神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

45.フレイムはお怒り中

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『何で――何であなたなのよ。元はたかが人間だった癖に。料理も宝飾品も、私よりずっと良い物ばかり用意してもらって!』

 アマーリエの髪を彩るヘッドドレスは、フレイムの神域で採れた天珠の中でも、最高級を超えた極上品ばかりを連ねて作られている。フレイムが手ずから作り上げた一品で、どこにでも生えている結晶花とは比較にすらならない。
 纏う精緻な衣も、天糸を紡ぐところから染め付け、織り上げと模様の入れ込みまで全てフレイムが行った。
 マイカと話をして盛り上がった――とアマーリエは思っていた――席でも、ズラリと並べられていた豪華な朝食は、一つ残らずフレイム渾身のお手製だ。

 愛する妻のためだけに作られた、二つとして同じ物はない品。

『私の話を聞いても余裕綽々で笑っているばかり……本当に嫌な女ね! 自分の方が上位だと思ってるんでしょう。勝者のゆとりってわけ!?』
『ふふ、随分とかしましい精霊だ』

 袖の袂を口元に当てて嗤うラミルファの声が冷たい。

「あ、あなたの話って何――もしかしてフレイムに髪留めとかお菓子をもらったというアレ? いえ、だってまさかフレイムを好いているなんて知らなくて、ただ思い出話をしてくれているとばかり……」

 いきなりの激昂に付いて行けず、目を白黒させるアマーリを庇う形で、フルードが前に立った。大神官時代と同じ鋭さと酷薄さを帯びた眼差しで唇を開きかける。だが、フレイムの方が早かった。

『黙れ精霊』

 常よりも低く重い声。だが、一切の感情を排除した美貌には、怒りも悲しみも憤激も浮かんでいない。路傍の小石に向けるような目で、遠き日の同輩を見ている。対峙するこの2名が共に汗を流していた日は、もう遥か彼方へと過ぎ去った。

『……フレイム?』

 数呼吸置いて、投げられた言葉の意味を理解したのだろう。マイカが掠れた声を漏らす。

『精霊って、どうしてそんな言い方』
『お前にはお前なりの言い分があるのかと聞いていれば、どこまでも身勝手な妄言をほざくばかり。我が妻をどこまで愚弄すれば気が済むのか』

 心胆が縮み上がるような威圧と共に、紅蓮の神威が熱と化し、ジリジリと大気を炙る。態度と口調を豹変させた意中の者に、愚行を犯した精霊が竦み上がる。ラミルファが呆れ顔で嘆息した。

『そもそもの話、実際にアマーリエの方が上位かつ勝者なのだよ。フレイムの妻にして高位神になったのだから。元が人間であろうが関係ない。ただの精霊とは全てが違いすぎる。そのようなことも分からぬとは、君は実に魯鈍ろどんだ』
「あの、別に勝負をしていたわけではないので……」

 小さく異論を差し挟むアマーリエ。だが、この場の空気に圧倒され、消え入りそうな声しか出なかった。
 そう言えば以前、フレイムも嵐神と同じような会話をしていた気がする。確か神使内定者の懇親会の時だった。自分たちは似た者夫婦なのだろうか。

『自身の欲望を満たすため、火神の神器を用途に反した目的で濫用し、我が神域で盗みを働き、聖威師の表決権を侵害しかけ、極め付けに我が妻を窮地に追いやった。事故や誤解による結果であればともかく、全て恣意的に行ったこととなれば、酌量の余地はない』
『い、委任状はすぐに返すつもりだったの! 聖威師様の権利を侵すつもりなんかなかった! ただ、燁神様が少しだけ慌てて困れば良い、私がフレイムに目をかけてもらえれば良いと思って……なのに、まさか疫神様がお出でになるなんて――』

 ついに神に対する丁寧な言葉遣いまでかなぐり捨て、マイカが言い訳を並べる。彼女の中で、フレイムの時は精霊のまま止まっているのかもしれない。かつては自分の同胞だった意中の彼。必死で謝罪すれば、以前と同じように分かってくれる、許してくれる、助けてくれると。

 真赤の炎が踊った。ワインレッドの髪が長くうねり、混じり気のない赤に染まる。その瞬間、フルードが片膝を付いて低頭し、一歩下がったラミルファが胸に片手を当て、恭しく礼をした。アマーリエも慌ててひれ伏す。従神たちも深く額突き、精霊たちは床に這いつくばった。

『これはこれは火神様、ご機嫌麗しく』

 ラミルファと同様の所作で敬意を示した疫神が笑う。焔火神として真の本性を顕現させたフレイムが、髪と同じ色に変じた瞳を場に一巡させる。

『神格を持つ者は楽にせよ』

 そして、目の前にいる精霊を見た。腰を抜かしてへたり込むマイカが、か細い声で懇願する。

『待ってフレイム、お願い……』
『黙れ、衣冠禽獣いかんきんじゅうの使役風情が。許可も得ず火神様の御名を呼ぶでない』

 疫神が冷厳さを孕んだ声で言い放った。それは刃物の一閃が通過したような鋭利さで空気を裂き、精霊の言葉の続きを切り捨てる。

『火神の権限において、精霊マイカの担当を変更する』
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