453 / 602
第6章
44.暴かれる恋心
しおりを挟む
『フレイムの過去視や遠視をどうやってすり抜けた?』
問いかけたのはフレイムではなく、またもラミルファだった。悪神からの声かけに身を竦ませたマイカだが、観念したように口の中で呟く。
『臨時でここに派遣される時、火神様から一時的に貸し与えられた神器を使いました。燁神様のお世話が滞りなくできるようにと賜ったものです』
『なるほど。視たところ、君の霊威は相当弱い。高位神の側仕えをするには力不足だから、補助として貸与されたのだろう。熱心にアマーリエ付きを望む心を汲んでのご対応だったのかな』
疫神が委任状の在り処を追うために打ち出した雷撃は、フレイムの領域の一点を貫いていた。臨時で派遣された精霊たちのために用意した控え室を。そこにあるということは、増員された下働きの誰かが盗んだのだ。その時点で、該当する精霊の情報はラミルファやフルードたちに共有した。マイカが自身の強い希望でここに来たことも。
そして、臨時でやって来た精霊たちの内面を密かに遠視し、邪念を押し秘めている者がいないか探ったのだが、それらしい念は視えなかった。ゆえに一芝居打ち、決定的な現場を押さえることにしたのだ。おそらく、マイカは火神の神器を発動させ、こちらからは色々な物事が視えないよう結界を張っていたのだろう。
『まさかその神器を悪用し、逆にアマーリエを窮地に落とし込もうとするとは。火神様の御意を無下にするにも程がある』
『火神様は情がお篤い。下働きにも心を配る。その時点では何の非もない精霊の心の中を覗き見て、悪意や邪念があるか視通すことはせん。下位の者の尊厳にも配慮なさる御方だからな。ゆえに気付かなんだのであろう』
両手を頭の後ろで組んだラミルファと、腕組みした疫神が交互に言う。僅かにウェーブがかった長髪を揺らめかせ、暴れ神が嘲笑を纏った。
『だが、賜った神器は過剰使用で機能停止を起こしたようだ。高位神の探索を幾度もかわし続けていれば、当然そうなるだろう。所詮は補助的に賜った物でしかない』
臨時で仕える精霊の誰かが盗難者であると目星を付けたアマーリエたちだが、その影には高位神がいる可能性を考えた。フレイムの力でも小箱の所在を視通せなかったからだ。焔神と同格以上の神に命じられ、そのバックアップを受けているのではないか。ならば、下手をすればアマーリエはもちろん、フルードも返り討ちに遭いかねない。
そう考えたため、フレイムだけでなく疫神とラミルファも芝居に参加し、アマーリエとフルードを守ることにした。いざとなれば真の神格を出す腹づもりだったのだ。
『神器の壁が消えたからだろう、今はお前の心がよく視える。嫉妬と羨望が渦巻く美しい心だ』
獰猛な獣のように目を見開いた暴神が嗤う。悪神基準で美しいのだから、つまりそういうことだ。末の邪神も、楽しい玩具を見付けた顔で兄に続く。
『僕は悪神だから、火神様のような気遣いは皆無だ。君の心だろうが過去だろうがプライベートだろうが、片っ端から視てやろう。どれどれ……君はフレイムが精霊だった頃から、彼のことが好きだった。だが、素直になれず上から目線の傲慢な言動を繰り返すだけで、完全なる片想い。フレイムは君の好意に気付いてすらいなかったようだ』
『や、やめっ……』
こうなるともはや公開処刑だ。青ざめさせていた顔を一転して真っ赤に染めたマイカが制止しようとするが、ドス黒い神威の圧に声と動きをもろとも封じられる。
『フレイムが神になった後も密かに想い続け、妻を得たと聞いてアマーリエに嫉妬していた。そして大饗の宴で、フレイムと仲睦まじいアマーリエを見たことで恋慕の情が制御を外れ、暴走して今回の計画を企てたわけか』
集った全員の前で容赦なく恋心を暴かれ、少女の形をした精霊は羞恥と悲憤に震えている。その目がアマーリエを睨み、悔しげに細められた。
問いかけたのはフレイムではなく、またもラミルファだった。悪神からの声かけに身を竦ませたマイカだが、観念したように口の中で呟く。
『臨時でここに派遣される時、火神様から一時的に貸し与えられた神器を使いました。燁神様のお世話が滞りなくできるようにと賜ったものです』
『なるほど。視たところ、君の霊威は相当弱い。高位神の側仕えをするには力不足だから、補助として貸与されたのだろう。熱心にアマーリエ付きを望む心を汲んでのご対応だったのかな』
疫神が委任状の在り処を追うために打ち出した雷撃は、フレイムの領域の一点を貫いていた。臨時で派遣された精霊たちのために用意した控え室を。そこにあるということは、増員された下働きの誰かが盗んだのだ。その時点で、該当する精霊の情報はラミルファやフルードたちに共有した。マイカが自身の強い希望でここに来たことも。
そして、臨時でやって来た精霊たちの内面を密かに遠視し、邪念を押し秘めている者がいないか探ったのだが、それらしい念は視えなかった。ゆえに一芝居打ち、決定的な現場を押さえることにしたのだ。おそらく、マイカは火神の神器を発動させ、こちらからは色々な物事が視えないよう結界を張っていたのだろう。
『まさかその神器を悪用し、逆にアマーリエを窮地に落とし込もうとするとは。火神様の御意を無下にするにも程がある』
『火神様は情がお篤い。下働きにも心を配る。その時点では何の非もない精霊の心の中を覗き見て、悪意や邪念があるか視通すことはせん。下位の者の尊厳にも配慮なさる御方だからな。ゆえに気付かなんだのであろう』
両手を頭の後ろで組んだラミルファと、腕組みした疫神が交互に言う。僅かにウェーブがかった長髪を揺らめかせ、暴れ神が嘲笑を纏った。
『だが、賜った神器は過剰使用で機能停止を起こしたようだ。高位神の探索を幾度もかわし続けていれば、当然そうなるだろう。所詮は補助的に賜った物でしかない』
臨時で仕える精霊の誰かが盗難者であると目星を付けたアマーリエたちだが、その影には高位神がいる可能性を考えた。フレイムの力でも小箱の所在を視通せなかったからだ。焔神と同格以上の神に命じられ、そのバックアップを受けているのではないか。ならば、下手をすればアマーリエはもちろん、フルードも返り討ちに遭いかねない。
そう考えたため、フレイムだけでなく疫神とラミルファも芝居に参加し、アマーリエとフルードを守ることにした。いざとなれば真の神格を出す腹づもりだったのだ。
『神器の壁が消えたからだろう、今はお前の心がよく視える。嫉妬と羨望が渦巻く美しい心だ』
獰猛な獣のように目を見開いた暴神が嗤う。悪神基準で美しいのだから、つまりそういうことだ。末の邪神も、楽しい玩具を見付けた顔で兄に続く。
『僕は悪神だから、火神様のような気遣いは皆無だ。君の心だろうが過去だろうがプライベートだろうが、片っ端から視てやろう。どれどれ……君はフレイムが精霊だった頃から、彼のことが好きだった。だが、素直になれず上から目線の傲慢な言動を繰り返すだけで、完全なる片想い。フレイムは君の好意に気付いてすらいなかったようだ』
『や、やめっ……』
こうなるともはや公開処刑だ。青ざめさせていた顔を一転して真っ赤に染めたマイカが制止しようとするが、ドス黒い神威の圧に声と動きをもろとも封じられる。
『フレイムが神になった後も密かに想い続け、妻を得たと聞いてアマーリエに嫉妬していた。そして大饗の宴で、フレイムと仲睦まじいアマーリエを見たことで恋慕の情が制御を外れ、暴走して今回の計画を企てたわけか』
集った全員の前で容赦なく恋心を暴かれ、少女の形をした精霊は羞恥と悲憤に震えている。その目がアマーリエを睨み、悔しげに細められた。
1
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる