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勇者シス
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しおりを挟む森の中で轟音が響いた。
「勇者! 」
自分の事を呼ぶ声が聞こえる。
嗚呼、そうだった。俺は勇者で今は戦いの最中だったのだ。
そうだ、だから俺はこいつを倒さなければならないのにどうして……
手も足も、身体が動かない。これではどうやったって俺はもうすぐ死ぬのだろう。
結局俺は何も成せないままで終わるのだ。
勇者として旅立ったあの日から、俺が世界を救うのだと息巻いていたあの日から
何も出来てはいない。だってこんな事になるなんて思っていなかったのだ。自分
の力量を見誤っていた。どんなに強いと言ったって所詮は人の基準でしかなくっ
て、結局こいつら悪魔からすれば俺なんて大した事はなかったのだ。
「なんだ、もう終わりか? 」
つまらなそうにそう言った悪魔、それは俺が言いたかった言葉だった。
俺の想像の中ではいつだって悪魔が俺に許しを請う、そんな場面ばかりだったと
いうのに現実はそんな事などなく、俺はもう死にかけている。そんな残酷さが尚
更これが夢ではないのだと俺に実感させた。
「ひぃ! 大丈夫です。私がすぐ治します! 」
泣きべそをかきながらも必死に俺の傷を治そうとする聖職者に俺は「逃げろ」と
声にならない声で言うが彼女は治療を止めようとはしなかった。どうしたって俺
は治らないのだから無駄な事はせずに逃げる事に全力を注ぐべきだった。大した
ケガもない彼女ならば逃げられる、それが出来る最後のチャンスだというのに彼
女はそうしなかった。
「嫌です、私が治したら勇者がすぐにアイツを倒すのです。約束したです、魔王を
倒すって。大丈夫です、だって貴方は勇者なのです! 」
そんな励ましの言葉をかけられた所で俺にはもう一度戦う気力がなかった。
何故ならば近くに見えている黒焦げのそれはかつて魔法使いだったはずのもので、
それを見た時に俺の中で既に負けが確定してしまっていた。圧倒的なまでの力の
差を目の当たりにして俺はどうすればよかったというのだろうか?
確かに俺は勇者だ。
そう選ばれたのだからそうなのだろう。
だから向かって行ったのだ。
でも怖かった。
こんなにも恐怖を覚えたのは初めてだった。
それでも声を上げ、自分を奮い立たせて向かって行った相手にあっさり負けた。
もう俺に戦う気力はない。
後は死ぬだけなのだと思うと色々な事が思い出され、何故か涙が溢れ出してきた
のだ。どうしてこうなった? 嗚呼、死にたくはないな……
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