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第6章
9.場を収めるには
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「えっ、お義母様からの贈り物なの!?」
まさかの追加情報に、アマーリエは狼狽えた。最高神から賜った品となれば、衣の一枚くらい良いじゃないですかとは言えない。ヨルンとマイカの近くで立ち尽くしていた別の精霊が、色を失くした顔で告げた。
『本当は灼神様付きの私が仰せつかったご用命だったのです。ですが、別の仕事で手が離せず、ヨルンに頼んでしまったためにこのようなことに……』
相当に貴重な品なので、普段であれば箱に入れるなり簡易でも結界を張るなりして、もっと慎重に運んでいた。しかし、今日は大規模な宴で精霊たちがバタバタしており、灼神付きの精霊が忙しくヨルンが臨時で運搬を担ったこともあり、通常より管理が甘くなっていたのだという。
『母神の神威で織られた衣だから、俺でも容易には復元できねえんだ。神威が邪魔するから、衣の時間を汚れる前に巻き戻すこともできねえし。かといって、正直に汚しましたと言うのはまずい。母神に対しての不敬にもなる。焼かれるじゃすまねえ』
宙を睨んだフレイムが、よしと頷いた。
『料理だけなら戻せるな』
パチンと指を鳴らすと、湯気を立てる煮込み料理が大鍋に入った状態で復活した。色といい漂う匂いといい、人間界でいえばビーフシチューに近い。
『マイカはこのまま料理を運べ。んでヨルン、お前は衣を渡すために宴の会場に出たトコで、俺と会った。俺が兄上に届けるって言って、お前から強引に衣を取り上げたんだ。そしたら途中にあった料理の前ですっ転んで、派手にぶっかけちまった』
『ええ!?』
精霊たちが唖然とし、ヨルンが悲鳴を上げた。
『そんなことをしたら焔神様が!』
『良いんだよ、俺は責められねえから。兄上は末弟に激甘なんだ。母上もだな。すんませーんって頭下げときゃ許してくれるさ。メルビンと、それに他の奴らも聞いてたな。そういうことにするから、何か聞かれたら話を合わせてくれ』
メルビンと呼ばれたのは、灼神付きの精霊だ。当惑のざわめきが広がった。ヨルンとマイカは、泣き腫らした目にさらに涙を溜めている。マイカがフレイムに取り縋った。
『いけませんフレイム様……』
『冷静に考えろ。最高神が選ばれし神に贈与した物を汚損しちまったんだ。それが神なら笑って許してもらえる。けど精霊だったら、同胞に対するような慈悲はねえ。……これはあくまで最悪の想定だが、ヨルンだけじゃなくマイカとメルビンも連帯で、悪神の使役に配置換えされてもおかしくないぞ』
ヨルンたちがひっと息を呑んだ。悪神の使役。すなわち生き餌だ。それは神罰牢に堕とされることと同等の苦痛を伴うという。自身を引き止めるように袖を掴んだまま震えるマイカの背を軽く叩き、フレイムが力強く言った。
『俺の身内だった奴らをそんな目に遭わせられない。俺が……』
「フレイム、ちょっと待って」
アマーリエは手を前に出した。
「時間さえあれば、フレイムなら衣を修復できるのよね?」
『ああ、半日集中してやれば復元できる。だから、俺の周囲だけ時間の流れを変えたり、時間流が遅い異空間を創ってその中で直すっていう方法もあるんだ。だが、それをしたら、神威の気配を同格以上の神に察知されるリスクがある』
途中でバレてしまうくらいならば、最初から自分のせいにした方が安全だという。
『それに、宴の会場を遠視してるんだが、兄上が衣はまだかと気にしてる。もう時間がない』
「だったら、これはどうかしら。上手くいくか分からないけれど。あのね……」
アマーリエは声を潜め、口を開いた。
まさかの追加情報に、アマーリエは狼狽えた。最高神から賜った品となれば、衣の一枚くらい良いじゃないですかとは言えない。ヨルンとマイカの近くで立ち尽くしていた別の精霊が、色を失くした顔で告げた。
『本当は灼神様付きの私が仰せつかったご用命だったのです。ですが、別の仕事で手が離せず、ヨルンに頼んでしまったためにこのようなことに……』
相当に貴重な品なので、普段であれば箱に入れるなり簡易でも結界を張るなりして、もっと慎重に運んでいた。しかし、今日は大規模な宴で精霊たちがバタバタしており、灼神付きの精霊が忙しくヨルンが臨時で運搬を担ったこともあり、通常より管理が甘くなっていたのだという。
『母神の神威で織られた衣だから、俺でも容易には復元できねえんだ。神威が邪魔するから、衣の時間を汚れる前に巻き戻すこともできねえし。かといって、正直に汚しましたと言うのはまずい。母神に対しての不敬にもなる。焼かれるじゃすまねえ』
宙を睨んだフレイムが、よしと頷いた。
『料理だけなら戻せるな』
パチンと指を鳴らすと、湯気を立てる煮込み料理が大鍋に入った状態で復活した。色といい漂う匂いといい、人間界でいえばビーフシチューに近い。
『マイカはこのまま料理を運べ。んでヨルン、お前は衣を渡すために宴の会場に出たトコで、俺と会った。俺が兄上に届けるって言って、お前から強引に衣を取り上げたんだ。そしたら途中にあった料理の前ですっ転んで、派手にぶっかけちまった』
『ええ!?』
精霊たちが唖然とし、ヨルンが悲鳴を上げた。
『そんなことをしたら焔神様が!』
『良いんだよ、俺は責められねえから。兄上は末弟に激甘なんだ。母上もだな。すんませーんって頭下げときゃ許してくれるさ。メルビンと、それに他の奴らも聞いてたな。そういうことにするから、何か聞かれたら話を合わせてくれ』
メルビンと呼ばれたのは、灼神付きの精霊だ。当惑のざわめきが広がった。ヨルンとマイカは、泣き腫らした目にさらに涙を溜めている。マイカがフレイムに取り縋った。
『いけませんフレイム様……』
『冷静に考えろ。最高神が選ばれし神に贈与した物を汚損しちまったんだ。それが神なら笑って許してもらえる。けど精霊だったら、同胞に対するような慈悲はねえ。……これはあくまで最悪の想定だが、ヨルンだけじゃなくマイカとメルビンも連帯で、悪神の使役に配置換えされてもおかしくないぞ』
ヨルンたちがひっと息を呑んだ。悪神の使役。すなわち生き餌だ。それは神罰牢に堕とされることと同等の苦痛を伴うという。自身を引き止めるように袖を掴んだまま震えるマイカの背を軽く叩き、フレイムが力強く言った。
『俺の身内だった奴らをそんな目に遭わせられない。俺が……』
「フレイム、ちょっと待って」
アマーリエは手を前に出した。
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『ああ、半日集中してやれば復元できる。だから、俺の周囲だけ時間の流れを変えたり、時間流が遅い異空間を創ってその中で直すっていう方法もあるんだ。だが、それをしたら、神威の気配を同格以上の神に察知されるリスクがある』
途中でバレてしまうくらいならば、最初から自分のせいにした方が安全だという。
『それに、宴の会場を遠視してるんだが、兄上が衣はまだかと気にしてる。もう時間がない』
「だったら、これはどうかしら。上手くいくか分からないけれど。あのね……」
アマーリエは声を潜め、口を開いた。
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