そして女神は……

菫川ヒイロ

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勇者シス

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「いいか、覚えておけよ。力というものは他人の為に使うものなんだぞ! 決して
 自分の私利私欲の為に使ってはダメなんだ。そんなのは畜生がする事なんだから
 お前の力は私達の為だけに使うんだ、いいな? 」
 

 俺の親はそんな事を子供に言うような人達で、だから俺が勇者に成る事を決めた
 時には随分と文句を言われたものだった。
 
 
「おい、今からでも辞めると言って来てはどうだ? 勇者なんぞになった所でお前
 には何の得もないぞ。めちゃくちゃな命令をされて、ただただこき使われて、も
 し負けるようなことがあったなら平気で罵声を浴びせられるんだぞ? 狂ってい
 るだろうそんなのは、ありえないと思わないか? 」
 
 
「例えお前が魔王を倒したとしてもだ、お前が手に入れられるものなんて大して何
 もないんだぞ? 世界はもちろんお前のものになんてならないし、お前が好き勝
 手に出来るなんて事もない。寧ろ、勇者として抑制された人生を送らないといけ
 なくなるんだ。ろくに知らない奴らから監視されるのなんて最悪じゃないか! 」
 
 
「勇者なんてのは別にお前じゃないといけないなんて事はないんだから、何処かの
 お人好しの馬鹿にでもやらせておけばいいんだ。そういう馬鹿が好きそうなもの
 になんてなるんじゃない! 私達はそんなものにする為にお前を育てた訳じゃな
 いんだ。いいか、よく聞けよ。私達はお前をそんなものにする為に育てたんじゃ
 ない! 」
 
 
「別に何をしたっていいさね、アンタにはそれだけの力があるんだから。でもね、
 勇者になんてなってはダメだ。あんなものになってしまったらみんな不幸になっ
 てしまうんだから。だから勇者になんてなってはいけないんだよ」
 
 
 俺の育った場所はそれはそれは小さな村で、俺以外の子供なんて居なかったから
 みんなからとても可愛がられて育った。だからなのだろう、みんな俺の事をとて
 も心配してくれる。それはそれで分からない訳ではないのだけれど、それでも俺
 は勇者になりたかったのだ。
 
 
「みんなの心配はよくわかるよ。でも俺は勇者になるって決めたんだ。これは譲れ
 ない。それにみんなが何を心配しているのかは分かっているよ、大丈夫さ。俺は
 みんなの事を本当の家族だと思っているから、何があったって必ずみんなを守る
 よ! 」
 
 
 結局こういう風に言っておけば満足するのだろ? もう分かっているんだ。俺が
 これまで生きて来た経験からするに、要は自分達が一番優先されなければダメだ
 って事なのだ。それがこの村に住む者達の総意だって事を俺は知っている。


「いや、ダメだ。おらはそんな言葉には騙されねえ。おめえはこの村を守る事だけ
 おら達を守る事だけを考えておけばいいんだ。それがこの村に育てられたおめえ
 の役割だ」
 
 
「そうだそうだ、村長の言う通りだ! 何の為にお前を育てたと思っているんだ!
 この親不孝者め! 」
 
 
 あれ? 何か思っていたものと違う感じになっている。どうして納得しないのか
 が全くもって分からなかった俺は説得するのを諦めて、勝手に出て行く事に決め
 た。盛大に送迎会とかしてもらうはずだったのに、まさかこんな形でこの村を離
 てなければならない事を俺はとても残念に思った。
 
 






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