神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

67.本音を読み切れ

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 神は人間から好かれたい、良く思われたい、敬われたいとは微塵も思っていない。嫌われようと否定されようと構わないと考えている。しかしだからと言って、礼を失した態度を取られても気にしないかと言えばそうではない。礼儀を欠く振る舞いをされた場合は不快に思う神もいる。むろん、意に介さず無視する神もいるが、そこは各々の心情次第だ。

「人間の危機を憂いた至高神の一柱が兄君と共に降臨され、皇国と帝国を創建して初代皇帝かつ最初の天威師となられたのですよね」

 当利がそっと言葉を挟む。皇祖緋日神ひにちしんと、帝祖翠月帝すいげつていの逸話だ。アマーリエも聖威師になった時に聞いた経緯である。ルルアージュも続いた。

「神を崇敬する国を作ることで、人が神に対する心持ちと態度を改めていけば、時間はかかれどもいつかは怒りが解けるだろうという意図がおありだったと伺っておりますわ。建国時より現在まで、天威師は神々が落とす神罰を受け止め、その御神慮を宥め続けておいでです」
『その通り。同時期、聖威師も日陰から表に現れ、天威師と共に人類を救わんと志して神官府の長となった』

 天威師ほどの耐久力は無いとはいえ、聖威師にも神鎮めは可能だ。神官という存在に向けられる尊崇の念を、神官たちの長として受けることで神を敬う国の体裁を保ちながら、怒れる神がいれば天威師と分担して鎮撫に駆け付ける。そのような役回りで表舞台に出て来た。

『神格を持つ存在が人の世に深く関与することになるため、その是非については天でも議論の的となった。結果的にどうにか許容されたものの、聖威師の滞留規定には大幅な修正が行われ、現在に近い形になった』

 狼神が語る内容の多くは既に聞いたことのある話だが、聖威師たちは真剣な顔で耳を傾けている。なお、初代の大神官と神官長となったのはイステンド、ノルギアス、宗基、唯全の者たちで、帝祖及び皇祖とは家族のごとく仲睦まじかったという。

『そう、そこなのだよ』

 小気味良い音を立て、サクサクのノンシュガークッキーを食べていたラミルファが、赤い舌でチロリと唇を舐めて言った。決して行儀が良いとは言えない仕草にも関わらず、言い様のない気品と美しさを感じさせる所作。

『天威師と聖威師が地上にいるから、怒れる神々は人間を滅せない。神格を抑えた無力な同胞を踏み潰せないからね。文字通り生きた盾なのだよ、君たちは』

 神威を操作すれば、神格を持つ者は傷付けないようにした上で人間だけを滅ぼすこともできる。だがそうすれば、天威師と聖威師の精神に甚大なショックを与えてしまうだろう。容易には立ち直れないほどに嘆き悲しむかもしれない。その可能性を踏まえると、迂闊には動けない。

『人間嫌いの神々にしてみれば、非常に面白くない。大好きな同胞が、大嫌いな人間の味方に付いて庇っているのだからね』
『それが悔しくて、お前らをどうにか地上から撤退させたいと思ってる強硬派もいるんだぜ。そうすれば心置きなく人間を滅ぼせるとか言ってるが、それは建前だ。本音はただ、お前らに自分たちの所へ還って来て欲しいんだよ。要するにヤキモチだな』

 フレイムが呆れ顔で補足する。アマーリエの脳裏に、マイカが処断された時の光景が浮かんだ。私たちは家族だとフレイムに呼びかけるマイカを、凍える目をしたラミルファが斬って捨てていた。フレイムの家族は自分たちだと言って。

『さて、整理も済んだことだから話を戻そう。つまりだ、人間嫌いの神々に怒りを消してもらえば良い。そうすれば、天威師と聖威師が地上にいる動機付けの最たるものが無くなるのだよ。神鎮めを行ったり、神官府の長になったりしているのは、神怒を解くための工程の一環だからね』
「しかし、神のお怒りを解くことは人間が自身の力を用いて自ずとやり遂げなければならないという定めだったはず。私たちには手も口も出せませんわ」

 祐奈が困惑気味に返した。天の規定は全て努力義務だというので、彼女が今言った定めも強制ではないのだろう。だが、だからといって実際に違反できるはずがない。一柱が、特に有色の高位神が決まりを破れば、それを前例に掲げて他の神々も後に続く。そうなれば世界は無法地帯になってしまう。

『解くとは言っていない。君が言った通り、それは実質的に難しい。ならば、別の方法で怒りを消させれば良い。そのために必要なものが何か分かるかい? ――愛だよ』
「「…………」」

 藪から棒に何を言いだすんだこの邪神は。そんな空気が、目を点にした聖威師たちの間を漂った。だが、フレイムも狼神もフルードも真剣だ。

『これからの流れを説明する。まず、僕とフレイムが帰還派を中心とした神々全体に話をする。天威師と聖威師が還りたがらない大きな要因の一つは神側にある、神が怒っていて人間が存亡の危機だから、必死で踏ん張っているのだとね。そうすれば、同胞に還って来て欲しいから、怒るのをやめる』
「や、やめるでしょうか!?」

 あまりに楽観的と思える予想に、アマーリエはツッコミ混じりに反発した。

「私たちが地上に留まり人を守ろうとするのは、神々の怒りが一因。その大前提は帰還派も最初からお分りではないでしょうか? その上で、三千年以上怒り続けて来たのですよね。しかもきっかけとなったのは、当時の聖威師が虐げられたという出来事だったはずです。同胞への想いが発火点ですから、簡単に軟化するとは思えないのですけれど」
『いいや、やめる』
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