勝手な女

菫川ヒイロ

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 今日の宿は海沿いのラブホテルである。
 私がそこを指定し、彼は何も言わずにしたがった。
 
 
「一体これは何なんだ? 君は何をした? どうして追われているんだ? 」


 部屋に入るとすぐにそんな質問攻めをする彼は相当溜まっているようだった。
 
 
「婚約破棄したからよ、言ったよね? 」


「婚約破棄をしたから追いかけて来るとかあるの? それに殺されるとかどういう
 事なんだ? 君は一体何をしたんだ? 」
 
 
 本当の事を話すべきなのだろうか?
 否、話したって私が不利になる事しかないだろう。
 ならどうする?
 
 
 私は彼にキスをした。
 ここはそういう場所だから。
 でも彼は拒絶した。
 
 
「何をするんだ! そんな事をしている場合じゃないだろ! 」


「ここはそう言う場所で、今はそうする時よ」


 だから私は続けた。
 彼が拒もうとも関係はない、これが私が今すべき事だからだ。
 私の今持っている武器はこの体一つ。
 なら、それを使うのは当然だった。
 
 
 彼を咥え込む事でこちらに巻き込める、だって彼はただのいい人だから。
 私一人を捨てて行く事なんて出来はしない、だってこの世界は人の優しさに
 付け込む人間と付け込まれる人間で回っている事を私は知っている。
 
 
「君は勝手すぎる」


 彼はそう言いながらも車を走らせる、勝手な女を助手席に乗せて。
 
 
 
 
 
 
 
 




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