そして女神は……

菫川ヒイロ

文字の大きさ
2 / 42
勇者シス

しおりを挟む





 森の中で轟音が響いた。


「勇者! 」


 自分の事を呼ぶ声が聞こえる。
 嗚呼、そうだった。俺は勇者で今は戦いの最中だったのだ。
 そうだ、だから俺はこいつを倒さなければならないのにどうして……
 手も足も、身体が動かない。これではどうやったって俺はもうすぐ死ぬのだろう。
 
 
 結局俺は何も成せないままで終わるのだ。
 勇者として旅立ったあの日から、俺が世界を救うのだと息巻いていたあの日から
 何も出来てはいない。だってこんな事になるなんて思っていなかったのだ。自分
 の力量を見誤っていた。どんなに強いと言ったって所詮は人の基準でしかなくっ
 て、結局こいつら悪魔からすれば俺なんて大した事はなかったのだ。
 
 
「なんだ、もう終わりか? 」


 つまらなそうにそう言った悪魔、それは俺が言いたかった言葉だった。
 俺の想像の中ではいつだって悪魔が俺に許しを請う、そんな場面ばかりだったと
 いうのに現実はそんな事などなく、俺はもう死にかけている。そんな残酷さが尚
 更これが夢ではないのだと俺に実感させた。
 
 
「ひぃ! 大丈夫です。私がすぐ治します! 」


 泣きべそをかきながらも必死に俺の傷を治そうとする聖職者に俺は「逃げろ」と
 声にならない声で言うが彼女は治療を止めようとはしなかった。どうしたって俺
 は治らないのだから無駄な事はせずに逃げる事に全力を注ぐべきだった。大した
 ケガもない彼女ならば逃げられる、それが出来る最後のチャンスだというのに彼
 女はそうしなかった。
 
 
「嫌です、私が治したら勇者がすぐにアイツを倒すのです。約束したです、魔王を
 倒すって。大丈夫です、だって貴方は勇者なのです! 」


 そんな励ましの言葉をかけられた所で俺にはもう一度戦う気力がなかった。
 何故ならば近くに見えている黒焦げのそれはかつて魔法使いだったはずのもので、
 それを見た時に俺の中で既に負けが確定してしまっていた。圧倒的なまでの力の
 差を目の当たりにして俺はどうすればよかったというのだろうか?
 
 
 確かに俺は勇者だ。
 そう選ばれたのだからそうなのだろう。
 だから向かって行ったのだ。
 でも怖かった。
 こんなにも恐怖を覚えたのは初めてだった。
 それでも声を上げ、自分を奮い立たせて向かって行った相手にあっさり負けた。
 
 
 もう俺に戦う気力はない。
 後は死ぬだけなのだと思うと色々な事が思い出され、何故か涙が溢れ出してきた
 のだ。どうしてこうなった? 嗚呼、死にたくはないな……
 
 









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...