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しおりを挟む「それじゃあ始めまーす。よーいスタート! 」
栄ちゃんの締まらない掛け声で撮影が始まる。
私はレフ版を持ちながら、千里の演技を見ていた。
流石の集中力で撮影をこなす彼女はさすがプロといった所だろうか。
カメラが回れば表情がこんなにも変わるのだと、素直に関心しながら
見てはいたが、だからといってスムーズに進んでいるのかと言えば
まったくである。
「カット! そこはそうじゃなくて、もっと心情を出して。
気持ちが揺れそうな中でも揺るがない彼女の強い部分が出てないんだよ!」
カットがかかってすぐに栄ちゃんからの注文が入る。
千里も粘り強くやってはいるが、一向にOKが出る気配がない。
まだ序盤でこんなにも行き詰るものなのだろうか?
時間は無慈悲に過ぎて行き、千里はどんどんストレスを溜めて行く。
そして行き着く所へと行き着いた。
「何回目だよコラ! 」
予想通り、溜ったものが噴き出して撮影は中断である。
私と虹子には優雅にティーブレイクの時間に入るが
流石にお腹の具合も考えないといけないくらいの回数にはなっている。
「ねえ、虹子的にはどうなの? 」
女優と監督が揉めている中で私は聞いた。
「何が? 」
「千里よ! 決まってるじゃない」
「私が文句も言わずに撮っているんだから、それが答えでしょ? 」
そうだった、この女はそういう女だった事を今更ながら思い出された。
「栄ちゃんは? 」
だから私は話の方向を変える。
「分からなくはないよね、誰だって拘りたい部分がある訳だし。
でもそれが伝わるかは別なんだよね。
伝わらなきゃ意味がない、だからある程度の妥協をしてしまうのは
悪い事ではないとは思うし、きっとそれが一番いいのだろうけど
それで満足出来ないのはどうしようもないよね」
彼女の言葉を聞いて私は、虹子も栄ちゃんを評価しているんだと
分かってしまうのがなんだか、ザワザワする。
「よし、じゃあもう一度始めますか」
二人の言い争いが終わったようなので、私達も持ち場へと戻り
撮影を再開させる。
「始めまーす。よーいスタート! 」
結果、千里の演技はさっきよりも良いものになっていて、
その演技を見て、私はまたザワザワするのである。
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