お前しかいない

菫川ヒイロ

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 その日、私の家に久々に栄ちゃんが来た、私が必死になって探していた
 ノートと一緒に。
 そしていきなり話し出した。
 
 
 最初、私は恥ずかして仕方なかったのだが、栄ちゃんが私の書いたお話を
 こんなにも必死に話してくれるのを見ていると、なんだかだんだん
 嬉しくなってきてしまって、ついついそのまま聞いていたら、
 流石に母親が出てきて栄ちゃんを家の中に入れた。
 
 
 きっとご近所の話題になるだろう事は想像できた。
 栄ちゃんをリビングに上げた母親は、私に何があったのかを
 聞いてきたが、私には答える事が出来ない。
 
 
 だって恥ずかしすぎるではないか!
 私はまだ興奮冷めやらぬ栄ちゃんにお茶を出すと
 栄ちゃんはゴクゴクとすぐに飲み欲した。
 
 
 そりゃそうだ、あれっだけノンストップで喋ったのだから喉も乾くだろう。
 そして私はようやく気が付く。
 栄ちゃんがダルダルのスエット姿で、髪もボサボサでよく見ればすごく汚い。
 
 
 見た目は完全にヤベー奴ではないか。
 そんな事を思っていると、休憩を終えた栄ちゃんの第二部が始まった。
 
 
 それは私にとって拷問でしかなかった。
 家族の前で自分の作ったお話を披露される。
 こんな事があっていいのだろうか? 
 
 
 否、あっていいはずがない!
 私は栄ちゃんを止めに入るが
 
 
「まぁまぁ聞いてあげようじゃないか」


「そうね、せっかくだしね」


 何故かうちの親達は私を止めに来た。
 最悪だ、もう嫌だ、私は自分の部屋へと逃げ込むと頭から布団をかぶった。
 
 
 どうして私はあの大事なノートを栄ちゃんに渡してしまったのか?
 私はベットの上で身もだえる。
 今も下では栄ちゃんが親達にあれやこれやを話しているのだ。
 
 
 今はどの辺なのだろうか?
 あとどれくらいで終わるのだろうか?
 しばらくして母親が私の部屋をノックした。
 私は無視したが、母親は部屋へ入って来る。
 
 
「ねえ鈴、私達が悪かったわ。だから栄太郎君を止めてくれない? 」


「え? 」


 私がリビングに戻ると、栄ちゃんがまだ話していたが
 聞かされている父親の口からは、なにか得体のしれないものが出ていた。
 
 
「栄ちゃん、その話は明日、学校で聞くわ」


 私はどうにかこうにか栄ちゃんを家に返す事に成功する。
 そしてうちの親達は口をそろえてこう言った。
 
 
「若いってすごい! 」

 
 







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