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また婚約破棄ですか?
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しおりを挟む「ただいま~ 」
その声を聞いてもう分ってはいましたが、私は屋敷の主をお出迎えに行った。
「ミザラ、婚約破棄してきたよ」
その聞き飽きた台詞にうんざりはするが、それでも私はメイドなのできちんと
メイドの仕事をこなさないといけないのだ。
「そうですか、それは残念でしたね」
私は返事をしながらコートを受け取った。
「聞いてくれよミザラ! あの女、俺の事をポンコツ呼ばわりしてきたから
お前の顔よりマシだよ! って言ってやったら婚約破棄するとか言い出たんだ。
だから俺も分かった! って言ってやったんだ」
それは結局、婚約破棄されたのでは? とは決していう事はしない。
私はロミロミがどれだけ口が悪いかなんてとっくの昔から知っているからだ。
余計な事を言えば、無駄にこちらの弱い部分を突いてくる。
そんな性格だから結局この屋敷にはもう私以外のメイドは居なくなってしまった。
ここで生活しているのはロミロミだけなので問題ないように思えるかもしれない
が、無駄に広いこの屋敷。
それを無駄に使うのだ、このロミロミというの男は。
「せっかくあるものを使わないでどうする! 」
心意気は結構ではあるが、掃除するのは私の役目なので私の仕事量が減る事は
ないのである。ロミロミは掃除がなされているかどうかを異様に気にするので
決して手を抜く事が出来ず、もし汚れが見つかれば朝までコースだ。
「まったくあんな女、どこも貰い手が無いだろうに。 あんなのを横に置いて
社交界などに出るやつなんているかね? 嗚呼、嫌だ嫌だ」
さっそく始まった元婚約者の悪口が始まった。
これはしばらく終わらない事は経験上分かっているので、
さっさと夕食の準備に取り掛かるのだがロミロミが私から離れる事はない。
料理をしている間も常に、声が聞こえる範囲にいてずっと話つづけるのだ。
それでも決して私の包丁のリズムが乱される事はなく、料理が出来上がって
行き、それをテーブルの上に並べると食事が始まる。
食事が始まってもロミロミの悪口は止まることはなく。
どんどん食べかすが絨毯に積もっていくが、私はグラスが空くとすぐにワインを
注ぐのだ。
*****
夜更けにドアがゆっくりと開く。
「ミザラ居るか? 」
「ああ、大丈夫だ。静かにね」
「何だお前らしくもない」
「ちゃんと今日はたんと飲ましたけどさ、あいつ敏感なんだよ。だから出来るだけ
気をつけておくれ」
「ああ、分かったよ。おい、静かにな! 」
そう言うと後ろに居た連中が頷いた。
*****
その日の目覚めは最悪だった。
昨夜、飲み過ぎたせいで頭が痛く、その原因の元となる大きな音が屋敷の中に
響き渡っていたからだ。
「一体何なんだこの音は? ミザラは朝から何をしているんだ」
俺は仕方なく音のする方へと行く事にした。
ミザラはこれまでのメイドとは違い、仕事が出来る奴だった筈だが……
これは文句の一つや二つは言ってやらないといけない。
そう思って音のする炊事場へ入るとそこには誰も居らず、食器棚が揺れていた。
「何だ? 」
俺はこの状況が良く分からないが取り合えず食器棚を抑えるが、まったく揺れが
治まらない。というか下から突き上げてくる感じがしたので一端その場を離れる
事にしたら、食器棚が倒れて来た。
「うお! 」
俺が声を上げて逃げると、食器棚の下から人が出て来たのだ、ぞろぞろと。
「な、何だ、貴様らは! 」
「貴様こそ誰だ! 」
そういうとそいつらは俺に銃口を向けて来た。
*****
時間にして数時間の出来事。
この為に私が費やした時間は三年。
こうしてみるとあまりにもあっけないと思う。
ミザラの本当の職業は怪盗団の団員である。
そんな彼女がロミロミの所でメイドとして働く事になったのは、
この屋敷の位置が侯爵家へのアクセスにもっともいい位置にあったからだ。
ロミロミの屋敷から穴を掘り侯爵家へと潜入して、お宝を盗む。
その馬鹿げた計画がやっとこの日に終わった。
収穫は上々、これでしばらくは遊んで暮らせるだろう。
というか、絶対に遊ぶ! 何がなんだろうと遊ぶとミザラは決めていた。
「嗚呼、マジでもう引退しようかな? 」
「どうしたお前らしくもない」
ミザラは自分の事を辛抱強いと思っていた。
だから今回の計画で潜入する役を買って出たというのに……
その自信は今回の事で無残に消え去った。
「ふふ。嗚呼そうだな」
ロミロミとの日々を思い出すだけで反吐がでるが、あいつが今頃どうしている
のかを考えると笑えた。
「やっぱりお前変だぞ? 」
「いや、あいつが今どうしてるかと思うとついね」
ミザラに手に取るようにロミロミの行動が分かってしまったのだ。
*****
「おい、お前は怪盗団の団員か? 」
そんなありえない事を憲兵に聞かれれば当然ロミロミが黙っている訳もなく。
「そんな訳あるか! そんな事すら分からないからお前らは怪盗団にいいように
やられるんだ! まったくそんな頭でよく憲兵に成れたものだ。どんな教育を
受ければそんな馬鹿な考えが浮かぶのか、恥ずかしくないものかね? 」
ロミロミはいつもの様に口を動かせば、
当然のように相手の拳が飛んで来たのだ。
「フゴッ」
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