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第7章
22.祖神たちは協力する
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◆◆◆
『心配をかけて申し訳ありません』
少女にも少年にも青年にも見える優美な容貌を曇らせ、モコモコの寝台にいるフルードが小さく頭を下げる。その様はまさにアリステルと瓜二つ。この二神は紛うことなき兄弟なのだと思い知りつつ、アマーリエは両手を振った。
「いいえ、お気になさらず」
『そうだぜ、お前が気に病むことなんかねえさ』
フレイムが優しく微笑む側では、ラミルファがしっかり宝玉の手を握っている。
『で、どうしてこうなったんですか、狼神様?』
ここは狼神の領域だ。主は巨大な体を横たわらせ、愛し子の寝床にしている。まさに狼神ベッドである。フルードの手がこっそり毛をモフッているのだが、それに気付いているのかいないのか。灰銀の双眸が細まり、場にいる皆を見回した。
『この子は己の祖と神官たちの情報を得ようと、天界の共有領域にいました』
アリステルと手分けして情報収集を行うことにしていため、実兄とは別の場所にいたという。
『私も傍におりました。お前はもはや昇天した身、聖威師のことであればともかく、人間など捨て置けと言い聞かせておりましたぞ。この子はこう見えて強情なので、中々言うことを聞いてくれんのですがなぁ』
困ったものだと嘯く灰銀の神は、ピクピクと耳をそよがせている。
『そうしましたら、突然この子の真上から霧が噴き付けまして、それが神威を込められたものでした。私が共におりましたので、すぐに結界を張って対処いたしましたが』
そのまま狼神の領域に避難させ、この状態になったそうだ。主神が事態に即応したため、もう一柱のフレイムは大人しくしていてくれたという。
『噴射された神威は出力を加減されていましたので、短時間休めば回復するでしょう。本気の害意は感じられぬとはいえ、先方は一体どういうおつもりなのか。私はセインに付いておりますから、骸邪神様から抗議していただこうと思い、念話したのですよ』
フレイムもフルードの兄神だが、現在は愛し子のアマーリエがいるので遠慮したらしい。本件に一通り片が付いてから報告するつもりだったという。
『アリステルと同じだな』
「そうね。けれどどうして……」
フレイムと小声を交わしていると、聞き咎めたフルードが頭をもたげた。
『アリステルがどうかしたのですか?』
『ヴェーゼも襲われたのだよ、セイン。君と同じで大事はない。今は一の兄上の領域で休んでいる』
ラミルファの説明に、透き通った青が見開かれた。狼神もほぅ、と相槌混じりの声を転がす。
『セインとヴェーゼが同時に……偶然ではないだろうね』
『彼の神に意図を確認してみませんとなぁ』
『あのー狼神様、葬邪神様のトコで聞きそびれちまったんですけど、相手の神ってのはどなたさんで――』
だがフレイムの言の途中で、フルードがハッと視線を宙に向けた。
『すみません、フェルとアリアから念話が入りました。私の身に起こったことを知り、案じているようです』
言いながら、念話網にアマーリエたちも追加してくれる。途端に瑞々しい声が脳裏に弾けた。
《父上、ご無事ですかー!?》
《神威に攻撃されたというのは本当ですの?》
《大丈夫です、二人ともありがとう。怪我はしていませんので、心配しないで下さい》
フルードが静かに告げる。だが、子どもたちも負けてはいない。矢継ぎ早に返事が飛んで来た。
《いえ、普通に心配なんでお見舞い行きたいですけどー。あ、祖神様の挨拶回りはいったん中断です》
《お母様とお祖父様が、祖神様方の元へ説明に赴いて下さっていますのよ。私たちが気兼ねなくお父様の所へ行けるように》
アシュトンとライナスが動いてくれているようだ。さらにランドルフがたたみかける。
《当利大神官と祐奈神官長も、当真様と恵奈様も、当波様だってそうですよー。父上の所に行け行けって、皆協力して下さってます》
大公家と一位貴族は太古より通婚を重ねて来たため、唯全家と宗基家の先祖もまた、ランドルフたちの祖神に当たる。その逆も然りだ。皆、念のために自身の主神に護衛してもらいながら行動しているという。
《それは……》
フルードが困ったように言い淀んだ。自分が理由で子どもたちの手を取らせたくないのだろう。アマーリエからすれば、いきなり攻撃を喰らった家族を見舞うのは普通のことだと思うが。
《良いじゃねえか、来てもらえよ。つか、下手に天界ウロウロするより狼神様の領域にいた方が安全だぜ。標的になったのがセインとアリステルで、イデナウアーが目覚めたタイミングだ。仮定の話、レシスの関係云々が理由だったら、子どもたちだって狙われるかもしれねえ》
フレイムが別の角度から意見を述べた。ランドルフとルルアージュは神罰から解放されており、イステンドないしノルギアスの籍に入っている。だが、系図上で考えれば、間違いなく父方からレシス家と繋がっている。
《波神様と砂神様も選ばれし神だから愛し子を守り切れるだろうが、荒神である狼神様の近くの方がよりベターだろ。おまけで俺とラミルファまでくっ付いてるんだし。主神も祖神も、ランドルフとルルアージュにはより安全な場所にいて欲しいんじゃねえかなぁ》
《――お兄様の仰る通りですね》
一理ある説得に、フルードが素直に折れた。さらに聞けば、ランドルフとルルアージュは自身の主神と共にいるが、ウェイブと砂神は狼神の神域へは同行しない意向を示しているという。あまり大勢で押しかけても迷惑だからと。
《遠慮せずとも、同胞なら何柱でも大歓迎なのですがなぁ》
黙って聞いていた狼神が苦笑する。
《リーリア様とも少しお話ししましたところ、もう謁見が終わるそうです。ですので、合流してから皆でお伺いしようかと思っておりますの》
《そうか。では準備が出来次第、私の領域に転移をしておいで……》
その言葉が途切れる。光る眼が中空を見上げた。同時にアマーリエの全身を寒気が駆け抜ける。空間がたわみ、大きく揺らいで幕のように開けた。
『心配をかけて申し訳ありません』
少女にも少年にも青年にも見える優美な容貌を曇らせ、モコモコの寝台にいるフルードが小さく頭を下げる。その様はまさにアリステルと瓜二つ。この二神は紛うことなき兄弟なのだと思い知りつつ、アマーリエは両手を振った。
「いいえ、お気になさらず」
『そうだぜ、お前が気に病むことなんかねえさ』
フレイムが優しく微笑む側では、ラミルファがしっかり宝玉の手を握っている。
『で、どうしてこうなったんですか、狼神様?』
ここは狼神の領域だ。主は巨大な体を横たわらせ、愛し子の寝床にしている。まさに狼神ベッドである。フルードの手がこっそり毛をモフッているのだが、それに気付いているのかいないのか。灰銀の双眸が細まり、場にいる皆を見回した。
『この子は己の祖と神官たちの情報を得ようと、天界の共有領域にいました』
アリステルと手分けして情報収集を行うことにしていため、実兄とは別の場所にいたという。
『私も傍におりました。お前はもはや昇天した身、聖威師のことであればともかく、人間など捨て置けと言い聞かせておりましたぞ。この子はこう見えて強情なので、中々言うことを聞いてくれんのですがなぁ』
困ったものだと嘯く灰銀の神は、ピクピクと耳をそよがせている。
『そうしましたら、突然この子の真上から霧が噴き付けまして、それが神威を込められたものでした。私が共におりましたので、すぐに結界を張って対処いたしましたが』
そのまま狼神の領域に避難させ、この状態になったそうだ。主神が事態に即応したため、もう一柱のフレイムは大人しくしていてくれたという。
『噴射された神威は出力を加減されていましたので、短時間休めば回復するでしょう。本気の害意は感じられぬとはいえ、先方は一体どういうおつもりなのか。私はセインに付いておりますから、骸邪神様から抗議していただこうと思い、念話したのですよ』
フレイムもフルードの兄神だが、現在は愛し子のアマーリエがいるので遠慮したらしい。本件に一通り片が付いてから報告するつもりだったという。
『アリステルと同じだな』
「そうね。けれどどうして……」
フレイムと小声を交わしていると、聞き咎めたフルードが頭をもたげた。
『アリステルがどうかしたのですか?』
『ヴェーゼも襲われたのだよ、セイン。君と同じで大事はない。今は一の兄上の領域で休んでいる』
ラミルファの説明に、透き通った青が見開かれた。狼神もほぅ、と相槌混じりの声を転がす。
『セインとヴェーゼが同時に……偶然ではないだろうね』
『彼の神に意図を確認してみませんとなぁ』
『あのー狼神様、葬邪神様のトコで聞きそびれちまったんですけど、相手の神ってのはどなたさんで――』
だがフレイムの言の途中で、フルードがハッと視線を宙に向けた。
『すみません、フェルとアリアから念話が入りました。私の身に起こったことを知り、案じているようです』
言いながら、念話網にアマーリエたちも追加してくれる。途端に瑞々しい声が脳裏に弾けた。
《父上、ご無事ですかー!?》
《神威に攻撃されたというのは本当ですの?》
《大丈夫です、二人ともありがとう。怪我はしていませんので、心配しないで下さい》
フルードが静かに告げる。だが、子どもたちも負けてはいない。矢継ぎ早に返事が飛んで来た。
《いえ、普通に心配なんでお見舞い行きたいですけどー。あ、祖神様の挨拶回りはいったん中断です》
《お母様とお祖父様が、祖神様方の元へ説明に赴いて下さっていますのよ。私たちが気兼ねなくお父様の所へ行けるように》
アシュトンとライナスが動いてくれているようだ。さらにランドルフがたたみかける。
《当利大神官と祐奈神官長も、当真様と恵奈様も、当波様だってそうですよー。父上の所に行け行けって、皆協力して下さってます》
大公家と一位貴族は太古より通婚を重ねて来たため、唯全家と宗基家の先祖もまた、ランドルフたちの祖神に当たる。その逆も然りだ。皆、念のために自身の主神に護衛してもらいながら行動しているという。
《それは……》
フルードが困ったように言い淀んだ。自分が理由で子どもたちの手を取らせたくないのだろう。アマーリエからすれば、いきなり攻撃を喰らった家族を見舞うのは普通のことだと思うが。
《良いじゃねえか、来てもらえよ。つか、下手に天界ウロウロするより狼神様の領域にいた方が安全だぜ。標的になったのがセインとアリステルで、イデナウアーが目覚めたタイミングだ。仮定の話、レシスの関係云々が理由だったら、子どもたちだって狙われるかもしれねえ》
フレイムが別の角度から意見を述べた。ランドルフとルルアージュは神罰から解放されており、イステンドないしノルギアスの籍に入っている。だが、系図上で考えれば、間違いなく父方からレシス家と繋がっている。
《波神様と砂神様も選ばれし神だから愛し子を守り切れるだろうが、荒神である狼神様の近くの方がよりベターだろ。おまけで俺とラミルファまでくっ付いてるんだし。主神も祖神も、ランドルフとルルアージュにはより安全な場所にいて欲しいんじゃねえかなぁ》
《――お兄様の仰る通りですね》
一理ある説得に、フルードが素直に折れた。さらに聞けば、ランドルフとルルアージュは自身の主神と共にいるが、ウェイブと砂神は狼神の神域へは同行しない意向を示しているという。あまり大勢で押しかけても迷惑だからと。
《遠慮せずとも、同胞なら何柱でも大歓迎なのですがなぁ》
黙って聞いていた狼神が苦笑する。
《リーリア様とも少しお話ししましたところ、もう謁見が終わるそうです。ですので、合流してから皆でお伺いしようかと思っておりますの》
《そうか。では準備が出来次第、私の領域に転移をしておいで……》
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