神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

5.マーカスはビックリ

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『何か知りませんか?』
『え、ええと、実はですね……』

 フルードに重ねて聞かれ、ギクッと肩を跳ねさせたアマーリエは、主任から上げられた内容を説明した。

『では、本当に神官が天に侵入した可能性があるのですか。だとすれば、一体どのような方法で門を突破したのでしょう』

 当のマーカスは大変に穏やかな気性であるため、呆気に取られるだけで怒る方向に行かなかったことが幸いだった。機嫌を損ねていれば終わりだった。

『先生も驚かれています。昇天しておらず神から招かれてもいない生者は、霊威師であろうと天界には入れないはずですから』

 現在は臨時ゲートが用意されているとはいえ、神官が進めるのは天界の門の手前まで。そこで聖威師を呼べば、声が届くようになっている。門自体にも結界が張ってあり、神格を持つ者か許可を得た使役以外はくぐれないはずだ。なのに、神官たちはどうやってか門を通過し、中をうろついているという。

『神官たちは神器を持っている可能性があります。先生が神官たちを捕縛するために力を放とうとしたところ、先んじて姿が消えてしまい、気配が掴めなくなったと聞きました。神の手を逃れ目をごまかせるとなると、同じ神の力――つまり神器の神威を用いているのではないかと。門もその神威を纏って通過したのでしょうか』

 マーカスの神格は下から数えた方が早い。高位神の力を多量に込めた上級神器であれば、目を眩ませることもできる。――ただし、マーカスもまた、『世界に合わせて己の力の大半を抑えている状態』だ。真価を解放すれば結果は変わるのだろうが。

(分府の神器を持ち出したのかしら? まさか、本府の保管庫から盗んだなどということはないでしょうけれど……)
『フェルたち現役の大神官と神官長にも、今話したことと同じ内容を念話しています』

 フルードが発した直後、アシュトンと当波が口を開いた。

『私の方にも、イステンドやノルギアスを始めとする大公家に連なる祖神から念話がありました。セイン様が述べた件と関連していると思いますが、共有領域でいきなり男女の神官が話しかけて来て、自分を愛し子にするよう迫り、こちらが唖然としているとフッと姿を消したそうです』
『こちらも唯全と宗基など一位貴族関係の祖神から連絡があったよ。アシュトンと同じ内容だった。……他の神々からそのような報せは来ておりますか?』

 当波の問いに、フレイムたちはそろって首を横に振った。

『今のところ、俺のトコに火神一族からそういう念話は来てねえな。人間の神官に声をかけられたとしたら、現役の大神官を愛し子に持つ俺に報告して来てると思うんだがな』
『私も焔神様と同じだよ。水神系統の神から連絡はない。風神一族と悪神は?』
『私も同様だ。現時点で報せは来ていない』
『悪神からも何もないよ。部外者を見かければ神使や下働きも騒ぐはずだが、ざっと天界の様子を探った限りそんな気配も感じない』

 四神の応えを聞き、フルードが考えるように唇を動かした。

『忍び込んだらしき神官たちは、元聖威師を狙って声をかけているのかもしれませんね。ですが、どのようにして見分けているのでしょうか。外見が違うと言えば違いますが……』

 元聖威師たちはほぼ全員が人間の姿を取っている。容姿は金髪に碧眼あるいは緑眼、もしくは黒髪と黒目又は焦げ茶の目だ。天界の神の中で、髪目の色がこの組み合わせである者は、元人間を除けばほとんどいない。数少ない例外の一部である葬邪神と疫神は黒髪黒目だが、彼らは耳が尖り、瞳孔が縦に裂け、牙が生えている。ついでに言えば纏う気迫も隔絶している。人に近い様相を取っていても、どこかが違うのだ。しかし、それは近くから見た場合の話である。

『どうだろうね。確かに差異はあるが、遠距離からパッと見て判別できるものだろうか。例えば、黒髪や金髪の神が後ろを向いた状態で立っているのを遠目に見れば、元人間の神かそうでないかは見分け難いと思うよ』

 疑問を差し挟んだのはラミルファだ。フレイムたちも頷いている。

『断片的な情報からの推測になるが、その神官共は何らかの方法で門を抜け、元聖威師にピンポイントで接触しているようだ。他の誰にも気取られずに。彼らだけの力では不可能だろう。やはり神器を使用しているのだろうか』

 勝手の分からない天界で、神々や神使、精霊に見付からないよう行動し、元人間の神だけを狙って正確に声かけするなど至難の業だ。にも関わらずそれを実行しているとなると――

『セイン様……フェルとアリア、当利と祐奈が相当怒っております』
『ええ、怒り心頭とはこのことですね。全員仲良く笑顔でキレるって怖いですねー』

 虚空へ投げた視線を揺らしながら話すアシュトンとフルード。どうやら遠視を併用し、念話中の息子たちの姿を視ているようだ。

『あの子たちの気持ちも分かるよ。祖神への挨拶回りが終盤になったのに、この一件のせいで今度はお詫び行脚あんぎゃをしなくてはならなくなったのだから』

 儚げな美貌を曇らせた当波が、ランドルフたちを思いやった。視線を巡らせ、穏和な黒瞳を当代の大神官と神官長に向ける。

『人間の神官の行動は主任及び副主任の管轄だ。本件の全容が分かり次第、それなりの始末を付けさせるようにね』
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