は現場へ向かう。
「婚約破棄って何なんすかね? 」
どこかで聞いた事のある台詞をキズモクが言ったので俺は言う。
「そりゃあ、あれだ。何処かの誰かを救う為さ」
俺は今日も仕事を淡々とこなす。
結局、誰も救えはしないのだと自分に言い聞かせながら。
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