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第6章
8.裏方の精霊たち
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◆◆◆
(割と綺麗な場所ね。さすがは天界だわ)
壮麗に飾り立てられた表の領域とは異なり、下働きが使う空間は装飾がなく、シンプルな作りになっていた。手入れが行き届いてはいるが、見た目よりも機動性を重視していることは明らかだ。
『転移で……いや、近いから良いか。こっちだ』
ひょいとアマーリエを横抱きにし、勝手知ったる通路とばかりにフレイムが疾走を始めた。
「きゃあ! じ、自分で走れるわよ」
『そう言うなって。せっかく綺麗にドレスアップしてヒール履いてんのに』
「平気よ、ピンヒールで神器とやり合ったことだって何度も――」
『しー、もう着いたぜ』
急停止したフレイムの腕からそっと降ろされ、目の前を見ると、数名の精霊が集っていた。中心にいる二名の男女は泣いており、別の一名が近くで呆然と立ち尽くし、他の数名は遠巻きにしている。こちらの出現に気付いてもいない。彼らが纏う空気だけで、頭が真っ白になっていることが察せられた。
『ヨルン、マイカ!』
フレイムが駆け寄った。泣き腫らした顔を上げた男女の精霊が、そろって目を見開く。精霊たちが一斉に平伏した。
『え、焔神様。このような場においでいただき――』
『要らん要らん、そういうのマジで今は良いから。何か裏が騒がしいなと思って来ちまっただけだ。そんな重く考えんな、これ神命な』
『しかし、あなた様は私たちとはもう身分が……』
遠慮がちに言いかけた精霊の一体が、アマーリエを見付けて声を上ずらせた。
『よ、燁神様っ!?』
『ユフィーのことも気にすんな。俺の妻の生い立ちは知ってるだろ。可哀想だって姉上が泣いて騒ぎまくったせいで、天界では有名だからな』
(お、お義姉様……)
烈火の気性を持つブレイズは、しかし、それ以上に情が深く涙もろいそうだ。アマーリエのことも、生家から受けていた扱いを聞いて我がことのように嘆いてくれた。
……が、まさか天界中に広めていたとは。どのみち神の眼をもってすれば見透かされていただろうし、遅かれ早かれ周知の事実になっていたことなので、別に構わないが。
『ユフィーは下で働く奴の気持ちとか苦労を痛いほど知ってる。お前たちの不利になるようなことはしないし、ここに来ても大丈夫だ』
重ねて言うフレイムに同調し、気持ちを切り替えたアマーリエは大きく頷いた。
「そうよ、本当に私のことは気にしないで。泣き声がしたから気になって、自分からここに来たいとフレイムに無理を言ったの。もし良ければ、何があったか聞かせてくれないかしら?」
『ああ、一体どうしたんだ?』
夫婦で問いかけるが、申し訳ない気持ちも募った。形式上は質問でも、精霊たちの側からすれば神に聞かれて答えないわけにはいかない。実質は回答の強制だ。それでも、何かできることがあれば――
『わ、私とヨルンが角でぶつかってしまって、それぞれがお運びしていた物を落としてしまったのです。ヨルンは灼神様の御神衣を、私はお料理を……』
『神衣は布で包んでいたのですが、熱々の煮込み料理がまともにかかって布ごと汚れてしまいました』
マイカと思しき女性の精霊と、男性姿のヨルンが消え入りそうな声で説明する。
『フレイム、神威で修復できない?』
『ちょっと貸してみな。……すぐには無理だな。これはただの衣じゃない。セインがラミルファに下賜されたような、一種の神器に近い。俺の力で元通りにはできるが、ちょっと手間がかかる』
山吹色の瞳が素早く動き、対処を思案するように眇められた。たった衣一着ごときで、と侮ることはできない。人間界ですら、王妃や王女の宝飾品を壊したことで厳罰に処された女官もいると聞く。ならば、相手が人間どころか神であれば……。さらに、フレイムが爆弾を投下した。
『これは母上が兄上に下賜した衣なんだ。兄上は特に気に入ってて、ここぞという場で持って来させて纏ってる』
(割と綺麗な場所ね。さすがは天界だわ)
壮麗に飾り立てられた表の領域とは異なり、下働きが使う空間は装飾がなく、シンプルな作りになっていた。手入れが行き届いてはいるが、見た目よりも機動性を重視していることは明らかだ。
『転移で……いや、近いから良いか。こっちだ』
ひょいとアマーリエを横抱きにし、勝手知ったる通路とばかりにフレイムが疾走を始めた。
「きゃあ! じ、自分で走れるわよ」
『そう言うなって。せっかく綺麗にドレスアップしてヒール履いてんのに』
「平気よ、ピンヒールで神器とやり合ったことだって何度も――」
『しー、もう着いたぜ』
急停止したフレイムの腕からそっと降ろされ、目の前を見ると、数名の精霊が集っていた。中心にいる二名の男女は泣いており、別の一名が近くで呆然と立ち尽くし、他の数名は遠巻きにしている。こちらの出現に気付いてもいない。彼らが纏う空気だけで、頭が真っ白になっていることが察せられた。
『ヨルン、マイカ!』
フレイムが駆け寄った。泣き腫らした顔を上げた男女の精霊が、そろって目を見開く。精霊たちが一斉に平伏した。
『え、焔神様。このような場においでいただき――』
『要らん要らん、そういうのマジで今は良いから。何か裏が騒がしいなと思って来ちまっただけだ。そんな重く考えんな、これ神命な』
『しかし、あなた様は私たちとはもう身分が……』
遠慮がちに言いかけた精霊の一体が、アマーリエを見付けて声を上ずらせた。
『よ、燁神様っ!?』
『ユフィーのことも気にすんな。俺の妻の生い立ちは知ってるだろ。可哀想だって姉上が泣いて騒ぎまくったせいで、天界では有名だからな』
(お、お義姉様……)
烈火の気性を持つブレイズは、しかし、それ以上に情が深く涙もろいそうだ。アマーリエのことも、生家から受けていた扱いを聞いて我がことのように嘆いてくれた。
……が、まさか天界中に広めていたとは。どのみち神の眼をもってすれば見透かされていただろうし、遅かれ早かれ周知の事実になっていたことなので、別に構わないが。
『ユフィーは下で働く奴の気持ちとか苦労を痛いほど知ってる。お前たちの不利になるようなことはしないし、ここに来ても大丈夫だ』
重ねて言うフレイムに同調し、気持ちを切り替えたアマーリエは大きく頷いた。
「そうよ、本当に私のことは気にしないで。泣き声がしたから気になって、自分からここに来たいとフレイムに無理を言ったの。もし良ければ、何があったか聞かせてくれないかしら?」
『ああ、一体どうしたんだ?』
夫婦で問いかけるが、申し訳ない気持ちも募った。形式上は質問でも、精霊たちの側からすれば神に聞かれて答えないわけにはいかない。実質は回答の強制だ。それでも、何かできることがあれば――
『わ、私とヨルンが角でぶつかってしまって、それぞれがお運びしていた物を落としてしまったのです。ヨルンは灼神様の御神衣を、私はお料理を……』
『神衣は布で包んでいたのですが、熱々の煮込み料理がまともにかかって布ごと汚れてしまいました』
マイカと思しき女性の精霊と、男性姿のヨルンが消え入りそうな声で説明する。
『フレイム、神威で修復できない?』
『ちょっと貸してみな。……すぐには無理だな。これはただの衣じゃない。セインがラミルファに下賜されたような、一種の神器に近い。俺の力で元通りにはできるが、ちょっと手間がかかる』
山吹色の瞳が素早く動き、対処を思案するように眇められた。たった衣一着ごときで、と侮ることはできない。人間界ですら、王妃や王女の宝飾品を壊したことで厳罰に処された女官もいると聞く。ならば、相手が人間どころか神であれば……。さらに、フレイムが爆弾を投下した。
『これは母上が兄上に下賜した衣なんだ。兄上は特に気に入ってて、ここぞという場で持って来させて纏ってる』
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