そして女神は……

菫川ヒイロ

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そして女神は……

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 そして女神は舞い降りた。


「何をしているの、いい加減目覚めなさい! 」
 

 そう言って寝起きの俺の頬を打つ女の事を俺は知っているような気がした。
 でも誰なのかが思い出せないのだ。確かに知っているはずなのに思い出せないと
 いうこの気持ち悪さをどうすればいいのだろうか? それとこのジンジンする頬
 の痛みもどうすればいいのか教えて欲しい。
 
 
「ちょっとどうしてそんな顔をしているの? まだ思い出せないの? まったくど
 うなってるのよこの世界は。知らない内に変わっているし、誰も私の事を知らな
 いなんてふざけているのかと思ったわマジで」
 
 
 なんら悪びれる事も無く話続けるこの女はきっと碌でもない奴なのだろうと決め
 つるには十分なはずなのに、どうしてもそれが出来ないのは何故なのか? 心の
 どこかで拒否反応がでているようで俺は一体この女とどういう関係だというのだ
 ろうか? 誰か教えて欲しいのだ。
 
 
「いつまでたってもアンタは帰って来ないし、そのせいで文句は言われるしで最悪
 な気分だったんだから謝ってくれないかしら。ほんと、毎日こんな気分で過ごす
 ってどういうものかアンタには分からないんでしょうね」
 
 
 確かにそれはそうなのかもしれないと思えてしまったのは毎日温泉に入って食っ
 て寝るという最高の生活をしている俺にはそんな気分になるなんて事がないとい
 う確信があった。
 
 
「ごめんなさい」


 別に謝る事ぐらいならどうって事はない。
 謝るという行為で俺は何も失ったりはしないのだ。今まで散々謝ってきたのだか
 らその行為に何の感情も含まれない、空っぽのままで謝る事が俺には出来るのだ
 と何故か俺は知っていた。
 
 
「謝ればいいってもんじゃないのよ。私が何も分からないとでも思っているのなら
 それは随分とナメられたものね。あまり私を怒らせないで欲しいわ。怒るのにだ
 ってそれなりに体力を使うし、そもそも私は怒りたくなんてないの。でもアンタ
 は怒らないと分からないから仕方が無く怒っているの、分かる? 」
 
 
 何を言っているのかは分からない。
 でも何故かこの感覚は知っている気がするのだ。この理不尽に理不尽を重ねてく
 る絶対的自己中な発言をするような奴を俺は知っている。そうあれはいつの事だ
 ったか? 俺のミスではないのに強引に俺がミスしたことにされたという記憶が
 俺にはあって……あの時のクソ女の名前は……名前は……
 
 
「エルトロヴィーネ! 」


「なに、やっと思い出したの? じゃあ何か忘れていない? 」


 やっと思い出した相手に対して言う事がこれとは……嗚呼、そうだった。この女
 は、この女神はこういうやつだった。今まで俺が忘れていたという事など関係は
 なく、俺が取った行動に対しての罰を与えるのがエルトロヴィーネという女神の
 やり方なのだ。
 
 
「す、すいませんでした! どうやら記憶を操作されてしまっていたようでしてま
 だ何も出来ておりません! こうしてわざわざお手を煩わす事になり誠に申し訳
 なく思っております。すぐに魔王を討伐させますのでもう少しだけお時間を頂け
 ませんでしょうか? 」
 
 
「そう。それで、何か忘れてない? 」


 向けられる笑顔は完全に怒っている証拠である。
 この女神の笑顔はただの仮面でしかないのだ。でもまだ何かを忘れているだろう
 か? 女神からの命令は転移した勇者に魔王を殺させる事だったはずで、それ以
 外に何か言われていたか必死に頭を動かすがまったく思い出せないのだ。
 
 
 そもそも今しがた記憶を取り戻したばかりである。
 もう頭の中は滅茶苦茶で何が何処にあるのかさえ分からないぐらいとっちらかっ
 ているのだ。こんな場所から探し物をしないといけないとはなんという罰なのだ
 ろうか。もう少し部下を労わって欲しいと思うのは傲慢だとでもいうのだろうか。
 
 
「なに、まだ分からないの? この頭の中には何が詰まっているのかしら? ねえ、
 思い出してみなさいよ。アンタが、アンタごときが私の事を呼び捨てにしたとい
 う事実を。いつの間にアンタは私を呼び捨て出来るほど偉くなったのか言ってみ
 なさいよ! 」
 
 
 俺は女神に頭を鷲掴みにされ、振り回される。
 力は当然天使よりも上、ならば抵抗する事など無意味だし、そんな事をすれば余
 計に怒りを買うだけだ。だから今俺に出来る事といえば、
 
 
「すいませんでしたエルトロヴィーネ様、どうかお許しを」


 吐き気を催しつつも許しを請う事しか俺には出来ない。これが絶対的な主従関係
 というものなのだ。俺に自由なんてものは存在しないし、命令は絶対。逆らうな
 んて事を考えるだけでも許されないのだ。
 
 
「もういいわ。アンタはさっさと天界へ帰りなさい。ここからは私がやるから」


 何故か女神様が後始末を代わってくれるというあり得ない事を口にした。
 あの女神様が、エルトロヴィーネ様が後始末などするだろうか? そんな心がこ
 の女神にあるとしたらもしかしてここに居るのは偽物なのでは? と疑いたくな
 ってしまう気持ちを抑え込む。
 
 
「帰ってもパパに余計な事は言わないのよ、いいわね」


 なるほど、どうやら女神の父上であるゴットに怒られたらしい。だからその分の
 腹いせも追加されていたのだろう。気晴らしには丁度よかったというだけの事で
 どうやらそこまで怒ってはいない、おこぐらいである。そうと分かれば言われた
 通りすぐに帰ろう、この機嫌がいい内に気持ちが変わらない内に帰るのだ。
 
 
 温泉にもう一度入ってから。
 
 











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