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第5章
67.自分も思い違いをしていた
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(……色持ちの神が、そろっている――?)
絶世の美貌を持つ神々がズラリと集い、アマーリエに向けて慈愛深い視線を注いでいた。その中で真っ先に見付けたのは、もちろん愛しい神の姿だ。ワインレッドの髪が光を反射して艶めいている。
(フレイム!)
山吹色の双眸が、頑張れという激励と鼓舞を込めて据えられていた。その眼差しだけで、圧倒されかかっていた心が落ち着いていく。
(フロース様、ラミルファ様……っ)
フレイムに次いで会いたかった神々の姿も見付けたが、声を上げられなかった。
泡神と末の邪神は、地上にいた時とは全く異なる気迫を帯びていた。自然体で佇むフロース、両腕の肘を抱えるようにして立つ白髪灰緑眼のラミルファ。二柱とも、初めて降臨した時と同じ、崇高なオーラを放っている。完全なる異次元の存在としての威光だ。とてもとても、こちらから声をかけることなど畏れ多い。
(ああ……)
胸の奥からじわじわと寂寥が溢れ、瞬く間に表層まで充満した。
(遠くに行ってしまわれた――)
万物が至れる果ての果てすらも容易く飛び越えた、最高の極致。アマーリエが必死に手を伸ばしても伸ばしても、決して届かない高みの真髄へ。
――アマーリエ、聞いてくれ。実はこの前失敗してしまった。初めて行った場所のドアノブを押しても開かないから力を入れて押したら、扉ごと外れてレアナに呆れられてしまった。あのドア、押すのではなくて引くタイプだったらしいんだよ
――ほらアマーリエ、パンケーキを作ってあげたよ。トッピングは何が良いんだい? あるのはバターとホイップクリームとフルーツジャム、チョコレートソースだよ。有り難く堪能するが良い、この僕が作った邪神スペシャルなのだからね
そう言って、泣き顔や笑い顔を見せてくれていた彼らは、もういない。数多の従神や使役たちが、彼らが動く前に先回りして扉を開け、完璧な飲食物を用意するだろう。彼ら自身があくせくと手を動かして何かをする必要はない。むしろ、これが本来の姿なのだ。
そういえば、特別降臨していた時のラミルファはとても楽しそうだったと、時空神が言っていた。フレイムは観光地ではしゃいでいるようなものだと評していたが、きっとそれは正しいのだろう。
本当の彼らは、地上にいる者には及びも付かない高次元に坐す超越存在なのだ。狼神や疫神に感じた畏怖に通ずるものを、今のフロースとラミルファも放っている。それを実感した途端、彼らと過ごした日々が急激に夢の出来事のように思えて来た。
心にぽっかり穴が空いたような心地で、ラミルファの横へと視線を逸らしたアマーリエは、ひゅぅと息を吸い込んだ。
(フルード様)
ラミルファとフレイムの間に、フルードが佇んでいる。背後には狼神の巨躯がそびえていた。フレイムたちの姿を見付けた時、フルードも視界に入ってはいたのだが、すぐに個々の神に注意を絞ってしまったため、意識が向くのが遅くなった。
視線が絡み合うと、優しい青が窈窕として微笑んだ。魂どころか、自分という存在を丸ごと持っていかれるほどに、幻惑的で蠱惑的な麗姿。狼神かフレイムかラミルファか、誰が用意してやったのか、精緻な神衣を着込んだ姿は嬋娟たる美の神そのものだった。
――アマーリエ、硬い顔をしてどうしたのですか。ああ、今日は天の神を勧請する日でしたね。あれは何回やっても緊張します。私も未だに緊張するのですよ。特にほら、高位の神をお喚びする時は胃が痛くて。もう完全に別次元の存在ですよね、色持ちの神は
つい先日までそう言って笑い合っていたはずの彼が、当たり前の顔で、その高位神の一柱として加わっている。冷静に見れば、輝く光の中には虹もある。至高神もいるのだ。ということは、あそこは超天なのか。
一握りしかいない色持ちの神だけが達せる絶域に――至高神や最高神、選ばれし神々たちが君臨しているのと同じ場所に、フルードは涼やかに立っていた。
(……違う……)
脳天に雷を喰らったような衝撃と共に、アマーリエは己の思い違いに気が付いた。
絶世の美貌を持つ神々がズラリと集い、アマーリエに向けて慈愛深い視線を注いでいた。その中で真っ先に見付けたのは、もちろん愛しい神の姿だ。ワインレッドの髪が光を反射して艶めいている。
(フレイム!)
山吹色の双眸が、頑張れという激励と鼓舞を込めて据えられていた。その眼差しだけで、圧倒されかかっていた心が落ち着いていく。
(フロース様、ラミルファ様……っ)
フレイムに次いで会いたかった神々の姿も見付けたが、声を上げられなかった。
泡神と末の邪神は、地上にいた時とは全く異なる気迫を帯びていた。自然体で佇むフロース、両腕の肘を抱えるようにして立つ白髪灰緑眼のラミルファ。二柱とも、初めて降臨した時と同じ、崇高なオーラを放っている。完全なる異次元の存在としての威光だ。とてもとても、こちらから声をかけることなど畏れ多い。
(ああ……)
胸の奥からじわじわと寂寥が溢れ、瞬く間に表層まで充満した。
(遠くに行ってしまわれた――)
万物が至れる果ての果てすらも容易く飛び越えた、最高の極致。アマーリエが必死に手を伸ばしても伸ばしても、決して届かない高みの真髄へ。
――アマーリエ、聞いてくれ。実はこの前失敗してしまった。初めて行った場所のドアノブを押しても開かないから力を入れて押したら、扉ごと外れてレアナに呆れられてしまった。あのドア、押すのではなくて引くタイプだったらしいんだよ
――ほらアマーリエ、パンケーキを作ってあげたよ。トッピングは何が良いんだい? あるのはバターとホイップクリームとフルーツジャム、チョコレートソースだよ。有り難く堪能するが良い、この僕が作った邪神スペシャルなのだからね
そう言って、泣き顔や笑い顔を見せてくれていた彼らは、もういない。数多の従神や使役たちが、彼らが動く前に先回りして扉を開け、完璧な飲食物を用意するだろう。彼ら自身があくせくと手を動かして何かをする必要はない。むしろ、これが本来の姿なのだ。
そういえば、特別降臨していた時のラミルファはとても楽しそうだったと、時空神が言っていた。フレイムは観光地ではしゃいでいるようなものだと評していたが、きっとそれは正しいのだろう。
本当の彼らは、地上にいる者には及びも付かない高次元に坐す超越存在なのだ。狼神や疫神に感じた畏怖に通ずるものを、今のフロースとラミルファも放っている。それを実感した途端、彼らと過ごした日々が急激に夢の出来事のように思えて来た。
心にぽっかり穴が空いたような心地で、ラミルファの横へと視線を逸らしたアマーリエは、ひゅぅと息を吸い込んだ。
(フルード様)
ラミルファとフレイムの間に、フルードが佇んでいる。背後には狼神の巨躯がそびえていた。フレイムたちの姿を見付けた時、フルードも視界に入ってはいたのだが、すぐに個々の神に注意を絞ってしまったため、意識が向くのが遅くなった。
視線が絡み合うと、優しい青が窈窕として微笑んだ。魂どころか、自分という存在を丸ごと持っていかれるほどに、幻惑的で蠱惑的な麗姿。狼神かフレイムかラミルファか、誰が用意してやったのか、精緻な神衣を着込んだ姿は嬋娟たる美の神そのものだった。
――アマーリエ、硬い顔をしてどうしたのですか。ああ、今日は天の神を勧請する日でしたね。あれは何回やっても緊張します。私も未だに緊張するのですよ。特にほら、高位の神をお喚びする時は胃が痛くて。もう完全に別次元の存在ですよね、色持ちの神は
つい先日までそう言って笑い合っていたはずの彼が、当たり前の顔で、その高位神の一柱として加わっている。冷静に見れば、輝く光の中には虹もある。至高神もいるのだ。ということは、あそこは超天なのか。
一握りしかいない色持ちの神だけが達せる絶域に――至高神や最高神、選ばれし神々たちが君臨しているのと同じ場所に、フルードは涼やかに立っていた。
(……違う……)
脳天に雷を喰らったような衝撃と共に、アマーリエは己の思い違いに気が付いた。
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