そして女神は……

菫川ヒイロ

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そして女神は……

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「いらっしゃいませ、ようこそ森の湯へ」


 ここは名湯森の湯、結構人気のある旅館でなかなか予約が取れなくて有名であり
 泊まった人は必ず満足して帰る。そんな素晴らしいおもてなしと一度入ればまた
 入りたくなるそんな温泉が売りの旅館。私はそこの女将をしている。


 どうして私がこんな事をしなければならないのかといえば、何もしないで居ると
 ここに居ずらいからで、どうしてここにいるのかといえば結婚したからで、じゃ
 あどうして結婚したのかといえばよく分からない。理由なんてよく分からないか
 ら勢いで結婚したという事なのだろうけど結婚なんてそんなものよね?
 
 
 とはいえ私は受付でただ同じ言葉を言って愛想を振りまいていればいいだけで、
 他の事は全部三人の仲居がやってくれるので何もする事はない。寧ろ何かしよう
 とすれば余計な事をするなと言われるのだ。どうも私はこの子達に嫌われている
 らしいが、理由はまあ夫の所為なのだろう。
 
 
 そんな諸悪の根源である夫はといえばここにはいない。
 夫は旅館の仕事なんて事はせずに毎日修行だと言って体を鍛える事ばかりをして
 いるのだ。一体何に備えてそんな事をしているのかは知らないが、はっきり言っ
 てそんな必要は絶対にないのだ。
 
 
 だってこんなにも平和な世界で何が起こるというのだろうか? 正直私には夫の
 事がまったく理解できないし、どうして結婚してしまったのかと最近よく考える
 のだ。別に殆んど一緒に暮らしているというわけでもないし、身の回りの事は全
 て仲居達がやってしまうのだから。
 
 
「お帰りなさい、ご主人様」


 そんな声が聞こえて私は夫が帰って来た事を知る。
 一体何処へ行っていたのかと聞けば修行だと答える事はもう知っている。そのや
 りとりを何度繰り返したか、もう諦めている。それよりももっと聞かなければな
 らない事が私にはあった。
 
 
「ねえ、私と修行どっちが大切なの? 」


 久々に会った夫は髪が伸びていたがそんな事よりも私はその答えが聞きたかった。
 
 
「修行」


 即答だった。一ミリも私の事を考えたりはしていない。
 まさかこんなにも惨めな思いをするなんて思っていなかった。多少の迷いすらも
 なく、当たり前だというその態度に腹が立つ。結婚とはもっと楽しい生活が待っ
 ているのだとばかり思っていたけど、そんな事は全然なかった。もう限界だ。
 
 
「アナタっていっつもそう。修行修行ってそればかりで全然私の事なんて考えてく
 れない。こんなんじゃあ結婚した意味がないじゃない! 」
 
 
「どうした? 何をそんなに怒っている? 」


「そういう所よ! アンタのそういう所が嫌なのよ。もう嫌。もう無理。私はもう
 アンタと一緒には居られないわ! 離婚よ離婚! 」
 
 
「そうか、俺は別に大丈夫だけど。離婚する? 」


 なんて簡単に聞き返して来たので
 
 
「離婚します、もうこんな所になんて居たくないもの! 」


 と勢いで言い、そして女神はバツイチになった。
 
 
 そうなればここにはもう居たくはないし、居られない。
 じゃあどうするべきなのかを考えていたら思い出す、天界へ帰ればいいのだと。
 本来、私が居るべきはここではなくて天界なのだ。
 
 
 そして女神は天界へ帰る。
 
 
 久々に帰って来た天界、どうして今までこうしなかったのだろうか? 
 やっぱりこっちの方が落ち着くし、ここが私の居るべき場所だと実感した。
 
 
「ただいま」


 普通に家に帰ってみれば何故か父親が不機嫌だった。
 
 
「何をしに帰って来た? 出て行ったんじゃなかったのか? 」


 別にそんなつもりではなかったし、そもそも命令されたから行っただけなのにど
 うしてそんな言われようなのか分からない。
 
 
「何よ、ちゃんと言われた通りにやって来たし、ここは私の家なんだしどうして帰
 って来たらダメなのよ! 」
 
 
「アナタ、別にいいじゃない。おかえりなさいエルトロヴィーネ。まずはゆっくり
 休みなさい、疲れたでしょ? 」
 
 
 母はとても優しかった。
 
 
「そうは言うが、これからどうするんだ。出戻りを貰ってくれる奴なんて居ないだ
 ろう? 」
 
 
 本人を前にしてなんて事を言っている!
 そして女神は自分が出戻りなのだと気が付いた。
 
 
 完全に汚点、自分史上最悪の黒歴史だ。まさか自分がこんな事になるなんて思っ
 てもみなかった。どうしてこんな事になった? といろいろと思い返してみても
 自分が悪い所なんて一つも見当たらなかった。
 
 
 じゃあ誰が悪いのか?
 決まっている、あいつだろう。あの男が悪いに決まっている。
 
 
 そして女神は復讐する事を決めたのだ。
 
 
 







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