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第6章
14.先代は伝説になる
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そう、この場は新米のちびっ子聖威師たちとフルードの顔合わせ会として設けた。フレイムと同じ卓に座っているのは、ちびっ子たちの主神たちである。
「さあ皆、ご挨拶して。大丈夫よ、何度も練習したのだし、先代様はとてもお優しいから失敗しても怒ったりしないわ」
そっと促すと、まず口を開いたのは金髪碧眼の少女だった。練習で決めた順番通りだ。
「先代大神官様にご挨拶申し上げます。金剛神様の寵を賜りました、ミンディ・アイラ・アーシエにございます」
硬さを孕みながらも真っ直ぐにフルードを見据え、よく通る声で名を述べる。金剛神とはすなわちダイヤモンドの神だ。続いて、ミンディの隣で小さくなっていた金髪碧眼の少年が目をさ迷わせながら口を開いた。
「ア……アンディ・ソル・アーシエと、申します。す、水晶神様に、見初めていただきました」
消え入りそうに細い声。こちらはクリスタルの神の愛し子である。言い終わると、すぐに下を向いてしまう。残るは三名。共に黒髪黒目だ。口火を切ったのは、利発そうな目をした少年だった。
「先代大神官様にご挨拶いたします。丈吟大樹と申します。桜神様より寵を賜りました」
「丈吟高芽と申します。梅の神様にお見初めをいただきました」
次に大樹より少しだけ小さな少年。最後に青白い顔で唇を動かしたのは、一番幼い少女だった。
「じ、丈吟美種です……も、桃の神様に、ひくっ、見初めて、ひっく……すみません……いただきました、ひくっ」
途中でしゃっくりが出始めた。慌てて口を胸を押さえながらもどうにか最後まで言い切る。子どもたちが一斉に心配そうな顔を向けた。
「ご、ごめ、なさ……ひくっ、私、また失敗しちゃっ、ひっ……」
美種の大きな目に涙が浮かんだ。神々のテーブルにいる中で、淡い桃色の髪と双眸を持つ女神が、気遣わしげに様子を伺っている。
「お、お兄ちゃ、たち、みたいに、ひっく、したいのに、できなくて……」
「美種、大丈夫?」
「水を飲んでみろ」
ミンディと大樹が囁く。だが、フルードの方が速かった。気配もなく一瞬で美種の背後に移動すると、小さな背をそっとさすりながら、柔らかな声で語りかけた。
『一度呼吸を止めて、ゆっくり十数えてみましょう。……………次は大きく深呼吸して下さい。吸って、吐いて』
目を白黒させた美種が言われた通りに息を吸っては吐いている。
『はい、止まりました』
「フルード様、すごいですね」
アマーリエが拍手すると、瞬き一つでイスに戻ったフルードはにっこりと破顔した。
『昔、私も同じようにしていただいたのです』
透き通った青が一瞥した先にあるのは、フレイムたちがいるテーブルだ。フレイムかラミルファか狼神の誰かがやってあげたのだろうが、三神のうち誰だろうか。
『ですが、上手くできるか不安だったので、少しズルをしました。背中を撫でた時に、体の調子を安定させる力を流し込んだのです』
「神威でドーピング作戦ですね」
『そういうことです』
小さく噴き出したアマーリエにころころ笑ったフルードは、ポンと両手を叩いて子どもたちを見た。柔和な笑みを纏い、次代を担う新星を鼓吹する。
『さて、挨拶を受けました。全員、私が初めて神と対面した時より遥かに立派な出来栄えでしたよ。自信を持って下さい』
「まあ、フルード様はどのようなご挨拶をされたのですか?」
『御神前に進み出る段階で緊張しすぎて転倒し、床に頭を強打して気絶しました』
「「…………」」
挨拶する以前の問題である。
『神官になりたてで、まだ聖威師になる前でしたね。先生の……当時の神官マーカスの勧請の場を見学させていただいた時のことです。お相手は蝶の神でした』
あの時は蝶の神にも先生にもとんだ迷惑をかけてしまいました、と申し訳なさそうに肩をすぼめている。迷惑というか、マーカスも神も驚いたのではないだろうか。
なお、蝶の神は高位神ではない。おっとりした性格で、自身や天を侮蔑されない限り機嫌を悪くすることはほぼ皆無だ。眼前で転んで気絶するというのも失態だが、そういう種類の不始末で怒る神ではない。それは不幸中の幸いだっただろう。
『そう言えば、僕は初めてセインと会った時、神使だと勘違いされかかった上に若干タメ口混じりで話された』
『俺なんか怪獣みたいな扱いだったぜ。口から火を噴いて巨大化して全身真っ赤になると思われてたらしい』
『私など、愛し子の誓約という一世一代の契りを結んでいる真っ最中に、私ではなく骸邪神様とイチャつかれて半分無視されておりましたぞ』
ヒソヒソと話すのはラミルファとフレイムと狼神だ。皆、懐かしそうに目を細めているが、同じテーブルに付いた他の神々は目を点にしていた。選ばれし神に対するとんでもない態度の連発を聞けば当然である。
『ラミ様、お兄様、ハルア様、仰らないで下さい! 思い出すだけで顔から火が出てしまいますので!』
フルードが慌てた様子で手を振った。三神が笑いながら口を閉ざす。
(フルード様はきっと、稀代の大神官として後世で伝説になるわ。……色々な意味で)
正確には、現在でももうなっているが。
「さあ皆、ご挨拶して。大丈夫よ、何度も練習したのだし、先代様はとてもお優しいから失敗しても怒ったりしないわ」
そっと促すと、まず口を開いたのは金髪碧眼の少女だった。練習で決めた順番通りだ。
「先代大神官様にご挨拶申し上げます。金剛神様の寵を賜りました、ミンディ・アイラ・アーシエにございます」
硬さを孕みながらも真っ直ぐにフルードを見据え、よく通る声で名を述べる。金剛神とはすなわちダイヤモンドの神だ。続いて、ミンディの隣で小さくなっていた金髪碧眼の少年が目をさ迷わせながら口を開いた。
「ア……アンディ・ソル・アーシエと、申します。す、水晶神様に、見初めていただきました」
消え入りそうに細い声。こちらはクリスタルの神の愛し子である。言い終わると、すぐに下を向いてしまう。残るは三名。共に黒髪黒目だ。口火を切ったのは、利発そうな目をした少年だった。
「先代大神官様にご挨拶いたします。丈吟大樹と申します。桜神様より寵を賜りました」
「丈吟高芽と申します。梅の神様にお見初めをいただきました」
次に大樹より少しだけ小さな少年。最後に青白い顔で唇を動かしたのは、一番幼い少女だった。
「じ、丈吟美種です……も、桃の神様に、ひくっ、見初めて、ひっく……すみません……いただきました、ひくっ」
途中でしゃっくりが出始めた。慌てて口を胸を押さえながらもどうにか最後まで言い切る。子どもたちが一斉に心配そうな顔を向けた。
「ご、ごめ、なさ……ひくっ、私、また失敗しちゃっ、ひっ……」
美種の大きな目に涙が浮かんだ。神々のテーブルにいる中で、淡い桃色の髪と双眸を持つ女神が、気遣わしげに様子を伺っている。
「お、お兄ちゃ、たち、みたいに、ひっく、したいのに、できなくて……」
「美種、大丈夫?」
「水を飲んでみろ」
ミンディと大樹が囁く。だが、フルードの方が速かった。気配もなく一瞬で美種の背後に移動すると、小さな背をそっとさすりながら、柔らかな声で語りかけた。
『一度呼吸を止めて、ゆっくり十数えてみましょう。……………次は大きく深呼吸して下さい。吸って、吐いて』
目を白黒させた美種が言われた通りに息を吸っては吐いている。
『はい、止まりました』
「フルード様、すごいですね」
アマーリエが拍手すると、瞬き一つでイスに戻ったフルードはにっこりと破顔した。
『昔、私も同じようにしていただいたのです』
透き通った青が一瞥した先にあるのは、フレイムたちがいるテーブルだ。フレイムかラミルファか狼神の誰かがやってあげたのだろうが、三神のうち誰だろうか。
『ですが、上手くできるか不安だったので、少しズルをしました。背中を撫でた時に、体の調子を安定させる力を流し込んだのです』
「神威でドーピング作戦ですね」
『そういうことです』
小さく噴き出したアマーリエにころころ笑ったフルードは、ポンと両手を叩いて子どもたちを見た。柔和な笑みを纏い、次代を担う新星を鼓吹する。
『さて、挨拶を受けました。全員、私が初めて神と対面した時より遥かに立派な出来栄えでしたよ。自信を持って下さい』
「まあ、フルード様はどのようなご挨拶をされたのですか?」
『御神前に進み出る段階で緊張しすぎて転倒し、床に頭を強打して気絶しました』
「「…………」」
挨拶する以前の問題である。
『神官になりたてで、まだ聖威師になる前でしたね。先生の……当時の神官マーカスの勧請の場を見学させていただいた時のことです。お相手は蝶の神でした』
あの時は蝶の神にも先生にもとんだ迷惑をかけてしまいました、と申し訳なさそうに肩をすぼめている。迷惑というか、マーカスも神も驚いたのではないだろうか。
なお、蝶の神は高位神ではない。おっとりした性格で、自身や天を侮蔑されない限り機嫌を悪くすることはほぼ皆無だ。眼前で転んで気絶するというのも失態だが、そういう種類の不始末で怒る神ではない。それは不幸中の幸いだっただろう。
『そう言えば、僕は初めてセインと会った時、神使だと勘違いされかかった上に若干タメ口混じりで話された』
『俺なんか怪獣みたいな扱いだったぜ。口から火を噴いて巨大化して全身真っ赤になると思われてたらしい』
『私など、愛し子の誓約という一世一代の契りを結んでいる真っ最中に、私ではなく骸邪神様とイチャつかれて半分無視されておりましたぞ』
ヒソヒソと話すのはラミルファとフレイムと狼神だ。皆、懐かしそうに目を細めているが、同じテーブルに付いた他の神々は目を点にしていた。選ばれし神に対するとんでもない態度の連発を聞けば当然である。
『ラミ様、お兄様、ハルア様、仰らないで下さい! 思い出すだけで顔から火が出てしまいますので!』
フルードが慌てた様子で手を振った。三神が笑いながら口を閉ざす。
(フルード様はきっと、稀代の大神官として後世で伝説になるわ。……色々な意味で)
正確には、現在でももうなっているが。
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