ワイが天下無双の浪速の虎!!響也様じゃぁ!!

桂木 鏡夜

文字の大きさ
1 / 4

いけすかんやっちゃの。

しおりを挟む
 夕方6時頃。

ドカッ!バキ!

 鈍い音が学校の体育館裏で鳴り響き、地に崩れ落ちていく緑色のブレザーを着た他校生。

 そして、その前に堂々と佇む黒い学ランを着た一重で口角がやけに上がりニヤケ顔の男がいた。

 身長は173センチで細身の筋肉質。

 そして特徴的なのがボウズの髪を真っ赤に染め上げ横に三本のソリコミラインと両耳にピアス。

 それともう一つ、いつも首にヘッドフォンを着用していて耳当てには虎と書かれた何ともダサいファッションだ。

 彼こそは高校一年にして巷まで名の轟く喧嘩最強【浪速の虎】と二つ名を持つ神崎 響也カミサキ キョウヤだ。

「がはははは!!何回挑戦したかて無理や!ワイは強い!最強!天下無双の王様じゃぁ!!」

〇〇〇〇

  あれから2時間後。


ガタンゴトンガタンゴトン!

 電車の音が鳴り響く高架下は陽が落ちると昔ながらのスナックやらのネオンが灯され、飲屋街となる。

  そんな中でジュウジュウと美味しそうな匂いを立ち上がらせる小さなホルモン屋に響也はいた。

 時間も時間なので客席は満席だ。

「あんたまた店番サボって何処ほっつき歩いとったんや!?」

「あーあー。相変わらずオカンは煩いのぉ。喧嘩や喧嘩。」

 タバコを堂々と蒸す響也は力こぶを自慢げに見せびらかすと、ガコン!と母の鉄槌が響也の頭頂部に落ちる。

「ぬぅぉ!!いったあぁ‥。何晒す!!?」

「店でタバコ吸うなゆうたやろ!!それに喧嘩ばっかしてやんと早よ配達行ってこい!!近所のスナックキズナさんに出前頼まれとんねん。」

「えー、キズナぁ‥。」

 響也は頑なに嫌そうな顔を浮かべる。

 何故なら、そこのママは何故か響也の事をかなりのお気に入りで、やたらと触ってくるのだ。

 ママ自体は30代後半で中々の美人ではあるが、響也からしてみれば自分の母と変わらないオバちゃんな訳で正直、キモいの一言だった。

 響也が嫌そうな顔を浮かべるのを無視して母は響也に串焼きを手渡し、「ゴタゴタ言わんと早よいってこい!」と言い放った。

「うぃ~。」

 涙目になりながら響也は手に持つタバコを灰皿に擦り付け、串焼きを持ち店から出ようとする。すると常連のオッサンが「うししし、またこっ酷くやられとるのぉ。ここで飲む酒はええ肴付きや!」と面白そうに冷やかした。

「人を肴にして楽しむなオッサン!俺はいっこも面白い事あらへんぞ!」

 そう言い残して扉をバン!っと強めに締めると、響也はスナックへと向かった。

 響也の家系は母1人、子1人の母子家庭だ。父は物心つく前に亡くなっていて、男勝りな母1人で育てた。

 焼き鳥屋は元々、父の両親が商いをしていたが、腰を痛めて療養となり、一度締める寸前だったが、その当時一緒に働いていた母と父がその後を継ぐ事となった。

 しかし、しばらくして父は倒れ、そのまま亡き人となったが、父と2人で頑張った思い出の店を潰したくは無いと母1人で必死に切り盛りをし、今に至る。

 母の男勝りな性格のおかげか、母との会話を楽しむ為に来る客も多く、売り上げも赤字にはならず繁盛し毎日を忙しく過ごしていた。

 だが飲み屋なので、夜が基本となる為、母は響也と少しでも一緒に居る時間を増やす為に、焼き鳥屋の上を家にした。

 だから否が応でも帰れば焼き鳥屋を響也は手伝う事となるのだ。

 ガチャ、っとキズナの扉を開く響也。

「ちーす。配達もってきたでぇ。」

「あら、響也ちゃんやない。相変わらず可愛いわぁ~。」

 入るなり直ぐにキズナのママが擦り寄ろうとしてくるので、近くにあった椅子で其れを阻止する。

「ちょっと、なんやのこれ。釣れないなぁ~。私こう見えてめちゃくちゃモテるんよ。」

「オカンと一緒の歳のオバハンに何も思うかい!!それより焼き鳥コレここ置いとくで。」

 響也はそそくさとカウンターに焼き鳥を置くと、逃げる様に店から出た。

「本間にええ男なったわぁ‥。」

 帰りの道中。

 ドカドカ!と飲み屋の裏側で騒がしい音と大きながなり声が鳴り響く。

「なんじゃこのクソガキ!!」

「すみませんね。これでも僕の父なので。」

 響也は勿論、喧嘩と知れば急いで観戦しに行く。

 どうやら酔っ払いのイザコザの様だ。

 酔っ払いが3人に一人は倒れていて、その倒れた爺さんを庇う様に前に立ちはだかる少年がいた。

  歳は響也と同じぐらいだろうか?キレイな顔立ちにメガネを掛けている。

「ガキが調子こいとったらあかんぞ。」

真司シンジ!危ないから下がってなさい。」

「父さん。こんな酔っ払いに頭下げる必要なんかないさ。それに先に手を出したのはあっちだろ。」

 その少年はそう言って側にいる父にメガネを託すと構えを取った。

「ガキが大人に勝てる思うなよ!!」

 酔っ払いの一人が真司に躍り出ると、ヒラリとその攻撃を躱し、真司の拳が酔っ払いの顔面を捉えた。

 バギィ!!

 鈍い音が鳴り響き、酔っ払いは吹き飛ばされ、ゴミ袋が積み重なった場所にガラガラと倒れ込んだ。

 酔っ払いは先の一撃で気を失った様だ。

(あいつ、見かけに寄らず強いやないかい。)

 響也は強い奴を見るとワクワクするタイプだ。

 「こんガキ、何かやってんぞ!同時に行くぞ。」

酔っ払いは2人がかりで襲い掛かる。

 だが同時に響也も躍り出て一人の酔っ払いに飛び蹴りをかました。

 響也が真司のほうへと振り返ると真司ももう一人の酔っ払いを片付け終わった所だった。

 チラっと真司は響也を見たが、直ぐにそっぽを向いて父親の腕を自分の肩に回し状態を起こすと直ぐに、その場を去ろうとした。

「ちょい待てや。ありがとうの一言もあらへんのかい?」

 響也がそう言うと真司はまたチラッと響也を見ると「別に‥。僕一人でやれたんだ。礼を言う筋合いはないね。」

 真司の素っ気ない態度に響也が機嫌を悪くしない訳が無かった。

「ほう。自分がどんなけ強い思っとんかしらんけど、ワイにようそんな口聞けたの。勝負せいや!!」

「バカ猿とは勝負せん。俺がやるのは人間だけだ。」

「ムキー!!!てめぇ!誰がバカ猿だゴラァ!!」

 真司のペースに乗せられるままの響也は真司に飛び交った。

 咄嗟に真司は父親を置き響也の拳をいとも簡単に交わす。

 (な!!?)

 「なろぉ!!」

 また響也は拳を振り回すがこれも空を掠め、なおガムシャラに拳を振るい続けるが掠りさえもしない。

 響也の息は上がり、肩を鳴らす。

「はぁ、はぁ。何でや?何で‥当たらんのや?」

 真司は冷たい視線で響也を見つめる。

「そんな大振りのパンチが当たる訳ないだろ馬鹿猿。」

「また言いよったなクソガキャァ!!!」

 怒り奮い立たせ響也が渾身の拳を真司の顔面目掛けて放つと、真司も拳を放ち、クロスする様に響也の顔面を捉えた。

バギィ!!!

 響也の体が崩れ落ちる。

「お前もガキなんじゃないのか?」

 真司はその一言を残し、再び父親を抱えてその場を去った。

 響也は薄れゆく視界の中で、ただ動けずその歩む後ろ姿を見るしかなかった。

「い‥いけすかん‥やっちゃのぉ‥。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...