494 / 602
第7章
5.マーカスはビックリ
しおりを挟む
『何か知りませんか?』
『え、ええと、実はですね……』
フルードに重ねて聞かれ、ギクッと肩を跳ねさせたアマーリエは、主任から上げられた内容を説明した。
『では、本当に神官が天に侵入した可能性があるのですか。だとすれば、一体どのような方法で門を突破したのでしょう』
当のマーカスは大変に穏やかな気性であるため、呆気に取られるだけで怒る方向に行かなかったことが幸いだった。機嫌を損ねていれば終わりだった。
『先生も驚かれています。昇天しておらず神から招かれてもいない生者は、霊威師であろうと天界には入れないはずですから』
現在は臨時ゲートが用意されているとはいえ、神官が進めるのは天界の門の手前まで。そこで聖威師を呼べば、声が届くようになっている。門自体にも結界が張ってあり、神格を持つ者か許可を得た使役以外はくぐれないはずだ。なのに、神官たちはどうやってか門を通過し、中をうろついているという。
『神官たちは神器を持っている可能性があります。先生が神官たちを捕縛するために力を放とうとしたところ、先んじて姿が消えてしまい、気配が掴めなくなったと聞きました。神の手を逃れ目をごまかせるとなると、同じ神の力――つまり神器の神威を用いているのではないかと。門もその神威を纏って通過したのでしょうか』
マーカスの神格は下から数えた方が早い。高位神の力を多量に込めた上級神器であれば、目を眩ませることもできる。――ただし、マーカスもまた、『世界に合わせて己の力の大半を抑えている状態』だ。真価を解放すれば結果は変わるのだろうが。
(分府の神器を持ち出したのかしら? まさか、本府の保管庫から盗んだなどということはないでしょうけれど……)
『フェルたち現役の大神官と神官長にも、今話したことと同じ内容を念話しています』
フルードが発した直後、アシュトンと当波が口を開いた。
『私の方にも、イステンドやノルギアスを始めとする大公家に連なる祖神から念話がありました。セイン様が述べた件と関連していると思いますが、共有領域でいきなり男女の神官が話しかけて来て、自分を愛し子にするよう迫り、こちらが唖然としているとフッと姿を消したそうです』
『こちらも唯全と宗基など一位貴族関係の祖神から連絡があったよ。アシュトンと同じ内容だった。……他の神々からそのような報せは来ておりますか?』
当波の問いに、フレイムたちはそろって首を横に振った。
『今のところ、俺のトコに火神一族からそういう念話は来てねえな。人間の神官に声をかけられたとしたら、現役の大神官を愛し子に持つ俺に報告して来てると思うんだがな』
『私も焔神様と同じだよ。水神系統の神から連絡はない。風神一族と悪神は?』
『私も同様だ。現時点で報せは来ていない』
『悪神からも何もないよ。部外者を見かければ神使や下働きも騒ぐはずだが、ざっと天界の様子を探った限りそんな気配も感じない』
四神の応えを聞き、フルードが考えるように唇を動かした。
『忍び込んだらしき神官たちは、元聖威師を狙って声をかけているのかもしれませんね。ですが、どのようにして見分けているのでしょうか。外見が違うと言えば違いますが……』
元聖威師たちはほぼ全員が人間の姿を取っている。容姿は金髪に碧眼あるいは緑眼、もしくは黒髪と黒目又は焦げ茶の目だ。天界の神の中で、髪目の色がこの組み合わせである者は、元人間を除けばほとんどいない。数少ない例外の一部である葬邪神と疫神は黒髪黒目だが、彼らは耳が尖り、瞳孔が縦に裂け、牙が生えている。ついでに言えば纏う気迫も隔絶している。人に近い様相を取っていても、どこかが違うのだ。しかし、それは近くから見た場合の話である。
『どうだろうね。確かに差異はあるが、遠距離からパッと見て判別できるものだろうか。例えば、黒髪や金髪の神が後ろを向いた状態で立っているのを遠目に見れば、元人間の神かそうでないかは見分け難いと思うよ』
疑問を差し挟んだのはラミルファだ。フレイムたちも頷いている。
『断片的な情報からの推測になるが、その神官共は何らかの方法で門を抜け、元聖威師にピンポイントで接触しているようだ。他の誰にも気取られずに。彼らだけの力では不可能だろう。やはり神器を使用しているのだろうか』
勝手の分からない天界で、神々や神使、精霊に見付からないよう行動し、元人間の神だけを狙って正確に声かけするなど至難の業だ。にも関わらずそれを実行しているとなると――
『セイン様……フェルとアリア、当利と祐奈が相当怒っております』
『ええ、怒り心頭とはこのことですね。全員仲良く笑顔でキレるって怖いですねー』
虚空へ投げた視線を揺らしながら話すアシュトンとフルード。どうやら遠視を併用し、念話中の息子たちの姿を視ているようだ。
『あの子たちの気持ちも分かるよ。祖神への挨拶回りが終盤になったのに、この一件のせいで今度はお詫び行脚をしなくてはならなくなったのだから』
儚げな美貌を曇らせた当波が、ランドルフたちを思いやった。視線を巡らせ、穏和な黒瞳を当代の大神官と神官長に向ける。
『人間の神官の行動は主任及び副主任の管轄だ。本件の全容が分かり次第、それなりの始末を付けさせるようにね』
『え、ええと、実はですね……』
フルードに重ねて聞かれ、ギクッと肩を跳ねさせたアマーリエは、主任から上げられた内容を説明した。
『では、本当に神官が天に侵入した可能性があるのですか。だとすれば、一体どのような方法で門を突破したのでしょう』
当のマーカスは大変に穏やかな気性であるため、呆気に取られるだけで怒る方向に行かなかったことが幸いだった。機嫌を損ねていれば終わりだった。
『先生も驚かれています。昇天しておらず神から招かれてもいない生者は、霊威師であろうと天界には入れないはずですから』
現在は臨時ゲートが用意されているとはいえ、神官が進めるのは天界の門の手前まで。そこで聖威師を呼べば、声が届くようになっている。門自体にも結界が張ってあり、神格を持つ者か許可を得た使役以外はくぐれないはずだ。なのに、神官たちはどうやってか門を通過し、中をうろついているという。
『神官たちは神器を持っている可能性があります。先生が神官たちを捕縛するために力を放とうとしたところ、先んじて姿が消えてしまい、気配が掴めなくなったと聞きました。神の手を逃れ目をごまかせるとなると、同じ神の力――つまり神器の神威を用いているのではないかと。門もその神威を纏って通過したのでしょうか』
マーカスの神格は下から数えた方が早い。高位神の力を多量に込めた上級神器であれば、目を眩ませることもできる。――ただし、マーカスもまた、『世界に合わせて己の力の大半を抑えている状態』だ。真価を解放すれば結果は変わるのだろうが。
(分府の神器を持ち出したのかしら? まさか、本府の保管庫から盗んだなどということはないでしょうけれど……)
『フェルたち現役の大神官と神官長にも、今話したことと同じ内容を念話しています』
フルードが発した直後、アシュトンと当波が口を開いた。
『私の方にも、イステンドやノルギアスを始めとする大公家に連なる祖神から念話がありました。セイン様が述べた件と関連していると思いますが、共有領域でいきなり男女の神官が話しかけて来て、自分を愛し子にするよう迫り、こちらが唖然としているとフッと姿を消したそうです』
『こちらも唯全と宗基など一位貴族関係の祖神から連絡があったよ。アシュトンと同じ内容だった。……他の神々からそのような報せは来ておりますか?』
当波の問いに、フレイムたちはそろって首を横に振った。
『今のところ、俺のトコに火神一族からそういう念話は来てねえな。人間の神官に声をかけられたとしたら、現役の大神官を愛し子に持つ俺に報告して来てると思うんだがな』
『私も焔神様と同じだよ。水神系統の神から連絡はない。風神一族と悪神は?』
『私も同様だ。現時点で報せは来ていない』
『悪神からも何もないよ。部外者を見かければ神使や下働きも騒ぐはずだが、ざっと天界の様子を探った限りそんな気配も感じない』
四神の応えを聞き、フルードが考えるように唇を動かした。
『忍び込んだらしき神官たちは、元聖威師を狙って声をかけているのかもしれませんね。ですが、どのようにして見分けているのでしょうか。外見が違うと言えば違いますが……』
元聖威師たちはほぼ全員が人間の姿を取っている。容姿は金髪に碧眼あるいは緑眼、もしくは黒髪と黒目又は焦げ茶の目だ。天界の神の中で、髪目の色がこの組み合わせである者は、元人間を除けばほとんどいない。数少ない例外の一部である葬邪神と疫神は黒髪黒目だが、彼らは耳が尖り、瞳孔が縦に裂け、牙が生えている。ついでに言えば纏う気迫も隔絶している。人に近い様相を取っていても、どこかが違うのだ。しかし、それは近くから見た場合の話である。
『どうだろうね。確かに差異はあるが、遠距離からパッと見て判別できるものだろうか。例えば、黒髪や金髪の神が後ろを向いた状態で立っているのを遠目に見れば、元人間の神かそうでないかは見分け難いと思うよ』
疑問を差し挟んだのはラミルファだ。フレイムたちも頷いている。
『断片的な情報からの推測になるが、その神官共は何らかの方法で門を抜け、元聖威師にピンポイントで接触しているようだ。他の誰にも気取られずに。彼らだけの力では不可能だろう。やはり神器を使用しているのだろうか』
勝手の分からない天界で、神々や神使、精霊に見付からないよう行動し、元人間の神だけを狙って正確に声かけするなど至難の業だ。にも関わらずそれを実行しているとなると――
『セイン様……フェルとアリア、当利と祐奈が相当怒っております』
『ええ、怒り心頭とはこのことですね。全員仲良く笑顔でキレるって怖いですねー』
虚空へ投げた視線を揺らしながら話すアシュトンとフルード。どうやら遠視を併用し、念話中の息子たちの姿を視ているようだ。
『あの子たちの気持ちも分かるよ。祖神への挨拶回りが終盤になったのに、この一件のせいで今度はお詫び行脚をしなくてはならなくなったのだから』
儚げな美貌を曇らせた当波が、ランドルフたちを思いやった。視線を巡らせ、穏和な黒瞳を当代の大神官と神官長に向ける。
『人間の神官の行動は主任及び副主任の管轄だ。本件の全容が分かり次第、それなりの始末を付けさせるようにね』
0
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる