神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

42.どうしてあなたが

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 ◆◆◆

 選ばれし神である疫神は、本来は最高格の奉迎を以って歓待されるべき存在だ。だが、今回は私的な訪いであることと、疫神自身が大袈裟な接待を望んでおらず、ごく簡単にで良いと要望を出したことから、簡素に行われることになった。

『疫神様、ようこそ』

 神殿の入口まで出て迎えたフレイムの礼に合わせ、豪奢な刺繍が施された赤い外套が揺らめく。一歩後ろに立ったアマーリエも、精緻な紋様が織り込まれたショールを纏って平伏した。結い上げた髪には、最高級の天珠と天花を連ねて編み込んだヘッドドレスを装着している。

『出迎えに感謝する』

 黒地に深緑の模様が入った神衣を翻し、疫神が婉然と笑みを浮かべた。切れ長の眼が周囲を射抜く。従神を引き連れてはいないのは、来訪側の数が増えれば迎えも大仰になり面倒臭いから、というのが建前だ。

「本日は御来駕を賜わり深謝申し上げます。お許しいただけますならば、先だっていただきました御下賜品の返礼をいたしたく思います」
『良かろう』

 応えは一語だった。髪をなびかせ、葬邪神と並ぶ神々の長兄はさっさと神殿に踏み込む。形良い唇が三日月の形に持ち上がった。

『ここに来るのは初めてだ。さぁ案内してくれ、焔神様。我らが行くべき所にな』

 ◆◆◆

 暴れ神の神威が領域を圧倒し、大気に漂う粒子の隅々に至るまで緊張感が充満する中。忙しない足音を響かせ、静まり返った部屋の一室に駆け込む影があった。小柄な影は、衣の懐に忍ばせていた細長い小箱を取り出し、急ぎ足でテーブルに近付く。置かれているのは、蓋が少し開いたままの大箱。
 細い手が大箱を開き、空っぽの中身が露わになった時。

『そこまでです、止まりなさい』

 紅碧の神威が影を拘束した。自身が視認できないよう力を纏った上で、気配を消して部屋に潜んでいたフルードが姿を現す。その後ろからスルリと登場したラミルファが、身動き一つできなくなった影が抱えていた小箱を取り上げる。神威を帯びた手で開封防止の封印を解除し、パカッと開けば、中には紙束が入っていた。

『ラミ様、委任状は無事ですか?』
『ああ。この通り、しっかり揃っているようだよ。――ふふ、絵に描いたような現行犯だ。ねぇ皆』

 美しい少年の唇から漏れる、愉快げな嗤笑。神威に縛り上げられたままの影が震え、唯一動かせる視線を部屋の入口に向けた。
 いつの間にか、疫神とフレイム、アマーリエが佇んでいた。フレイムの従神と下働きの精霊たちも。

『ユフィー、委任状を確認しろ。小箱の封が開けられた気配は無かったが、念のためだ』
「はい」

 ほら、と取り戻した箱を渡してくれたラミルファに礼を言い、アマーリエは中身を取り出す。一枚一枚しっかり注視していると、歩み寄ったフルードが共に確認してくれた。

『汚れや破損はないようですね』

 神威を宿した瞳で用紙を視ながら胸を撫で下ろしている。枚数を数えたアマーリエは、肺の奥から息を吐き出した。

「数もきちんと全通あります。……良かった」

 膝から力が抜けそうになるのを堪えていると、両脇から覗き込んでいたフレイムも頷いた。

『俺も確認した。どうにか無事だったみたいだな。……本当にごめんなユフィー。俺の管理不行き届きで、お前を不安にさせちまった』
「いいえ、私も保管者として注意が足りていなかったわ」
『ふん、何もなかったか。つまらんなぁ』

 眦を下げたフレイムがアマーリエを抱きしめる横で、疫神がそっぽを向いて首筋をかいている。その輪に加わっていないラミルファは、不気味な笑顔を浮かべて目の前の者を見据えていた。白い指を伸ばし、小刻みに震えている影の頰を撫でる。影が引き攣った声を上げた。

『ひっ……』
『答えよ。何故委任状を持ち出した? 下等な精霊ごときが』

 凍える灰緑の双眸が鈍い光を放つ。フレイムに抱擁されたアマーリエも、恐る恐る声をかけた。

「どうして……どうしてあなたがこんなことを――マイカ」
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