お前しかいない

菫川ヒイロ

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 もうめちゃくちゃだ! 一体あの連中は何なんだ!
 俺には理解が出来ない! どうして俺がこんな思いをしないといけないのか!
 
 
 大体、俺は求められていたのではなかったか?
 あいつら役者を探していたはずだったよな?
 それなのにこれは、どういう事なんだ?
 
 
 それに部屋から飛び出してきたものの、誰も追いかけては来ない!
 「俺は必要な人材では無かった」この状況がそう物語っている。
 俺は独り、とぼとぼと歩いて帰る。
 今日は散々な日だった。
 
 
 俺の予想では良いになるはずだったのだ。
 告白が成功して、そのままの勢いで俺の演技も褒められる。
 そんな素晴らしい小暮洋デーになるはずが……
 
 
 告白は失敗し、演技もボロクソに言われてこうして独り
 寂しく帰るなんて、映像部なんて入らなければよかった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 その朗報が入ったのは私が部屋で嘔吐いていた時だった。
 あの謎の告白を受けて私はもうボロボロだった。
 まさか告白をされてこんなにダメージを受けるなんて事が
 あるとは知らなかった。
 
 
 そういう意味ではいい経験が出来たのではないか?
 と出来るだけいい方向へと持っていこうと考えてはみるが
 あいつの顔が思い浮かんで
 
 
「ううううう、ぶぅえ」


 また気持ち悪くなっていると、鈴から電話がきた。
 
 
「千里、体調はどう? 大丈夫? 」


「うん、ちょっとはマシになったかな。 今日はごめん
 せっかくの上映会だったのに」
 
 
「いいよ、疲れてたんでしょ? 仕様がないよ。 うちの女優に
 何かあったら大変だからね、気にしなくていいから。
 お大事に。嗚呼、そうそうあいつ辞めたから、小暮。じゃあね」
 
 
 そう言って切れた電話に私は首を捻る。
 辞めた? 小暮? どういう事!
 私はすぐに鈴に電話を掛けた。
 
 
「ねえ、どういう事? 」


「何が? 」


「辞めたって何よ、何で急に辞めてるのよ! 」


 もしかして私の所為かもしれないと思ったのだが
 鈴の話を聞いて違う事が分かった。
 流石、虹子だとしか言いようがない。


 でもこれで、もうあいつ顔を合わす事が無くなったのだと
 思うと私はホッとした。
 いつの間にか吐き気も収まっており、これで心配事は無事に解消されたのだった。
 
 
「よし、ご飯を食べよう」








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