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第7章
29.当代はあなたです
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『そうですね……まだイデナウアー様や神官たちから話を聞けておらず、事の全容が分かっていません。ですので、現時点で断定はできないのですが』
そう前置きしてから続ける。
『現在までに分かっている状況だけで判断するならば、神官位の剥奪と重労働でしょうか』
「降格ではなく剥奪ですか?」
それすなわち、神官ではなくなるということだ。ただし霊威を喪失するわけではなく、昇天資格を失うわけでもない。つまり、死後に昇天する運命自体は変わらないため、ただの人として市井に戻ることは出来ない。神官府に管理され、昇天の時まで自由もなく入牢や強制労働に服することになる。
『ええ。先ほどの愚行については、当の狼神様がお慈悲を示して下さっておりますので、千歩譲って目を瞑るとしてもです。神官に暴行を加えた上での天界への無断侵入、複数の神への無粋な要求だけで十分に天への不敬行為です。神に仕える神官としては許されぬこと』
何故だろう。フルードは見慣れた温和な表情を纏っているのに、悪寒が止まらない。室内の温度が急激に下がった気がする。
『神官の立場を追われた者の場合、生を終えて天に昇った後の処遇は神々が決めます。しかし、良い待遇をしてもらえることは滅多にありません。神官の地位から降ろされたということは、天や神に対して相当な不敬を犯した証であるからです』
サード家の面々も同じ処分を受けているが、彼らの行く末も同じだ。心を入れ替えれば真っ当な神の使役に付かせてもらえる可能性は残っているが、それでも優しい神に割り当ててもらえる望みは薄い。アマーリエを虐げた彼らは、フレイムを筆頭とする火神一族の不興をもろに買っている。
「つまり、待ち受けるのは永劫の冷遇。だからこそ、神官位の剥奪は相当の重罰であり、軽々しく使ってはならない。私はそう教わりました」
他ならぬあなたに。声なき声でそう告げながらフルードを見ると、優しい青が微笑んでいた。日差しを受けて煌めく水面のような輝き、その奥に閃くのは全てを飲み込む荒れ海の苛烈さ。フルードは優しいが甘くはないというフレイムの評が脳裏を去来した。
『天の園に土足で踏み入り、神に話しかけ、我を通そうとする。事前の許可も申請も得ずに。永遠の贖いに相応しき行いです』
非情な宣告が場に落ちる。微笑みながらバッサリと神官を切り捨てる彼は、もう神の精神に還ってしまったのかもしれない。昇天した聖威師は、擬人の皮を脱ぎ捨てることで人間らしい情を急激に薄れさせると聞く。
『とはいえ、今言ったようにまだ全容が分かってはいません。私が大神官であれば、最終的にどのような処分を行うかは保留にするでしょう』
そこまで言い、先代は奥深い眼差しで当代を――アマーリエを見る。
『ですが、アマーリエ。現在の大神官は、もう私ではありません。今その立場にいるのはあなたです。あなたの思うままに考え、行動し、判断するのが良いでしょう。……高位神器の暴走が落ち着き、難度の高い仕事が減ったと聞いて安心していましたが、平和な時代でも大変なことは起こるものですね』
あちらが立ってもこちらが立たない、と嘆息し、さらに続ける。
『先ほど、念話でフェルとアリアが言っていました。イデナウアー様の神域に赴き、神官たちの件も含めて話をしてみたいと』
ランドルフとルルアージュもまた、イデナウアーの子孫に当たる。祖の覚醒と此度の事態を受けて、何か思うことがあるのかもしれなかった。
『アマーリエを含めた他の聖威師とも相談の上で決定するので、今すぐに動くわけではないようですが』
「では、私の方に念話があるかもしれませんね。私もイデナウアー様には一度お会いしたいと思っていたので、ちょうど良いかと――」
賛同しようとするアマーリエの声が、脳裏に響いた声に断ち切られた。
《アマーリエ様、緊急連絡ですわ》
そう前置きしてから続ける。
『現在までに分かっている状況だけで判断するならば、神官位の剥奪と重労働でしょうか』
「降格ではなく剥奪ですか?」
それすなわち、神官ではなくなるということだ。ただし霊威を喪失するわけではなく、昇天資格を失うわけでもない。つまり、死後に昇天する運命自体は変わらないため、ただの人として市井に戻ることは出来ない。神官府に管理され、昇天の時まで自由もなく入牢や強制労働に服することになる。
『ええ。先ほどの愚行については、当の狼神様がお慈悲を示して下さっておりますので、千歩譲って目を瞑るとしてもです。神官に暴行を加えた上での天界への無断侵入、複数の神への無粋な要求だけで十分に天への不敬行為です。神に仕える神官としては許されぬこと』
何故だろう。フルードは見慣れた温和な表情を纏っているのに、悪寒が止まらない。室内の温度が急激に下がった気がする。
『神官の立場を追われた者の場合、生を終えて天に昇った後の処遇は神々が決めます。しかし、良い待遇をしてもらえることは滅多にありません。神官の地位から降ろされたということは、天や神に対して相当な不敬を犯した証であるからです』
サード家の面々も同じ処分を受けているが、彼らの行く末も同じだ。心を入れ替えれば真っ当な神の使役に付かせてもらえる可能性は残っているが、それでも優しい神に割り当ててもらえる望みは薄い。アマーリエを虐げた彼らは、フレイムを筆頭とする火神一族の不興をもろに買っている。
「つまり、待ち受けるのは永劫の冷遇。だからこそ、神官位の剥奪は相当の重罰であり、軽々しく使ってはならない。私はそう教わりました」
他ならぬあなたに。声なき声でそう告げながらフルードを見ると、優しい青が微笑んでいた。日差しを受けて煌めく水面のような輝き、その奥に閃くのは全てを飲み込む荒れ海の苛烈さ。フルードは優しいが甘くはないというフレイムの評が脳裏を去来した。
『天の園に土足で踏み入り、神に話しかけ、我を通そうとする。事前の許可も申請も得ずに。永遠の贖いに相応しき行いです』
非情な宣告が場に落ちる。微笑みながらバッサリと神官を切り捨てる彼は、もう神の精神に還ってしまったのかもしれない。昇天した聖威師は、擬人の皮を脱ぎ捨てることで人間らしい情を急激に薄れさせると聞く。
『とはいえ、今言ったようにまだ全容が分かってはいません。私が大神官であれば、最終的にどのような処分を行うかは保留にするでしょう』
そこまで言い、先代は奥深い眼差しで当代を――アマーリエを見る。
『ですが、アマーリエ。現在の大神官は、もう私ではありません。今その立場にいるのはあなたです。あなたの思うままに考え、行動し、判断するのが良いでしょう。……高位神器の暴走が落ち着き、難度の高い仕事が減ったと聞いて安心していましたが、平和な時代でも大変なことは起こるものですね』
あちらが立ってもこちらが立たない、と嘆息し、さらに続ける。
『先ほど、念話でフェルとアリアが言っていました。イデナウアー様の神域に赴き、神官たちの件も含めて話をしてみたいと』
ランドルフとルルアージュもまた、イデナウアーの子孫に当たる。祖の覚醒と此度の事態を受けて、何か思うことがあるのかもしれなかった。
『アマーリエを含めた他の聖威師とも相談の上で決定するので、今すぐに動くわけではないようですが』
「では、私の方に念話があるかもしれませんね。私もイデナウアー様には一度お会いしたいと思っていたので、ちょうど良いかと――」
賛同しようとするアマーリエの声が、脳裏に響いた声に断ち切られた。
《アマーリエ様、緊急連絡ですわ》
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