527 / 601
第7章
38.祖の領域へ
しおりを挟む
《すまん、待たせた》
ピィピィと囀る神官たちを両断し、フレイムが思念を発した。念話がにわかに活気付く。
《焔神様、アマーリエ、お帰り。待ってたんだよ。何だかもう聞いているのも嫌になって来て、さっさと終わらせたいと考えていた。レアナが必死に止めるから我慢していたけど》
《私もフェルがずっと袖を掴んでいるゆえ、耐えていた。だが、あと少し遅ければ、この姦しい神官たちを海の藻屑にしようと思っていた》
フロースとウェイブが歓迎の声を送って来る。他の神々も、喧しい2人にいい加減にうんざりしていたはずだ。
《中座してしまい、申し訳ございません》
《客ってのは花神様だ。セインとアシュトンが呼んでくれたんだ。今からイデナウアーの領域に連れて行く。本物を見りゃバカ共も現実を思い知るだろ》
タイミングをピタリと合わせ、ラミルファが唇を動かした。
『イデナウアーからどうぞお越し下さいと返事をもらったよ。花神様を含め、聖威師と主神様と関係神、大勢で行くかもしれないと言っておいたから、セインやランドルフ、リーリアたちも行ける』
世話焼きな邪神はオプションも充実していた。
《よっしゃ、ラミルファがイデナウアーに訪問許可を取ってくれた。俺たち全員で行けるようにしてくれたってよ。行こうぜ、んでこのアホ騒ぎにカタを付けるんだ》
《ちょっと、さっきから何を言って》
エアニーヌの困惑した声を無視し、神々や聖威師が一斉に応の声を返す。
『行こうぜユフィー』
『お気を付けて。骸邪神様、セインを頼みましたぞ』
フレイムと花神、そしてラミルファを順に見ながら、狼神が言う。彼はここから動くつもりがないようだ。アマーリエはモフモフの巨躯に一礼して辞去の挨拶を述べ、差し出されたフレイムの手を取った。
(やっと事態が動くわ)
早く収拾を付けなくては。そう思いながら、自身を取り巻く紅蓮の神威と共に転移した。
◆◆◆
視界がブレたと感じた次の瞬間、周囲の景色が変わった。
天井、壁、床、調度品。艶めく黒を中心とした色彩で固められた中に、ところどころ落ち着いた色彩の赤が咲いている。黒みがかった蘇芳《すおう》色だ。
(普通の内装だわ。イデナウアー様は元人間だものね。いえ、聖威師が昇天していることを聞いて、合わせて下さっているだけかもしれないけれど……)
悪神の領域なので恐ろしい所かと思っていたが、そうでもなかった。悪神三兄弟――葬邪神と疫神とラミルファは、聖威師や元聖威師用に一部内装を変えてくれているそうだが、イデナウアーも同様なのだろうか。あるいは、彼女自身が元聖威師なので、嗜好や感覚が人間寄りなのか。
(だからこそエアニーヌたちも、普通の神だと勘違いしてしまったのかしら)
もしもガッツリ悪神仕様の内観だったなら、イデナウアーがまともな神ではないと察していただろう。だがこの程度であれば、『花の神にしては黒が多いが、元々黒を好むのか定期的に色を変えているのか、あるいはこの区画は黒なのかもしれない』などと自己解決できる範疇だ。花神に寵を受けたと舞い上がった彼らは、きっと自分に都合が良いように物事を考えてしまっただろうから。
『ようこそお越し下さいました』
可憐な声が場を震わせた。振り向けば、十代半ば頃の見目をした少女が佇んでいた。ドレスのように艶やかな神衣を纏っている。流れ落ちる髪は薄くけぶるような黄金、双眸は霞を纏った春空のような淡青。触れれば溶けてしまいそうな、砂糖菓子のような美貌。
説明が無くても分かる。この少女神がイデナウアーだと。何故なら、フルードとアリステルに重なる面影を持っているからだ。
(この方がレシスの先達。私の、私たちの祖神。一番最初に奇跡の聖威師になった存在で、原初の聖威師の一。太古の地上を生きていた元人間)
フレイムの後方に控えたアマーリエは、失礼にならない程度に少女神を観察する。背が低いことに加えて装束が女性用なので、一見して女神と分かりはするが、不思議と中性的な麗姿を持っていた。男物の衣を纏ったならばあどけない少年にも見え、大人びた装いをすればとても小柄な青年にも見えるような。
ピィピィと囀る神官たちを両断し、フレイムが思念を発した。念話がにわかに活気付く。
《焔神様、アマーリエ、お帰り。待ってたんだよ。何だかもう聞いているのも嫌になって来て、さっさと終わらせたいと考えていた。レアナが必死に止めるから我慢していたけど》
《私もフェルがずっと袖を掴んでいるゆえ、耐えていた。だが、あと少し遅ければ、この姦しい神官たちを海の藻屑にしようと思っていた》
フロースとウェイブが歓迎の声を送って来る。他の神々も、喧しい2人にいい加減にうんざりしていたはずだ。
《中座してしまい、申し訳ございません》
《客ってのは花神様だ。セインとアシュトンが呼んでくれたんだ。今からイデナウアーの領域に連れて行く。本物を見りゃバカ共も現実を思い知るだろ》
タイミングをピタリと合わせ、ラミルファが唇を動かした。
『イデナウアーからどうぞお越し下さいと返事をもらったよ。花神様を含め、聖威師と主神様と関係神、大勢で行くかもしれないと言っておいたから、セインやランドルフ、リーリアたちも行ける』
世話焼きな邪神はオプションも充実していた。
《よっしゃ、ラミルファがイデナウアーに訪問許可を取ってくれた。俺たち全員で行けるようにしてくれたってよ。行こうぜ、んでこのアホ騒ぎにカタを付けるんだ》
《ちょっと、さっきから何を言って》
エアニーヌの困惑した声を無視し、神々や聖威師が一斉に応の声を返す。
『行こうぜユフィー』
『お気を付けて。骸邪神様、セインを頼みましたぞ』
フレイムと花神、そしてラミルファを順に見ながら、狼神が言う。彼はここから動くつもりがないようだ。アマーリエはモフモフの巨躯に一礼して辞去の挨拶を述べ、差し出されたフレイムの手を取った。
(やっと事態が動くわ)
早く収拾を付けなくては。そう思いながら、自身を取り巻く紅蓮の神威と共に転移した。
◆◆◆
視界がブレたと感じた次の瞬間、周囲の景色が変わった。
天井、壁、床、調度品。艶めく黒を中心とした色彩で固められた中に、ところどころ落ち着いた色彩の赤が咲いている。黒みがかった蘇芳《すおう》色だ。
(普通の内装だわ。イデナウアー様は元人間だものね。いえ、聖威師が昇天していることを聞いて、合わせて下さっているだけかもしれないけれど……)
悪神の領域なので恐ろしい所かと思っていたが、そうでもなかった。悪神三兄弟――葬邪神と疫神とラミルファは、聖威師や元聖威師用に一部内装を変えてくれているそうだが、イデナウアーも同様なのだろうか。あるいは、彼女自身が元聖威師なので、嗜好や感覚が人間寄りなのか。
(だからこそエアニーヌたちも、普通の神だと勘違いしてしまったのかしら)
もしもガッツリ悪神仕様の内観だったなら、イデナウアーがまともな神ではないと察していただろう。だがこの程度であれば、『花の神にしては黒が多いが、元々黒を好むのか定期的に色を変えているのか、あるいはこの区画は黒なのかもしれない』などと自己解決できる範疇だ。花神に寵を受けたと舞い上がった彼らは、きっと自分に都合が良いように物事を考えてしまっただろうから。
『ようこそお越し下さいました』
可憐な声が場を震わせた。振り向けば、十代半ば頃の見目をした少女が佇んでいた。ドレスのように艶やかな神衣を纏っている。流れ落ちる髪は薄くけぶるような黄金、双眸は霞を纏った春空のような淡青。触れれば溶けてしまいそうな、砂糖菓子のような美貌。
説明が無くても分かる。この少女神がイデナウアーだと。何故なら、フルードとアリステルに重なる面影を持っているからだ。
(この方がレシスの先達。私の、私たちの祖神。一番最初に奇跡の聖威師になった存在で、原初の聖威師の一。太古の地上を生きていた元人間)
フレイムの後方に控えたアマーリエは、失礼にならない程度に少女神を観察する。背が低いことに加えて装束が女性用なので、一見して女神と分かりはするが、不思議と中性的な麗姿を持っていた。男物の衣を纏ったならばあどけない少年にも見え、大人びた装いをすればとても小柄な青年にも見えるような。
10
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング3位、ありがとうございます。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる