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第6章
13.紹介したいのは
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『げっ、狼神様。聞かれちまいました?』
『しっかり聞こえておりましたとも。あなた様は相変わらずですな、全く』
優雅な所作で現れたのは、雪のような白肌にたっぷりした銀髪を持つ、痩身の青年だ。
『今日は人型ですか』
『さすがに常の巨体では宴の会場を圧迫してしまいますのでなぁ。鷹神様なども人身を取っておられますよ。……良い。この場は無礼講としよう。全員そのつもりで』
アマーリエたちが礼をするために立ち上がろうとするのを、ゆったりとした仕草で制する狼神。その後ろから、フルードとラミルファがひょっこり顔を覗かせた。
『アマーリエ、呼んでくれてありがとう』
魅惑の笑みを纏うフルードの横で、末の邪神がふふんと流し目を送る。
『仕方ないから来てあげたよ。ああ、僕にも礼は不要だ』
『ユフィーが呼んだのはセインだけでお前は入ってねえけどな、ラミルファ。まぁどうせセインに引っ付いて来ると思ってたけどよ』
『ふふ、連れないことを言わないでおくれ。僕とアマーリエの仲は知っているだろう』
『やかましいわユフィーとお前の間には何もねえだろ!』
『はいはいその辺で』
睨み合いを始めそうな二神を、慣れた調子で狼神が遮った。そして、ラミルファと共にフレイムのいるテーブルに腰掛けた。
『お呼び立てしてしまい申し訳ありません』
アマーリエは丁重に謝った。目の前にいる先達は、もはや天の神に戻った身。神官同士だった頃とは全く事情が違う。だが、フレイムに会釈してからアマーリエと同じ卓に付いたフルードは、生前と変わらぬ優しい眼差しを浮かべていた。
『気にしないで下さい。私もあなたたちとゆっくり話したかったのです。立派な大神官になりましたね、アマーリエ。専心努力して自己陶冶に勤しんだのでしょう』
「もったいなき御言葉を賜わり恐悦至極にございます。私など物の数にも入らぬ身。今後も鋭意励んで参る所存です」
『そんなに堅苦しい口調で話さないで下さい。ハルア様も、この場は無礼講だと仰いました。地上にいた頃と同じように接してくれれば嬉しいです』
「承知いたしました。……ではフルード様、念話で申し上げた通り、この子たちを紹介させていただきたいのです。本当はあなたのご子女から紹介できれば良かったのですけれど、難しくて」
『分かっています。フェルとアリアは忙しいですから。宴の場ではそれなりに話せましたが』
「お話しできたのですね。良かったです」
ランドルフは、アシュトンの昇天と同時にイステンド大公位を継いだ。ルルアージュはもう一つの大公家、ノルギアス家を継いで女大公となっている。一位貴族に宗基と唯全が君臨しているように、大公家にはイステンドとノルギアスがいるのだ。ただ、ノルギアス大公家は諸事情あって当主がおらず、アシュトンの代はイステンド家が代理で管理していた。
大公家と一位貴族は太古より通婚を繰り返しており、四家に生まれた者は他の三家の継承権も有している。ルルアージュはそれを利用し、ノルギアス大公家を継ぐことになった。
翻って、大公家と一位貴族の先達たちは、地上にいる時は聖威師だった者が一定数いる。当然、死した現在は神として天に上がっている。ゆえにランドルフとルルアージュは、今回の一時昇天では、当代大公として祖神たちへの挨拶回りをしなくてはならなかった。
この宴は挨拶をする格好の機会であり、現在も片っ端から先祖たちの元を回りまくっている兄妹は、超絶多忙な身だ。天にいる間は、祖神たちから個別に歓談や茶会に呼ばれることもある。
――すみません~、この子たちの紹介お願いしますー
――私たちは時間が取れないと思うのです
一時昇天の期間は全般的にバタバタすると予想した二人は、事前に今回の役目をアマーリエに振っていた。ついでに、同じ理由で忙しい当利と祐奈からも頼まれた。『皇国の子もお願いします!』と。
リーリアでも良いのだが、フルードの後を継いで大神官になったのはアマーリエなので、こちらに投げたらしい。もちろん断る理由もないので快諾し、今に至る。
「それで、この子たちなのですが。拝謁では個別にご挨拶することができませんでしたから、この場でフルード様にお目通りさせていただきたく」
『ええ、ぜひ』
優しい青が動いた。その方向を追えば、アマーリエと同じテーブルに付いていた者たちが、ガチガチの石像と化していた。まだ幼い子どもたちだ。
「先代大神官様に、ミレニアム帝国と神千皇国に顕現した新たな聖威師をご紹介いたします」
『しっかり聞こえておりましたとも。あなた様は相変わらずですな、全く』
優雅な所作で現れたのは、雪のような白肌にたっぷりした銀髪を持つ、痩身の青年だ。
『今日は人型ですか』
『さすがに常の巨体では宴の会場を圧迫してしまいますのでなぁ。鷹神様なども人身を取っておられますよ。……良い。この場は無礼講としよう。全員そのつもりで』
アマーリエたちが礼をするために立ち上がろうとするのを、ゆったりとした仕草で制する狼神。その後ろから、フルードとラミルファがひょっこり顔を覗かせた。
『アマーリエ、呼んでくれてありがとう』
魅惑の笑みを纏うフルードの横で、末の邪神がふふんと流し目を送る。
『仕方ないから来てあげたよ。ああ、僕にも礼は不要だ』
『ユフィーが呼んだのはセインだけでお前は入ってねえけどな、ラミルファ。まぁどうせセインに引っ付いて来ると思ってたけどよ』
『ふふ、連れないことを言わないでおくれ。僕とアマーリエの仲は知っているだろう』
『やかましいわユフィーとお前の間には何もねえだろ!』
『はいはいその辺で』
睨み合いを始めそうな二神を、慣れた調子で狼神が遮った。そして、ラミルファと共にフレイムのいるテーブルに腰掛けた。
『お呼び立てしてしまい申し訳ありません』
アマーリエは丁重に謝った。目の前にいる先達は、もはや天の神に戻った身。神官同士だった頃とは全く事情が違う。だが、フレイムに会釈してからアマーリエと同じ卓に付いたフルードは、生前と変わらぬ優しい眼差しを浮かべていた。
『気にしないで下さい。私もあなたたちとゆっくり話したかったのです。立派な大神官になりましたね、アマーリエ。専心努力して自己陶冶に勤しんだのでしょう』
「もったいなき御言葉を賜わり恐悦至極にございます。私など物の数にも入らぬ身。今後も鋭意励んで参る所存です」
『そんなに堅苦しい口調で話さないで下さい。ハルア様も、この場は無礼講だと仰いました。地上にいた頃と同じように接してくれれば嬉しいです』
「承知いたしました。……ではフルード様、念話で申し上げた通り、この子たちを紹介させていただきたいのです。本当はあなたのご子女から紹介できれば良かったのですけれど、難しくて」
『分かっています。フェルとアリアは忙しいですから。宴の場ではそれなりに話せましたが』
「お話しできたのですね。良かったです」
ランドルフは、アシュトンの昇天と同時にイステンド大公位を継いだ。ルルアージュはもう一つの大公家、ノルギアス家を継いで女大公となっている。一位貴族に宗基と唯全が君臨しているように、大公家にはイステンドとノルギアスがいるのだ。ただ、ノルギアス大公家は諸事情あって当主がおらず、アシュトンの代はイステンド家が代理で管理していた。
大公家と一位貴族は太古より通婚を繰り返しており、四家に生まれた者は他の三家の継承権も有している。ルルアージュはそれを利用し、ノルギアス大公家を継ぐことになった。
翻って、大公家と一位貴族の先達たちは、地上にいる時は聖威師だった者が一定数いる。当然、死した現在は神として天に上がっている。ゆえにランドルフとルルアージュは、今回の一時昇天では、当代大公として祖神たちへの挨拶回りをしなくてはならなかった。
この宴は挨拶をする格好の機会であり、現在も片っ端から先祖たちの元を回りまくっている兄妹は、超絶多忙な身だ。天にいる間は、祖神たちから個別に歓談や茶会に呼ばれることもある。
――すみません~、この子たちの紹介お願いしますー
――私たちは時間が取れないと思うのです
一時昇天の期間は全般的にバタバタすると予想した二人は、事前に今回の役目をアマーリエに振っていた。ついでに、同じ理由で忙しい当利と祐奈からも頼まれた。『皇国の子もお願いします!』と。
リーリアでも良いのだが、フルードの後を継いで大神官になったのはアマーリエなので、こちらに投げたらしい。もちろん断る理由もないので快諾し、今に至る。
「それで、この子たちなのですが。拝謁では個別にご挨拶することができませんでしたから、この場でフルード様にお目通りさせていただきたく」
『ええ、ぜひ』
優しい青が動いた。その方向を追えば、アマーリエと同じテーブルに付いていた者たちが、ガチガチの石像と化していた。まだ幼い子どもたちだ。
「先代大神官様に、ミレニアム帝国と神千皇国に顕現した新たな聖威師をご紹介いたします」
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