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 あれ、誰もいない?
 あるはずのない状況に私は違和感を覚えた。
 だって家に帰れば誰かしらが必ず出迎えに来るのだから、でもそれが無いという
 おかしな状況になっている家の中ではどうしたって警戒をするに越した事はなか
 った。
 
 
 嫌だな嫌だなって思うけど、どういう状況なのかを確かめる為に足を進めた。
 ゆっくりと一歩一歩を確かめながら歩くとパパの部屋から人の声が聞こえて来た。
 
 
「ちょっと、何してるのよ! 」


 聞こえて来たのは若い女の声。
 
 
「お前こそ何をしてるんだこんな所で! 」


 更に聞こえて来たのは若い男の声で、理由は分からないが何やら揉めているよう
 だった。
 
 
「何を今更。そんなの決まってるでしょ! 」

 
「俺はただ迎えに来ただけだ、なのになんて事をしてくれたんだ!」

 
 開いたドアの陰から私は部屋の中をのぞき込む。
 緑色のインコのような髪色の女と首輪をつけた男が怒鳴り合っているこの状況が
 一体何なのか私の頭では追い付かないが、きっとよくない事が起こっているとい
 う感覚は確かにあった。
 
 
「さっきから何よ俺って、気持ち悪い! おにいのくせに俺とか言ってるんじゃな
 いわよ! そんなだからみんな殺しちゃうんじゃない。どうするのよ、これじゃ
 あねえねが何処にいるのか分からないでしょ! 」
 
 
「そんな事言ったって俺は女を殺しただけで、そいつを殺したのはジニアじゃない
 か! 俺はそいつに聞くつもりでいたのに、全部台無しだ! 」
 
 
 男が指した指の先にはパパらしきものがあった。
 
 
「はあ? 私が悪いっていうの。ふざけないで! 俺って言わないで! 」


「やっぱりジニアは馬鹿だよ。おい、そこに居る奴出て来いよ! 」


 見つかってしまった。
 ここで出て行くべきなのだろうか? それとも逃げるべきだろうか?
 嗚呼そうだ、私には武器があるではないか! だから問題は無い、無いはずだっ
 たのだ。それは中の二人が同じように銃を持っていない場合に限った話ではあっ
 たのだけれど。


 男の方へと銃口を向けて出て行った私に二人は当然のように私に銃口を向けた。
 その瞬間に全てが終わったと思った。こうやって終わるのかと、こんなにもあっ
 けなく私の人生は終わるのだと理解したら頭の中を記憶が駆け巡る。そうそれは
 最後に思い出すべき記憶……
 
 
「あっ、アナタは……。私よ私、ねえ覚えていない? あの時私を助けてくれた人
 よね? 私、アナタにずっとお礼がいいたかったのよ! ありがとうって。ずっ
 と探していたのアナタを! それともう一つだけ言いたい事があるの……、私、
 アナタのことが好きなの! あの日からずっとアナタの事が忘れられなくてね、
 きっとこれは恋だと思う。アナタは私の運命の人なのよ! 」
 
 
「え? 俺が、運命の人? 」


 そんな訳はない。こんな男は知らない。でもここで終わるのだとしても私はまだ
 あきらめ切れなかったのだ。そう、私はまだ恋をしていない。恋をせずに死ぬな
 んて出来る訳がない。その為に私は生きているのだ。それならば例えどんな相手
 で在ろうともそこにチャンスがあるのなら手を伸ばすべきなのだ。
 
 
「そう、アナタは私の運命の人! きっとこうして出会う事も運命だったのよ! 」


 どうしてこんな嘘がすらすらと出て来るのか? 火事場の馬鹿力的な事なのかと
 も思ったけれどきっとそういう訳じゃない。私は散々法螺話を聞いて来たからな
 のだ。その経験が今になって生きるとは思いもしなかったけれど、こんな事もあ
 るのかと少しばかり高揚している。


「はっ」


「馬鹿ね、そんな事ある訳ないじゃない。おにいが運命の相手だなんてありえない
 わ。そんな嘘に騙されるなんてやっぱりおにいは馬鹿なのよ」
 
 
「おい、ジニア! どうして撃ったんだ! 」


 嗚呼、やっぱり無理だった。
 そんな簡単に恋が実る訳がないじゃないか。
 
 
「おい、しっかりしろ! まだ死んじゃダメだ! 」


 薄れて行く意識の中でそんな声が聞こえた。
 あれ?……これはもしかして……
 
 
「そいつが知ってる訳ないでしょ! 」


「そんなの聞いてみないと分からないだろ! 」


「だから…    」


「お      」




                    それでも好きでいられますか?









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