最後の春

さや

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1小節目

1小節目

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※曲目の楽器編成が間違えてる箇所があるかもしれません。ご容赦ください。
※京都の高校が舞台ですが、京都弁使ってません。


「それじゃあ各自パート練始めてー。」

コンミスの3年、人見 桜は指示を出す。

桜の指示を聞き、団員たちは個人練をストップする。

皆それぞれ声を掛け合うが、1人でオドオドとしている者がいる。

「彩、練習しよっか。」

チューバの2年、市川 彩の元にやって来たのはトロンボーンの2年、朝倉 花音だ。

「うん。」

彩と花音は1年で同じクラスとなり、元吹奏楽部ということもあってか、一緒に管弦楽団に入団した。

彩は自分の譜面台と椅子を、花音の席に近づける。

「今日はここを重点的に練習しよう。この前の合奏で上手く吹けなかったから…。」

「そうだね…。私もこの前音外しちゃったし。」

2人は顔を見合わせ、苦笑いする。

「頑張ろうね!」

花音は言う。

そしてパラパラと譜面をめくり始める。

「えっと…この前音外したのが2ページ目の5小節目で、拍数間違えたのがここで…。」

花音が確認をしていると、誰かが後ろから覗き込んだ。

「大丈夫?」

声を掛けたのは、桜だ。

「桜先輩!」

花音と彩は後ろを振り向く。

「あっ、もしかして練習の邪魔しちゃった?」

「そんなことないです!ね、彩?」

花音が言う。

「はい、そうです…。」

彩は頷く。

「なら良かった。今年の定演の曲難しいし、大丈夫かと思ったんだ。」

曲目は前プロにカレリア組曲、中プロに木星、メインにチャイコフスキーの交響曲第2番、アンコールにトレパークだ。

「今回は難しいです。」

花音が譜面をめくりながら言うと、桜は相づちをうつ。

「うんうん。木星とか、金管楽器は大変そうだよね。」

「ですよねー…って、決めたの私たちですけど。」

毎年、定演の曲目を決めるのは生徒たちなのだ。

「で、でも…っ、私は木星好きです!サビの部分とかヴァイオリンは凄い綺麗だし…。」

彩が突然言う。

「ありがとう、彩ちゃん。私もっと頑張らないとね!」

桜はにこりと笑いかける。

「いえっ、そんなことないです。桜先輩はヴァイオリン上手ですよ!」

「またまたぁ、お世辞がうまいんだから。」

そう言って桜はパート練に戻っていく。

彩が花音を見ると、花音はそっと耳打ちする。

「よかったね、先輩と話せて。」

「うん…っ!」

彩は大きく頷く。

なぜなら彩は桜に想いを寄せているからだ。

きっかけは昨年の新入生歓迎会での演奏会だった。

ヴァイオリンを弾く桜をみて、彩は一目惚れしたのだ。

「桜先輩…。」

彩は、赤くなった頬を押さえる。

「ほらほら、もう練習するよ。」

花音が彩の肩を叩く。

「あっ、ごめん。練習しなきゃね。」

2人が練習を始めると、その様子を遠目で見ている人物が小さな声で呟く。

「下手くそ。」

そう呟いたのはセカンドヴァイオリンの1年、原田 夏希だ。

夏希は京都府主催のヴァイオリンコンクールの優勝者で、学校ではちょっとした有名人だ。

切れたE線を張替えながら練習光景をみていると、誰かが夏希の肩を叩く。

「弦切れちゃったの?」

声を掛けたのはチェロの2年、森 香だ。

「はい、そうです。換えの弦くらい持ってますよ。もしかして先輩も弦切れちゃったんですか?」

「ご名答…。実は換えの弦持ってなくて…。」

香は苦笑いする。

「呆れた…。確か音楽準備室にチェロの弦置いてありましたよ。どの弦ですか?」

「C線です…。」

それを聞いた夏希はため息をつく。

「この前もC線上手く張替えられなくて、切ってましたよね。」

「う、うん。ごめん…。」

「別にいいですけど、次から気をつけて下さい。」

そう言って夏希は音楽準備室へ向かう。

「こらこら、後輩に頼っちゃ駄目だぞ。」

誰かが香の頭を軽く叩く。

「良美先輩、やめて下さいよ。」

現れたのはフルートの3年、瀬戸 良美だ。

良美は桜の幼馴染で、付き合いが長い。

「まあまあ、そう怒らないでよ。ね、桜?」

近くにいた桜を呼ぶ。

「え、どうしたの?」

「実は香がさー。」

良美がここまで言いかけると、夏希が戻ってきた。

「香先輩、C線ありましたよ。よかったですね…って、皆さんお揃いで何してるんですか?」

夏希は真顔で言う。

「いやー今みんなでお話ししてて。」

香が笑うと、夏希は怒る。

「ちゃんと練習しなきゃ駄目ですよ!合宿までになんとかなればいいやー、とか思ってるんじゃないですか?」

「そ、それは…。」

香は言葉を濁らせる。

「はいはい、もういいですから香先輩は私と練習ですよ。」

「えっ、夏希ちゃん待ってよー!」

「待ちません。」

夏希は強引に香を連れていく。

「夏希ちゃんと香って仲良いよね。」

桜は笑う。

「ほんとそうだね。あっ、私も練習しなきゃ。」

譜面を持ち、桜は自分の椅子に座る。

その時、音楽室のドアが開く。

「君たち、そろそろ閉門の時間だから練習は終わりにしてくれるかな?」

やって来たのは警備員だ。

「あっ、はい!じゃあみんな片付けして!」

桜の指示が出ると、皆は急いで片付けを始める。

弦楽器は片付けが早いが、管楽器は大変だ。

特に金管楽器はつば抜きがあるため、他よりも片付けが遅くなってしまう。

「少し早く片付けしておけばよかったね。」

花音は彩に話しかける。

「うん、そうだね。」

2人が片付けを進めていると、桜がやって来る。

「2人の荷物は私たちで片付けしておくから、楽器の片付けはゆっくりやって大丈夫だよ。」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます…。」

彩と花音はお礼を言う。

「だいじょーぶ!」

桜はウインクして、微笑む。

丁度、時計は夜の8時を回っている。
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