その恋は止めておけ!

菫川ヒイロ

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 私が首を傾げるのは彼女の言っている事がまったく理解できないからだ。
 どうした? 何があった? どうしてそんな事を言っているのだ?
 彼女はきっと何処かに頭をぶつけたに違いない。
 
 
「私ね、王子様に求婚されちゃった! 」


 その謎の単語を並べられたとて、私が理解出来る訳もなく。
 だから私は聞き返す。
 
 
「あんだって? 」


「? だから、私、王子様に求婚されたの? 求婚。結婚を申し込まれたって事。
 分かった? 」
 
 
「何が? 」


 これは新手の詐欺とかなのだろうか?
 どうした、何か変な物でも拾い食いしたのか?
 
 
「ほら、私って王子様と付き合っていたじゃない? でね、流石に私も思う訳よ、
 そろそろかな? って。私もそれなりの歳になったから、意識しちゃうのよね。
 でね、そうしたら王子様が私に言うのよ「結婚して下さい」って。ちゃんと片膝
 を着いてね。やっぱり実際やられると私も驚いちゃって、なかなか言葉が出て来
 なくてさ。あれはちょっとした発見だったわ」
 
 
 ちょっと待て、そもそも前提がおかしい。
 
 
「ねえ、あんた、王子様と付き合っていたの? 」


「そりゃあそうでしょ! じゃないとどうして求婚されるのよ。突然そんな事をし
 てくるようなイカレた奴なら断っているわ、当たり前でしょ! 」
 
 
 何故か怒られてしまった私、理不尽だ。
 でも、ここはまず、彼女の目を覚まさせるべきなのだろう。
 
 
 バチンッ
 
 
「何するのよ! 」


 頬を打たれた彼女が激高するが、私も激高した。
 
 
「目覚めなさい! さっきから何を言っているの! 王子様? 求婚? 笑わせ
 ないで、そんな事ある訳ないでしょ! いい? よく聞きなさいよ。アンタは
 夢を見ているだけなのよ。王子様から求婚なんてあるはずもない夢を見ていた
 だけなの。アンタが苦しいのは分かるわ、でもそれはダメ。それだけはダメなの」
 
 
 彼女を諭す。
 決して道から足を踏み外す事がないようにと思って。
 だから、
 
 
 バチンッ
 
 
「何するのよ! 」


 彼女から打たれるなんて頭の隅にも無かった。
 
 
「何が夢よ! そりゃあアンタの希望は私が結婚しない事でしょうけどね、私は
 結婚するのよ王子様と。アンタはこれからも独りぼっちで居ればいいわ! 」
 
 
「はあ? 何よそれは! 言いたくは無かったけどね、王子様と結婚するのは私、
 アンタじゃなくて私なのよ! 」
 
 
「意味わかんない! 私がするのよ、結婚は! 」


「私だって言っているでしょ! 」


「違う、私よ! 」


「私しよ! 」


 こうして始まった泥試合は続く、永遠に。
 まったく、夢も希望もあったもんじゃない……
 
 
 
 
 
 
 
 


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