お前しかいない

菫川ヒイロ

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 そして、新作の上映会が開かれた。
 題名は「ひぐらし」
 絹江と香川、二人のすれ違う物語だ。
 
 
 結果は予想通りの大絶賛である。
 まあ当然と言えば当然なのだが、意外と小暮の評価が
 高かったのは予想外ではあった。
 
 
 実際、それなりの演技は出来てはいたので、
 余計な事さえしなければそういう評価になるかもしれないが
 結局それは虹子の功績が大きいだろう。
 
 
 編集一つでこんなにも変わるのだから、恐ろしい子である。
 そして、私はと言えば上映会でみんなと一緒に鑑賞して、
 虹子の凄さを噛みしめながらも、もう頭は別の事を考えていた。
 
 
 確かに、虹子も鈴も凄い奴らだし、それは認めているが
 それでも私には栄ちゃんという存在はそれ以上のものだった。
 今の私があるのは栄ちゃんのおかげだと思っているし、
 これからも私には栄ちゃんが必要なのだ。
 
 
 それは役者としての私だけではなくて、私個人として必要なのだ。
 だからまずは告白しなくてはならない、
 私には栄ちゃんが必要なのだと教えないといけない。
 
 
 でもそれが私にとってはなかなかに難しい、難問だった。
 まず、今まで生きて来た中で告白なんて事をした事がない私は
 どうやって告白するべきかを考えた。
 
 
 まずは方法である、それはもちろん直接言うに決まっている。
 これは私の性格上それしかないと思っている。
 後は何処でするかだろう。
 
 
 こういうのって結構、場所とか雰囲気が大事だと思う。
 実際、自分がされてみた経験上出た答えなので間違い無い。
 
 
 よくわからない場所で、変なタイミングで告白されたって
 人の心は動かないのだ。
 動いたのは胃だけで、全てリバースする事になる。
 
 
 少し思い出しただけで胃酸が上がって来て、口の中が酸っぱい。
 でも場所なんて私は詳しくはない、だから私は場所に詳しいやつに
 聞いてみる事にしたのだ。
 
 
「ちょっと三田村、いい? 」


「おお、渡辺さん。今回もよかったで」


 いつもと変わらない感じで会話をするこいつはやっぱり苦手だが、
 場所に詳しいと言えば、やっぱり三田村だろう。
 というかこいつぐらいしか知っていそうな知り合いがいないし、
 三田村ならきっといい所を知っているはずである。


 





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